267、シーヴォルディス聖国
滞在二日目は丸一日の自由時間を謳歌してリフレッシュし、その翌日には街を出た。またしばらくは大きな街がないらしいので、粛々と先に進むだけの日々だ。
「やっぱりルーちゃんがいるから、気づかれると目立ちますね」
昨日の観光を思い出していた私は、リューカ車の中で思わずそう呟いた。
昨日はパメラとレジーヌ、ヴァネッサ、それからシュゼットなど女子チームで観光をしたんだけど、どうしてもルーちゃんの存在に気づかれてしまうと騒ぎになりかけ、その度に場所の移動を余儀なくされたのだ。
精霊はどこにでもいるから意識の外にある人が多くて、誰にも気づかれてないうちは自然と雑踏に溶け込めるんだけど、誰かが気づいてザワザワしだすともうダメになる。
創造神様の加護はありがたいし仕方のないことだけど、ちょっとだけ窮屈さを感じてしまった。
アレンドール王国だと街の人たちも慣れてきてるから、そこまで騒ぎになるようなことはないんだけどね……やっぱり母国が一番だ。
「創造神様の加護を持つ存在などいないからな。仕方がないことだろう」
ダスティンさんのその言葉に、私は頷いた。
「そうですよね。受け入れます」
そんな話をしていると、休憩時間となったのかリューカ車が止まる。車から降りてレジーヌたちの護衛の下で体をほぐしたりしていると、穏やかな微笑みが逆に怖いティモテ大司教がこちらにやってきた。
「レーナ様、何かご要望はおありでしょうか」
ティモテ大司教は巨木関係の打ち合わせを街の教会関係者と済ませたからか、また私に意識が向いているのだ。私が巨木を作ったことがよっぽど大きなことだったのか、それとも一周回ったのか、なんだか穏やかに仕えてくれる感じになっている。
多分また、元に戻るんだとは思うけど。
「いえ、何もありません」
「かしこまりました。いつでも、どんなことでも仰ってください」
「……ありがとうございます」
「いえ、私は神に仕える存在ですから。レーナ様は私をお好きなように使うことができるのです」
それからもいくつか会話をして、ティモテ大司教は粛々と下がっていった。しかし私の声が届く範囲で、静かに待機しているけど。
――早く、アレンドール王国に帰りたい。
心からの本音だ。
「今回の休憩は短めで終わりにします〜!」
カディオ団長のそんな声掛けが聞こえて、私はまたリューカ車の中に戻った。
そうしてシーヴォルディス聖国をひたすら目指し、私たちはついに聖国へと辿り着いた。後半は特に順調な旅路で、トラブルなどは発生していない。
「ここが、シーヴォルディス聖国……」
聖国は大聖堂を中心に円形に広がった街で、その街が聖国という一つの国であるという形だ。宗教国であり、この街とその周囲にある少しの領土以外は持っていない。
そんな聖国は街全体が真っ白な外壁に囲われていて、私たちは外門を通って中に入った。
「これは、凄いですね」
街中の建物全てが、教会と同じような白を基調としたものになっているのだ。というよりも、細部まで全く同じ建物がいくつも連なってた。
多分、意図して街全体が管理されてるんだろう。
そんな街を歩く人たちも全員が祭司服のようなものを着ていて、無数に並ぶ同じ建物に同じ服装の人たち。私の目には、どうしても異様な光景に映ってしまった。
熱心に信仰してる人にとっては聖地なんだろうけど、私はどうしてもそこまで宗教にのめり込めないんだよね……やっぱりそこは、日本人としての考え方が強いのだと思う。
私は日本人だった頃、その時々で都合の良い神様を信仰するような感じでやってたから……お正月は神社で神様にお祈りするし、旅行でお寺に行けば仏様を拝んでみたり、クリスマスもお祝いして、お天道様が見守ってくれるなんて自分を鼓舞してみたり。
特定の神様をずっと信仰し続ける、みたいなのが性格的に向いてないのだ。創造神様の加護をもらってる私がこんな考えでいいのかなとは、少し思うけど……。
「建物の外観や服装まで定められているのだろうが、ここまで徹底されているのは素直に凄いな」
「この街では、ダスティン様を着飾る楽しみがありませんね……」
聞こえてきたクレールさんの呟きに、街の様子に圧倒されていた雰囲気が一気に緩んだ。この街の景色を見てまず浮かんでくる感想がそれというのが、ダスティンさん至上主義が極まっている。
「クレール、私は別に着飾るのが好きではないからな?」
ダスティンさんが呆れたようにそう言った。そんなやり取りに笑っていると、少し景色が変わったようだ。
お待たせいたしました。
また本日から更新していきますので、楽しんでいただけたら嬉しいです!




