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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
最終章 救世編

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266、レーナとダスティンさん

 ダスティンさんが自分用のお土産を買ったのかと問いかけてくれたので、実は一番高かったものを紹介することにした。


「もちろん買いました。これ、見てください!」


 私が差し出したのは、金色の球体だ。実はあの精霊の置物に金色がなかったので自分用は諦めていたんだけど、怪しい雑貨店みたいなところで金色のものを見つけたのだ?


 厳密には精霊の置物じゃなくて、本物の金でコーティングされたただの球――使い道は不明。らしいんだけど、見た目は精霊の置物にそっくりだったのでつい買ってしまった。


 この短期間で、すでにあの置物に愛着が湧き始めてることには目を瞑りたい。


「……なんだこれは?」

「ルーちゃんを模した置物です」

「……必要か?」

「必要ですっ。なんだか可愛く見えてきませんか? 部屋に飾ってあったらちょっとテンション上がる気がします」


 ダスティンさんは全く理解してくれないようで、ちょっと引いた感じの目を私に向けていた。


「……まあ、レーナがそれで良いなら構わんが、それはここで買う必要があるのか? もっと質の良いものを帰ってから作らせることも可能だろう」

「――確かに」


 私はつい同意しそうになって、すぐ首を横に振った。


「でも精霊の置物が流行ってるこの街で買うからこそ、お土産として思い出に残るんじゃないですか」

「そういうものだろうか」

「そういうものです。あっ、ダスティンさんも精霊の置物を……」

「いらん。先ほどから様々な店で見たが、全く惹かれない」


 悩むこともない即答に、私はつい不満げな表情を浮かべてしまう。今はそんなこと言ってるけど、実際に買って部屋に飾ったら、愛着が湧くかもしれないのに。


 そうだ、私が買ってダスティンさんの研究室に飾ってみる?


 良いことを思いついたと思っていると、ダスティンさんに軽く手刀を落とされた。


「今考えたことは却下だ」

「なんで分かるんですか?」

「レーナの考えてることぐらい顔を見れば分かると言っただろう? お前は分かりやすすぎるんだ」

「最近は貴族令嬢らしさも出せるようになったんですよ?」


 ただダスティンさんと話していると、つい素に戻ってしまうことが難点だ。特にダスティンさんと話す時は敬語だから、お嬢様言葉を忘れがちになる。


 お互いの立場的には、適度な距離感を保った方がいいんだけどね……なんて考えていると、いつの間にか近くに来ていたお養父様が笑顔で言った。


「二人は仲が良いのだな。思っていた以上だ」


 その言葉に私はドキッとする。お養父様は、私とダスティンさんが平民街でも知り合いだったことは知らないのだ。


「その、学院ではダスティン様の研究室に属していますから」


 パッと出てきた言い訳は、我ながら完璧だったと思う。お養父様は普通に受け入れて、頷いてくれた。


「そうだったな」


 するとそこで、ダスティンさんがちょうど良いとばかりに私に視線を向ける。


「そうだレーナ、少し研究に使えそうな素材選びを手伝ってくれ。いくつも良さそうなものを見つけたんだ。レーナの意見も書きたい」

「もちろん構いませんよ」


 お土産選びには一段落していたのですぐに頷くと、ダスティンさんは瞳を輝かせた。楽しげに口元を緩め、私の手を取る。


「よし、まずは向こうだ」


 ダスティンさんも魔道具研究に関することになると、私との距離感がバグるよね。そんなことを考えつつ、深く考えなくて良いかとダスティンさんに連れて行かれることにした。


「お養父様、私はしばらくダスティン様と買い物をしています!」


 少し距離ができていたけど声を張って伝えると、お養父様は笑顔で頷いてくれる。


「分かった。私はこの辺りにいよう」


 そうしてダスティンさんとクレールさん、さらに私の側近たちと共に、そこからは魔道具の素材探しとなった。まず向かったのは魔物素材が売っているお店だったけど、それは最初だけで、後は普通の素材を売っているさまざまなお店だ。


 植物の蔦やこの辺りでよく見られる木材、さらには動物の皮なんかも手に入れた。


「やっぱりアレンドール王国とは違う植生だったり、見たことのない動物がいたりするんですね」

「他国だから当然だろう。とはいえ、この辺りではまだ似通ったものが多いと思うがな」

「でもこの蔦とか、アレンドール王国にはないですよね。かなり頑丈で伸縮性があって、棘を綺麗に取り除けば優秀な素材になりそうです」


 ダスティンさんが一番興奮していた蔦を手に持ちながらそう告げると、ダスティンさんが早口になる。


「そうだろう? その蔦はまさに革命を起こすかもしれないぞ。基本的に頑丈なものは伸縮性が失われてしまい、伸縮性が高いものは脆くなるからな。この蔦はかなりの強度を持ちながらも伸縮性がある。むしろそれによって、よりこの蔦が頑丈になっているようにも見える。とても不思議で興味深い植物だ。まずはこの蔦を――」


 私は途中で早すぎるダスティンさんの話を聞くのをやめて、手の中にある蔦にぐいっと力を入れてみた。


 正直、私の力ではほとんど伸縮性は感じられないけど、多分力の強い人が伸ばそうとしたら少しは伸びると思う。このぐらいの伸縮度が、魔道具には使えるのかな。


 例えるなら、めちゃくちゃ強いゴムって感じ。一応この世界にはゴムみたいな素材もあって服に使われていたりするけど、それはあくまでも伸縮性がメインで力を入れすぎるとすぐに切れてしまうから、これは画期的なんだろう。


 例えばどういうものが作れるんだろう。パッと思いつくのは、パチンコみたいな武器とかで、実用的な魔道具は思いつかない。


 これはこの蔦がメインで使われる魔道具を開発するっていうよりも、今まで開発されてきた魔道具の部品を交換して、より良い改良をするためのものなのかな。


 可動部分とかに使ったら良さそうかも。


「レーナ、レーナ? 聞いているか?」

「はい。なんでしょうか」

「……次はあの店だ」


 ダスティンさんは私が聞いていなかったことが分かったのか胡乱な眼差しを向けてきたけど、今は次のお店への興味の方が強いようで、さっそく店主に話しかけていた。


 また後で、もう少し疲れてないときに、研究室でなら聞くのでごめんなさい。


 私は心の中でそう謝りつつダスティンさんの後に続く。そうして街での滞在は、何事もなく過ぎていった。

いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!

次の話でついにレーナたちがシーヴォルディス聖国に到着します。最終章のクライマックスに入っていくためいつも以上に展開を練りたくて、投稿は数週間後になるかもしれません。

少しお待ちいただけるとありがたいです。

(早めに更新できそうならします!)


最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。

少しだけお待ちください!


蒼井美紗

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