262、カフェへ
「うん、美味しい」
パメラの淹れてくれたお茶をゆっくりと口に運ぶと、その芳醇な香りと絶妙な温度につい感心してしまった。パメラの淹れてくれるお茶は、いつも絶品なのだ。
私の感想を聞いて満足そうに頷いたパメラは、忙しく宿の部屋を整え始める。お養父様とダスティンさんとお昼ご飯を食べに行く前に、片付けてしまいたいのだろう。
「そうだ、皆はお昼ご飯に食べたいものがある?」
ふと思いついて問いかけてみた。
侍女や護衛は主人が食べているお店の別部屋で交代で食事をするのが普通なので、私たちが選んだ食事が皆の食事となるのだ。
忙しそうなパメラじゃなくて護衛のレジーヌとヴァネッサに視線を向けると、二人は少し悩んでから答えてくれた。
「味の濃いものが食べたい気分です」
「できれば野菜を多めに食べたいですね。道中の食事はどうしても穀物と肉類が多くなりますから」
野菜と味の濃いものか……そうなると煮込み料理みたいなやつか、後はやっぱりラスート包みかな。あ、サラダが美味しいカフェもあり?
カフェなら味が濃いめのリゾットみたいなやつとかもあるはず。
「人気のカフェとかいいかもね」
私の決定に二人は目を輝かせてくれたので、正解だったようだ。
後はお養父様とダスティンさんの要望によってかな。
そんなことを考えて、しばらく休憩してから二人との昼食に向けて部屋を出たんだけど――昼食場所の決定権は、すぐ私に渡された。
「レーナが好きに決めてくれて良い」
「お二人は食べたいものなどないのですか?」
「別になんでも構わないよ。レーナが決めなさい」
なんだかんだ私に甘い二人に擽ったい気持ちになりながら、さっきレジーヌたちと話した通りカフェが良いと伝える。
すると反対されることは全くなく、そのまま決定となった。
「カフェか。それならば宿に着くまでの大通りに、テラス席もある大きなカフェがあったな」
「ではそこにしよう。リューカ車で向かうか、歩きで向かうか選べるが……」
お養父様の問いかけに、私はつい食い気味で答える。
「ぜひ歩きで!」
ずっとリューカ車に乗っているから、もはや歩きが恋しいのだ。リューカ車から降りて隣を走りたいと何度思ったことか。
私が公爵家の令嬢って立場じゃなければ、いくらでも走ったりできるんだけどね……それからティモテ大司教がいなければ、ちょっと空を飛んだりなんかも。
そんな自由な旅がしたいなと考えながら歩いていると、ダスティンさんが賑やかな通りを見て口を開いた。
「この辺りで土産物が買えそうだな」
「そうですね。お昼ご飯を食べたら、買い物をしてから帰りませんか?」
「そうしよう。息抜きも必要だ」
そう答えてくれたのはお養父様で、お養父様の瞳にも楽しげな色が乗っている。
「お養母様、リオネル、アリアンヌ、エルヴィールにはたくさんお土産を買いましょう。皆は何が好きでしょうか」
「そうだな……やはりヴィオレーヌは珍しいものだろうか。茶会などで話を優位に進められるようなものだったり、流行を作れるようなものに喜ぶのだ」
ああ、確かにお養母様は喜びそうだ。ふんわりとした控えめで優しい人に見えて、実は凄く貴族らしくてオードラン公爵家の利益最大化に多大な貢献をしてる人だから。
あのふんわり感に騙されてる人が多いんだろうな……いや、あの見た目も計算のうちなのかも。
でも、私はお養母様が大好きだ。強くて優しくてとても憧れる。
「お養母様には物に合わせて情報も必要ではないでしょうか。色々なお話を街の人から聞いたら楽しそうです」
「ふむ、情報か。それも一理あるな。土産物を買いながら意識して話を聞いてみよう」
「そうしましょう」
そんな話をしているうちに目的のカフェが見えてきた。お昼の時間よりも少しだけ遅かったので席は空いていて、私たちは店の奥にあった個室に案内される。
お金持ちとか高貴な人とか、そういう人用にある部屋なんだと思う。ちょっとテラス席が良かったなって気持ちもあるけど、仕方がないことなので、わがままは言わないことにした。
侍女や護衛がたくさんいるし、ルーちゃんもいるから、騒ぎになってしまう可能性があるのだ。
「こちらメニューでございます。お決まりになる頃に、またお伺いいたします」
「分かった」
なんだかおしゃれなメニューを覗き込むと、種類ごとにいくつもの料理が載っていて、メニュー表を見ているだけで楽しい。
ちなみに言葉については、アレンドール王国を出ても普通に通じるし、基本的には文字も読める。多分世界的に同じ教会が広がっているから、その影響で言語に関しては統一されたんじゃないかな……と思っている。
地域によってはその地域の言葉があったりするらしいけど、それは現地の人たちの間でしか使われないそうだ。
「どれにしましょうか」
私の問いかけに、まずはダスティンさんが答えてくれた。




