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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
最終章 救世編

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259、ついに巨木を去る

 雨上がりの早朝。チュンチュンという鳥の元気な鳴き声と共に見上げた青空は、とても綺麗で雄大だった。巨木は陽の光に照らされてキラキラと輝いている。


 皆が巨木の下から日の光の下に出てきていて、神々しく見える巨木を呆然と見上げているけど、その行動にも納得だ。


 この光景は、つい見上げちゃうのも分かる。


 大雨の中で力強く私たちを守ってくれる巨木も凄かったけど、日の光に照らされて輝く巨木はまた格別なのだ。


 巨木を作り出した私ですらその大きさに圧倒されていると、視界の端にティモテ大司教が映った。ティモテ大司教はなんだか必死な様子でひたすら祈っているけど、顔色が悪くて目が血走っているので、寝てないように見える。


 ティモテ大司教が苦手なことに代わりはないけど、ここまで信仰に熱心だとちょっと感心してしまうレベルだ。


 ただ今回ばかりはティモテ大司教たちだけじゃなく、他にも祈りを捧げている人がたくさんいる。


 やっぱり――


「やりすぎだった、かな」


 思わずそう呟いてしまった。


 こうして雨が上がってから全容を把握すると、さすがに大きすぎた。

 多分この大きさの木は、この世界でもかなり稀だと思う。もしかしたら人が住む場所には存在していないとか、そもそも世界最大の木だとか、そんな予感がする。


「さすがルーちゃんだね〜」


 もはや開き直ってそんな言葉を呟きながらルーちゃんに視線を向けると、ルーちゃんはなんだか嬉しそうに私の周りを飛び回った。

 ルーちゃんの動きに合わせて顔を動かしていると、こちらにダスティンさんが来るのが見える。


「おはようございます」

「ああ、おはよう。――しかし改めて見ると、あまりにも神々しいな」


 ダスティンさんは私に挨拶をすると、さっそく巨木を見上げながら呆れた表情を見せた。


「やっぱりそう思いますか?」

「これを見てそう思わぬ者はいないだろう。不本意だが、ティモテ大司教の気持ちが少し分かってしまう」

「そんな人がたくさんいるみたいなんです」

「そうだろうな……私も祈っておこう」


 それからはダスティンさん、そしてすぐ後にやってきたお養父様まで祈り始めてしまい、皆で巨木に祈りを捧げる時間が自然と始まった。


 私は自分で作った木だけど、大雨から私たちを守ってくれたことは事実なので、一応皆と一緒に祈っておく。創造神様の加護があるからこそ、今回の危機を乗り越えられたのも事実なので、創造神様にも感謝の祈りだ。


 ――私に加護を与えてくださり、ありがとうございました。


 心の中でそう呟いた瞬間、頬を柔らかい風が撫でた気がした。ハッと顔を上げたけど、特に誰もいないし何もない。風も、全く吹いていなかった。


 たまたま祈った瞬間だけ風が吹いたのかな。そんなことを考えていると、カディオ団長の声が耳に届く。


「皆さん、また天気が急変しても大変ですから、早く次の街に移動しましょう」


 その声かけによって祈っていた皆が顔を上げ、出発の準備を始めることになった。

 料理人さんたちが朝食の準備を始めてくれている中で、他の人たちは荷物や車の確認だ。さらにリューカやノークの体調も確認する。


 軽く朝食を食べて出発の準備が完全に整ったところで、ついに巨木の下を去る時が来た。


 私は皆さんからあらためて感謝を伝えられ、擽ったい気持ちでリューカ車に乗る。


 そして、ティモテ大司教は。


「必ずこの場所に戻って参ります! そして教会を設立し、皆で毎日祈りを捧げさせていただきます! それまでもう少しだけ、どうかお待ちください。この場を離れる私をお許しください! それから――」


 巨木にひたすら声をかけていた。結局朝食も食べずにずっと祈り続けていたティモテ大司教の必死さに、さすがに止める勇気を持っている人はいない。


 ティモテ大司教の叫びとも言えるような巨木への声かけが終わり、フラッと倒れかけたティモテ大司教が教会の人たちに体を支えられながらリューカ車に乗り込んだところで、ついに出発だ。


 隊列がまた進み出したところで、私は安堵の息を吐き出す。


「無事に次の街へ行けそうで良かったです。あの様子だとティモテ大司教はしばらく回復に時間がかかりそうですし、回復後も巨木に夢中になりそうですね」


 つい嬉しさが滲んでしまった私の言葉に、ダスティンさんが苦笑を浮かべながらも頷いてくれた。


「そうだな。しばらくレーナには平穏が訪れるだろう」

「そうですよね!」


 ティモテ大司教には私以外の信仰対象を作るといいのかもしれない。これからの対処法が分かって、なんだか心がとても軽い。


「次の街にはいつ頃着くでしょうか」


 街に着くのも凄く楽しみで、弾んだ声で問いかけた。

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