256、雨宿り
巨木を作ったのが私だということを隠せるとは思ってないけど、少しでも皆に紛れられるように、この先は普通にダスティンさんのリューカ車に乗って巨木まで移動する予定だ。
ドアをノックして声をかけると、クレールさんがすぐにドアを開いてくれた。魔法を使って中に雨や風が入らないようにしながら車に乗り込み、そこでやっと魔法を解除する。
「ふぅ、ただいま戻りました」
なんだか安心して肩の力を抜くと、さっそくダスティンさんに問いかけられた。
「意外と遅かったな。巨木はどうなったのだ?」
その問いに、私は笑顔で答える。
「問題なく巨木を作ることができました。遅かったのは、カディオ団長とシュゼットに話を通してたんです。この後は隊列全体で巨木の下に移動することになったので、このリューカ車も少ししたら動くと思います」
その説明を聞いたダスティンさんは普通に労ってくれるだろうと考えていたけど、なぜかビシッと固まってしまった。
不思議に思いながら顔を覗き込むと、ダスティンさんにも痛いほどの視線を向けられる。
「えっと、何かありましたか?」
「いや、今レーナの口から信じられない言葉が聞こえた気がしたのだが、隊列全体で巨木の下に移動すると言ったか? 一部の弱ってるリューカ、ノーク、そして雨漏りをしている車だけでなく?」
「はい。全体で移動しようと考えてます」
「それほどに、大きい木ということか?」
「もちろん、そうですよ? 皆が雨宿りできないとダメだと思ったので……」
もしかして、ダスティンさんのイメージでは弱ってるものだけとか、交代で雨宿りって感じだったのかな。それなら、かなりやりすぎたかもしれない。
でも、あのぐらいなら魔力も足りたし、全員が雨宿りできた方が良いだろうし……。
私はそこで考えるのをやめた。まあ、なるようになるよね。
「あっ、動き出しましたね」
少し誤魔化すように外へと視線を向けると、まだ変わらず酷い雨が降っていた。しかしこの雨から逃れられる手段があると分かっているからか、巨木を作る前よりも外の景色に気持ちが沈まない。
「はぁ……」
ダスティンさんが額を手で押さえてため息をついているし、クレールさんも呆れたような表情だけど、そんな二人の様子はとりあえず忘れることにした。
それからゆっくりと進むリューカ車に揺られていると、ある瞬間にパタッと雨音が遠ざかる。それに気づいて窓の外を覗くと、巨木の幹がはっきりと視界に映った。
「おお……」
自分でルーちゃんと一緒に作った巨木だし、しばらく眺めていたし、カディオ団長とシュゼットとも見に来た私でも、つい感嘆の声が溢れてしまった。
これは、ティモテ大司教がちょっと心配かも。今更そんなことを考える。
「レーナ、お前な……」
ダスティンさんも窓から外を覗くと、改めて大きなため息を吐いた。ゆっくりと進んでいたリューカ車が完全に止まったところでクレールさんがドアを開き、ダスティンさんが一番に降りる。
次に私が降りてクレールさんも隣に並び、三人で巨木を見上げた。
「何度見ても大きいですね〜」
「レーナ、さすがにこれはやりすぎだ。そんなふうに呑気に言っている場合ではないぞ」
「まあ確かに、私も少しやりすぎたかなって気がしてます。でもこれはただの大きな木なので、そこまで問題にはならないですよね?」
皆が驚いて、ティモテ大司教が騒ぐだろうけど、すぐに収まるだろうと高を括っていたのだ。しかしダスティンさんは、難しい表情で首を横に振った。
「いや、ここまで大きいとただの木という認識にはならないだろう。たとえ種類が普通の植物だったとしても、ここまで大きく育つことがこの木の希少性、特異性をそのまま示している」
そう言われると、その意見を否定できなかった。もしこの大きな木が日本にあったとしても、御神木とかって言われてた気がする。
「やっぱり、やりすぎましたね……」
「そうだな……」
私とダスティンさんがそんな話をしていると、他のリューカ車から続々と皆が降りてきた。
降りた皆は例外なく呆然と巨木を見上げ、やっと豪雨から解放されたリューカやノークは、ブルブルと体を振ったり大きく伸びをしたり、快適に過ごしている。
私は人に意識を向けるのはやめて、リューカやノークが弱る前に助けられて良かったと、そちらを喜ぶことにした。現実逃避とも……言うかもしれない。
遅い時間の更新となってすみません……。
楽しんでいただけたら嬉しいです!




