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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
最終章 救世編

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253、レーナの力

 深刻な被害が発生する可能性のある大雨に、私はどうすれば良いのかと必死に頭を働かせた。

 

 私にできることは……例えばルーちゃんの力を借りて巨大な傘を作るのはどうだろう。空間魔法の一つである透明な壁を作り出せる防御魔法なら、隊列全体に透明な屋根を作り出せる。


 ただ問題は、魔力が持つかどうかだ。多分――持たないよね。他に思いつく方法も全部、魔力量が問題だ。


 風魔法で雨を吹き飛ばし続けるのはさすがに厳しいし、土魔法で隊列全てを覆うような巨大な建造物を作るのも……この天気の中で崩れない頑丈なものって考えると、さすがに厳しいはずだ。


 そこまで考えたところで、ふと私の脳内に閃きが降りてきた。


「原因である雲を吹き飛ばせれば……」


 思わず呟いてしまうと、ダスティンさんに怪訝な表情を向けられた。しかし今は反応できない。凄く良い案を思いついたのだ。


 地上から風魔法を使って雲を切り裂き、少しずつ飛行魔法を使って上空に飛びながら何度も魔法を行使し続けたら、魔力が枯渇するまでにかなりの魔法を使えるはずだ。


 風魔法で吹き飛ばした雲がどうなるのか分からないけど、できる限り私たちの進行方向とは逆に、つまり今まで通ってきた道の方に雲を移動させたらどうだろう。


 もしかしたら、この場所では雨が止む!?


 閃きが脳内で明確にまとまり、私はその内容をダスティンさんに話した。


 すると――慈悲もなく却下される。


「それは止めるべきだ。昔からその手の研究は何度も行われているが、雲を吹き飛ばそうと強い風魔法を雲に当てると、ほとんどの場合で雨が悪化するからな」

「え、なんででしょうか」

「理由はまだ研究段階だ。しかしその作戦によって、より状況が悪化する可能性がある」

「うぅ……それは、試せないですね」


 さすがに悪化する可能性があると聞いて、強行はできない。今以上に雨が酷くなったら、それこそ被害が確実なものになってしまう。


 でもこのまま何もしなくても、いずれ被害が大きくなると思う。せめて何か、この事態を解決できなくても良いけど、少しでもマシにできないだろうか。


 風雨に晒されているリューカやノークだけでも、楽にしてあげたい。


 そこで、また私の頭に新たな閃きが降りてきた。


「ダスティンさん、植物魔法はどうですか! 私とルーちゃんなら巨木を作れると思うんです。その下で雨宿りはできませんか? 風も凌げるかもしれません!」


 巨木を作るにもたくさんの魔力が必要だけど、頑丈で巨大な建造物とか、風魔法で雨を吹き飛ばし続けるとかよりもずっと現実的だ。


 それに地面にしっかりと根を張る巨木なら、この風雨に負けることはないだろう。


 私の提案に考え込んだダスティンさんは……しばらくして頷いた。


「レーナが良いのであれば、実行してもらえると助かる。特にリューカやノークにとっては、その木が命綱ともなるだろう。しかし問題はあって、ティモテ大司教がまたうるさくなることが予想されるが……」


 あ、確かに。また泣きながら祈りを捧げそうだ。そして作り出した巨木は神木とか言い始めそう。


 でも、それもありかもしれない。この辺は全然街や村がないから、発展すれば旅人の苦労が減るだろう。


 ティモテ大司教については、かなり今更だし……。


「リューカやノークの命や私たちの安全の方が大切なので、巨木を作ってきます。ティモテ大司教からは……今まで通り守っていただけたら嬉しいです」


 わざとらしくニコッと笑みを浮かべてみると、珍しくダスティンさんが自然な笑顔を見せてくれた。


「分かった。そちらは任せておけ。この危機への対処は頼んだぞ」

「はい。任せてください!」


 そうして巨木を作ることに決めた私は、まず場所を定めるため外に出ることにした。

 自分だけを雨から守るのならそんなに魔力は使わないので、風魔法で体全体を覆って雨が当たらないようにしてから、そっとリューカ車を降りる。


 馬車の外の様子は酷い雨であまり見えなかったけど、騎士さんたちの姿は近くに確認できなかったので、多分ほとんどの人が車の中に避難できてるんだと思う。


 ただちらほらと、騎士の外套を風で飛ばないよう全身に巻かれたノークが、辛そうにその場に座り込んでいた。


 その光景に胸を痛めつつ、急いで街道沿いの草原に向かう。巨木の根でせっかくの整備された街道が通れなくならないように、目指すのは少し離れた場所だ。


「この辺かなぁ」

 

 正直雨が酷すぎて周囲の様子がよく確認できないけど、この辺りにあるのは何もない草原だけなので、どの場所でも大きな問題はないはずだ。


 私は巨木を作る場所に立ち止まると、まずはどんな木にしたいのかを明確にイメージした。とにかく太くて頑丈で、樹齢何百年って感じの大木だ。


 アニメとかに出てくるような、どこか神聖さを感じるような、自然の力に圧倒されるほどの巨木。


 ――ルーちゃん。この場所に巨木を作って欲しいの。この風雨に負けない強い木で、私たちを守ってくれるような巨大な木ね。この場所でも永く強く存在し続けられる種類で、幹の太さは人が十人で手を伸ばしても一周できないぐらい。葉っぱがたくさん生い茂っていて、この雨の中でも雨宿りができるような木が良いな。


 それからも私は、脳内にあるイメージをルーちゃんに伝えるために力を尽くす。

 最後まで私の願いを聞いてくれたルーちゃんは、いつも以上に張り切った様子で私の周りをぐるぐると回り――目の前の地面にそっと触れた。

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