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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
最終章 救世編

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245、行ってきます

 持ち運びやすいように小さめなクッキーにしようということになり、私たちは家族皆でクッキーの成形をした。お父さんは大きな手で頑張っている。


「このぐらいの大きさでいいか?」

「うん、良いと思うよ」


 ちょっと大きいけど、歪なのも手作りの醍醐味だよね。


 そう思いながら、私もハートや星型だったり、別の形を作ってみる。今食べるものならどんな形でも問題ないはずだ。


「レーナは昔から可愛い形を作るのが得意ね」

「凄いよな〜」


 お母さんとお兄ちゃんから褒められて、なんだか嬉しくなった。日本人だった頃の記憶のおかげだけど、それも私の一部だ。


「ミューも作ってみようかな」

「動物はさすがに難しいんじゃない?」

「そうかな……頑張ってみるよ」


 私は日本で食べた動物型のお菓子を思い出して、まずはミューの顔の輪郭から作り始めた。ミューは子犬とそっくりな動物だ。


 可愛らしい耳の形にはこだわって、目と口を作る。さらに胴体を作って顔をくっつけ、足も四本しっかりと追加した。


 うーん、多分可愛い、と思う。


 とりあえず焼いてみようと、私はそのクッキーをトレーの上に載せた。他のクッキーよりかなり大きくなっちゃったけど、厚さは同じぐらいなので火は通るはずだ。


「よしっ、これで最後かな」


 皆の手元を確認すると、もうクッキー生地は残っていなかった。


「ああ、終わりだな。……それよりもレーナ、そのミューは焼くと可愛くなるのか?」

「えっと……多分」


 焼いたら丸みを帯びて良い感じになるんじゃないかな、という期待を寄せている。ちょっと微妙な出来かもしれないという気持ちには、無視をすることにした。


「まあ、とりあえず焼いてみればいいだろ!」


 お父さんがそう言ってくれて、さっそくクッキーを焼くことになった。オーブンにセットしてスイッチを入れる。


 焼けるのを待ってる間に、明日持っていくクッキーを包装するための籠や布を準備していると、さっそく良い香りが漂ってきた。


「美味しそう……!」

「もう焼けたのか? 早く食べたいな。なんだかお腹が少し空いてきたぞ」


 お父さんがオーブンの近くに行って、うろうろと落ち着かなく動いている。そんなお父さんのところにお母さんが向かった。


「一度中を見てみましょうか」


 二人の仲の良さを微笑ましく思いながら準備を進めていると、クッキーが焼き上がったみたいだ。

 金属製のトレーをお父さんが取り出してくれて、皆で覗き込むと……そこには美味しそうな焼き立てクッキーと、なんだか不気味な物体がある。


「ちょっ、ちょっと失敗しちゃったかな……」


 不気味な物体は、私が作ったミューのクッキーだ。顔が歪に崩れて、体もなんだかエイリアンみたいな……。


 つい、顔が引き攣ってしまう。


「ま、まあ、食べれば美味しいよな」


 お兄ちゃんがフォローしてくれるけど、それは裏を返せば見た目では美味しく見えないという意味だ。


 それには全く反論できない。


「そうだよね。これは私が食べるよ」

「いえ、どうせなら皆で分けて食べましょう?」

「そうだぞ。俺はレーナが作ったものならなんでも食べたい!」


 優しいお母さんと娘が好きすぎるお父さんによって、その場の雰囲気が一気に緩んだ。


「ありがとう。じゃあ、皆で食べよっか」


 それからは皆で楽しく、焼きたてのクッキーを楽しんだ。形は微妙でも味は美味しく、幸せになれる。


「レーナのクッキー、美味しいな!」


 お兄ちゃんは大きなクッキーだと満足度が高くて良いのか、私が作ったミューのクッキーをわざわざ選んで食べてくれた。


「良かったよ。今度は大きめのクッキーを作ってみるのも良いかもね」


 クッキー自体はあんまり甘くせず、ジャムを挟んだりしても美味しいかもしれない。後はクリームを挟むのもありかな。日本にはよくあったけど、この国ではまだ見たことがない気がするから、新しいレシピになるかもしれない。


 この国のクッキーって日本のものよりビスケットに近いというか、サクサク感が強くなりがちだから、ジャムとかは合うはずだ。


 後はチーズがあったらさらにバリエーションが増えそうだけど、まだ粉チーズに似たものしか、この国では見つけられてないんだよね……。


 どこかにクリームチーズみたいなものがないかな。そうだ、どうせならシーヴォルディス聖国までの道中で、いろんな食材を探してみるのもありかもしれない。


 私の中でそんな楽しみが生まれたところで、家族との楽しい時間は終わりとなった。


「じゃあ、残りは包装しちゃいましょうか。レーナ、一応早めに食べるのよ」

「うん。そうするね」


 私が持っていくクッキーの包装は三人が手分けしてやってくれて、私は皆の心がこもったクッキーを受け取る。


 そしてその日の夜は幸せな気持ちで眠りにつき――



 翌朝、離れを出る時間となった。


 私は家族三人と向かい合って、皆と順番に笑い合う。そして涙は見せずに伝えた。


「じゃあ、そろそろ行くね」

「ええ、行ってらっしゃい」

「気をつけるんだぞ」

「すぐに帰ってこいよ」


 お母さん、お父さん、お兄ちゃんの言葉に頷き、笑顔で手を振る。


「うん、行ってきます!」


 離れを出た私の心には寂しさもあるけど、それ以上に何だかやる気に満ち溢れていて、とても晴れやかだった。


 遠征を頑張ろう。そして絶対に無事で帰ってこよう。改めてそう心に誓った。

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