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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
最終章 救世編

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244、束の間の楽しい時間

 シーヴォルディス聖国を訪問するときの私の安全確保について考えると、アレンドール王国の貴族として訪問するというのはかなりの安心材料だ。


 だから危険なんてないと思いたいけど……最初の教会でのことやティモテ大司教の様子を見るに、現状でも完全に安心はできない。油断は禁物だ。


 私が危険に陥るとしたらどんな時なのか、どうやって危機を回避、または排除できるのか。そんなことに思考が巡りそうになったところで、お父さんに問いかけられた。


「出発はいつなんだ?」

「えっと、五日後だよ」


 すぐに答えると、お兄ちゃんが一番に反応する。


「そんなにすぐなのか!」

「うん。シーヴォルディス聖国までの道中で、時期によっては危険になる場所があるらしいの。だから早めに出発したいってことになって」

「確かに季節は大切ね」

「そうか……じゃあ仕方ないな」

「危険は避けるべきだな」


 天気が生活の難易度に直結していたスラムでの暮らしが長かったからか、皆はすぐに納得してくれた。


「うん。五日もあれば準備は問題なく終わると思うし、どうせ避けられないなら早めに終わらせたいから、五日後に行ってくるよ」

「そうね」


 短くそう告げたお母さんはソファーから立ち上がると、両手をポンっと合わせて空気を変える。そして笑顔で言った。


「じゃあ、今夜はここに泊まっていけばいいわ。皆でクッキーでも焼きましょう」


 その提案に食い気味で賛成したのはお父さんだ。


「それはいいな! レーナ、戻らなくても問題ないか?」


 今夜はこれ以上の予定はないし、明日も急ぎの予定はない。今まで離れに泊まるときは事前にお養父様とお養母様に報告してたけど……今回は例外として急な泊まりも認めてくれるかな。


 多分明日から出発日までは色々と忙しくて、出発前にゆっくり会えるのは今日が最後だと思うから。


「パメラたちに報告すれば大丈夫だと思う」

「よしっ、じゃあさっそくクッキーを作るぞっ」


 お父さんが嬉しそうに立ち上がった。お兄ちゃんもやる気満々で、さっそくお母さんは材料の準備を始めてくれる。


 そんな皆を横目に本館に続く廊下側のドアを開けると、パメラたちが待機してくれていた。泊まりたい旨を伝えると、すぐに受け入れてくれる。


「かしこまりました。ではレーナお嬢様、明日の朝に迎えに参ります」

「ありがとう。皆もゆっくり休んでね」

 

 そうして明日の朝まで時間を確保したら、さっそくクッキー作りだ。


「何味のクッキーにする? おしゃれに茶葉とか入れるのはどうかな」


 準備を進める皆の下に向かいながら問いかけると、お父さんが茶葉が入った缶を掲げ持った。


「そう言うと思って準備してあるぞ」

「さすがお父さん!」

「あとはドライフルーツ入りも作ろうぜ」

「私はナッツがいいわ」


 皆が好きなものを好きなように入れていくことになりそうだ。いろんな種類が食べられることを嬉しく思いながら、お母さんが材料を投入しているボウルを覗き込んだ。


 そこではさっそくクッキー生地が出来上がり始めていて、お兄ちゃんが上手く混ぜ合わせている。


「結構材料を多めに入れたんだね」

「ええ、クッキーならば日持ちするもの」

「確かにそっか。……シーヴォルディス聖国への道中で、おやつとして食べる用に持っていこうかな」


 何気なく呟くと、お母さんが笑顔で頷いた。


「それ、いいじゃない。もっと数を作りましょう。旦那様も召し上がるかしら」


 皆が言う旦那様は、お養父様のことだ。


「食べると思うよ。あとはダスティンさんもいるから、食べてくれるんじゃないのかな」


 何気なくダスティンさんの存在を伝えると、お父さんが過剰に反応した。さっきまではニコニコ笑顔でクッキー生地と私を交互に見つめていたのに、ぐわっと瞳を見開く。


「またいるのか……!」


 最初に私が街の外に行った時の同行者がダスティンさんで、学院の研究室はダスティンさんのところ、さらに人型魔物との戦いでも共闘して――と色々な場面でダスティンさんがいるからか、お父さんはちょっと嫉妬しているのだ。


「ダスティンさんは王族だからね。陛下と王太子殿下が今回の訪問に同行するわけにはいかないし、必然的に同行者は決まるんだよ」


 そう事実を伝えると、お父さんは悔しそうに歯噛みする。


「それを言われたら何も言えん……!」

「はははっ、父さん諦めろ。そんなことより、その茶葉をこっちに入れてくれ」


 お兄ちゃんがお父さんを適当にあしらい、お父さんはまだ悔しそうにしながらも大切に抱えていた茶葉を、分けたクッキー生地の一つに入れた。


「レーナ、量はこのぐらいか?」

「そうだね。ちょうど良いと思う。さすがお父さん!」

「……まあな。レーナのことならなんでも分かる。なぜなら俺は父親だからな!」


 私の言葉一つで機嫌が急上昇するお父さんに、思わず笑いそうになってなんとか耐えた。お兄ちゃんは吹き出していて、お母さんに汚いでしょと怒られている。


 ただそれにしても、お父さんは私が絡むと思考が働いてないけど大丈夫なのかな。私の名前を出されるだけで、誰かに騙されそうだ。


 そんなことを考えていたら、いろんな種類のクッキー生地が出来上がった。あとは成形して焼くだけだ。

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― 新着の感想 ―
町暮らし時代にお母さんが隣にいない時を狙ってお嬢さんにこんなリボンが似合いますよー、あんなスカーフが可愛いですよーってやってくる商人が居なくてよかった…
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