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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
2章 貴族編

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234、商隊の現状

 ニナさんに髪紐を付けてもらった私とお母さんは、結局気に入ったものを三本ずつも買ってしまった。やっぱり試着とか試食とか、そういうことをすると欲しくなるよね。


 ただお母さんが凄く嬉しそうだから、決して無駄遣いではない。

 私にこのシンプルで素朴な髪紐をつける機会があるのかとはちょっと思うけど……そう、あれだ。夜寝る前に私室で使うから問題ない。


 心の中でそんな言い訳をしながら、選んだ髪紐を手にして嬉しい気持ちになっていると、お母さんはさっそく次の目当てである調理器具を選び始めた。


「フライパンを一つ買い換えようかと思っていたんです」

「そうなんですね。でしたらこのフライパンおすすめですよ! 普通のフライパンよりも短い時間で焼けるのに、焦げにくくて――」


 お母さんの対応をしているのはポールさんだ。ポールさんはさすが料理もするだけあって、調理器具への知識は多いらしい。

 お父さんとお兄ちゃんの雑貨購入は終わったみたいで、二人も一緒に調理器具を選ぶようだ。


「レーナ、そろそろ買い物は十分だったら、こっちで話さないか?」


 私はどうしようかなと視線を彷徨わせていたら、ジャックさんに声をかけられた。


「うん、もちろん」


 買い物には満足していたので、すぐに頷く。


 ジャックさんが示したのは、ギャスパー様のところだった。いつの間にかソファーの端に移動していたギャスパー様の向かいに腰掛けると、ジャックさんはスツールを持ってきてテーブルの端に腰掛ける。


 三人とも落ち着いたところで、まず口を開いたのはギャスパー様だ。


「最近の生活はどうだい? 以前とは変わった部分も多いのかな。ゲートの出現に伴って生活が変わっているらしいけど……」


 ギャスパー様が心配そうな表情で口にした言葉に、私は少し驚いてしまった。なんでゲートのことを知っているのかと思ったのだ。


 しかし、すぐ理由に思い至る。


 今やロペス商会はオードラン公爵家だけじゃなくて、他にも多数の貴族家と取引をしている商会だ。どこかの家でゲートのことを聞いていてもおかしくないし、特に食品を売るロペス商会は、その変化を敏感に感じ取れるのだろう。


 貴族街の雰囲気も以前とは全く違うから、少なくとも何かがあったのは確実に分かるはずだ。


「……かなり混乱している最中だと思います。とはいえ私たちにできることはなくて、屋敷で大人しくしているだけなのですが」

「やはりそうなんだね。ノルバンディス学院も休みになっていると聞いたよ」

「そうなんです。出かけるどころか庭も危ないという感じなので、まだ今後のことは分からないですね」

「大変なことになったね……」


 私の返答にギャスパー様が難しい表情で視線を下げると、次はジャックさんが口を開いた。


「何の前兆もなくゲートが開くというのは本当なのか?」


 その問いかけに頷いても良いのか少し悩んだけど、もうこの質問が来る時点でかなり情報は漏れているのだろうと思い、ゆっくりと頷く。


「うん、本当に突然のことだったよ。ただこのことは内緒にしてね」

「……分かった。前兆もなく街中に突然ゲートが現れるなんて、本当にヤバいな。ただその事態を目の当たりにしてないと、本当にそんなことが起こるのかと半信半疑だが」

「まあそうだよね。私も時間が経つほど、現実感が薄れてるから」


 たまにあの出来事は夢だったんじゃないかと思うのだ。それほどに常識から外れた、信じられない出来事だった。


「そうだ、平民街は今まで通りなの? 情報を広めてないとは聞いたけど」

「ああ、基本的にはいつも通りだ。ほとんどの人が街中でのゲート出現なんて知らないからな。ただ俺らみたいに貴族街と関わりがあって知ってる人もいて、そういう人たちはかなり警戒してる」

「それから、少し流通にも変化が生じてるんだ」


 ギャスパー様が低い声音で発した言葉に、私は何だか強い不安感を覚える。小さく深呼吸をして、その意味を問いかけた。


「それは、ゲート出現に関係があるのですか?」

「詳しいことはまだ分からないけど、いくつもの商隊に遅れが出ていたり、そもそも流通が完全に止まっている区間などもある。その理由は、ゲート出現というのがほとんどだよ」

「……ゲートの出現による流通の停止は、普段からよく起こるのでしょうか」

「いや、ほとんどないことなんだ。それこそ数年に一度程度のはずなんだけど……」


 数年に一度ほどしか起きないような事態が、いくつもの商隊に発生している。その事実に、漠然と感じていた強い不安感が形を持った。


 この街だけじゃなくて、世界的にゲートの出現が頻発してる?


 そう考えた瞬間にゾワっと背筋が寒くなり、無意識に自分の腕を摩った。ただの偶然だと思いたい。今まで通りの平和に戻って欲しい。


「その事実は、どこかに報告をしていますか?」


 現実逃避をしたくなったけど、辛い現実から目を逸らしても結局は後で大変なことになるのだ。私は唇を噛み締めながら問いかけた。


「一応役所などに報告済みだから、どこかで止まっていなければ王宮まで届いてると思う。ただ少し不安もあるから、もしレーナが確認できるならお願いしても良いかい?」

「もちろんです。お養父様に確認しておきます」


 これはすぐに確認しよう。多分王宮は把握してると思うけど、意外と上まで情報が上がるのが遅かったりするから。


「ありがとう。頼んだよ」


 それからは不安な会話をやめて、商会の最新状況についてや平民街での流行など、いろんな話をして過ごした。


 ロペス商会の皆との時間は、とても楽しくて幸せだった。

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