233、買い物の続き
たくさんの木皿が並ぶ様子を楽しそうに見つめたお父さんは、さっそく深めのお椀のようなものを手に取った。
「この木皿、大きさがいいな。スープ用にどうだ?」
お父さんの問いかけに、お母さんが整髪料から木皿に視線を移す。
「確かに良いお皿ね。スープ用のものが古くなっていたし、全部入れ替えるのもありだわ」
「そうだよな。ただこっちの少し大きい方にすれば、他の料理にも使えて便利か?」
「それならスープ皿はこれに決めて、そっちの平皿も買った方が良いんじゃないかしら」
二人が真剣に悩み始めるのを聞き、お兄ちゃんも二人の下へ向かった。料理人目線も交えつつアドバイスをする。
「二人とも、皿の裏面も見た方がいいぞ。皿のバランスがよくないと使いづらいからな」
「あ、確かにそうね。アクセル、一度全部のお皿を机に置いてみて」
「分かった。レーナも選ぶか?」
いくつものお皿を抱えながらお父さんが問いかけてくれたので、私は頬を緩めながら頷いた。
この離れにあまり来ない私にも当たり前のように意見を聞いてくれて、本当に嬉しいよね。
「私はそのスープ皿、良いと思うよ。サラダとかにも使えるよね。あとはラスタを入れるのにも最適そう」
「お、確かにそうだな。じゃあルビナが言うようにスープ皿と、もう一つを選ぶのがいいか……」
「なあなあ、もう一つはこの皿なんてどうだ?」
それからも家族皆で話し合いを続け、結局私たちは三種類のお皿を買ってしまった。さらにお兄ちゃんが、なんだかおしゃれな小鉢もいくつも購入している。
「こういう皿につまみを入れるのが最先端なんだ」
そう言って笑うお兄ちゃんは楽しそうだ。やっぱり流行りは追いたくなるよね。
「では選ばれたものは、こちらに保管しておきますね」
ニナさんが笑顔でそう言ってくれて、私たちはお皿を託してまた別の商品に目を向けた。お母さんは中断していた整髪料と保湿液で、お父さんとお兄ちゃんは雑貨を見ている。
二人の手拭いや室内履きなどを選ぶ会話を聞きながら、私はお母さんの方に参加することにした。
「お母さん、良い香りのやつがあった?」
「ええ、全部がとても良い香りよ。特に整髪料はこれと、こっちが好みね」
お母さんが示した二つの香りを嗅いでみると、爽やかな柑橘系の香りと甘い花の香りだ。
確かにこの二つは悩むね……どっちも種類が違う良い香りで選べない。
「どっちも買っておいて、その日の気分で変えるのはどう? あっ、待って。これも良い香り。ちょっとスパイシーというか……お父さんとお兄ちゃんに良さそう」
「私には合わないかと思ったけど、確かに二人用に良いかもしれないわね」
今日は財布の紐が緩んでいるのか、お母さんは三種類の整髪料を手にした。そして次は保湿液を選ぶみたいだ。
保湿液は香りにそこまで違いはないけど、質感に結構な違いがあるらしい。水に近いさらっとした感じのもの、トロッとした重たい液体、さらにクリームような固いもの。
「お母さんはさらっとしたやつが好きなんだよね」
「ええ、ただ最近は手の乾燥が激しいのよ。だからもう少し保湿力が高いものを……」
そう言いながら三種類を腕に付けてみたお母さんは、クリーム状の固い保湿液を選んだ。
「これにするわ」
「良いね。……そうだ、お母さん。髪を括る紐が欲しいって言ってなかった? ここにいくつかあるよ」
何気なく他の商品を見回すと髪紐が視界に映り、その中でも特に目に入った赤色が目立つものを手に取った。多様な色に染められた細い紐を、いくつも編んで作られているものだ。
「あら、本当ね。素敵だわ」
「だよね。私も欲しいかも」
素朴な可愛さを持つ髪紐で、オードラン公爵家のレーナでは手に入らないようなタイプのもの。ドレスには似合わないけど、シンプルなワンピースには似合うようなやつだ。
「確かにレーナに似合いそうだわ」
「本当? じゃあ、買っちゃおうかな……」
「それなら、お母さんはこっちの色違いにしましょうか」
お母さんが手に取ったのは、青色が基本となった同じデザインの髪紐だった。確かにお母さんには青の方が似合うかな。
「絶対に似合うよ! こっちのシンプルなやつも良いんじゃない? せっかくならいくつか新調する?」
「確かにそうね。向こうの茶色のものも気になるし、どれが一番似合うかしら」
そう言ってお母さんが悩んでいると、ジャックさんが手鏡を取り出してくれた。さらにニナさんが笑顔でやってきて、提案をしてくれる。
「せっかくですから、付けて確認してみてください」
「では……ありがとうございます。お願いします」
「かしこまりました。レーナちゃんも付けてみる?」
「はい。私もお願いします!」
お母さんと私が頷くと、さっそくニナさんが髪紐と櫛を手に持った。




