224、聞き取り
私とカディオ団長、そしてシュゼットが立ち上がりながら三人を迎え入れると、まず口を開いたのは陛下だった。
「待たせたな」
「いえ、こちらこそご足労いただき感謝申し上げます」
「構わん。こちらから同席を願ったのだからな」
陛下とカディオ団長が会話をしながら、三人はすぐソファーに腰掛ける。
カディオ団長とシュゼットが一番下座のソファーに腰掛け、上座が陛下。ベルトラン様は横のソファーに腰掛け、ダスティンさんはベルトラン様の向かいである私の隣だ。
三人が入ってくると空気が引き締まる感じがして、さすが王族だなと思う。
実際に話してみると、特にベルトラン様やダスティンさんは親しみやすいんだけど、こうして王族三人が集まるとオーラがあるのだ。
陛下も、国王は向いてないから早く退位したいって考えてる人には見えないよね。
「ではカディオ、進行を頼む。本日の私とベルトランは見学だからな」
「かしこまりました。では聞き取りを始めさせていただきます。ダスティン・アレンドール様、レーナ・オードラン様、本日はご足労いただきまして感謝申し上げます。先日のノルバンディス学院で起きたゲート発生騒動に関して、いくつか質問をさせていただきます」
そうしてさっそく、私とダスティンさんへの聞き取りが始まった。
「まずゲートが現れた時の状況を教えていただけますか? 何か予兆はあったでしょうか」
カディオ団長の質問に、ダスティンさんが口を開く。
「私が観測できた範囲では、予兆は一切なかった。ゲートから空に伸びるいつもの光もなかったはずだ」
「私も予兆はなかったと思います。ゲートが出現する少し前に研究発表をしていて、上空から学院や王都、さらにその周辺まで見回しましたが、特に違和感はありませんでした」
あの時に見た景色は、とても綺麗で平和そのものだったのだ。まさかそんな平和が、少し後に壊れるだなんて想像もできなかった。
「そうですか、分かりました。では本当に突然、ゲートが現れたのですね」
「そのはずだ。ただ私たちはゲート出現の時には人垣でゲート自体が見えなかった。なので出現方法などは分からない」
私たちの言葉をカディオ団長とシュゼット、それぞれでメモしていく。素早くペンを走らせて、次に口を開いたのはシュゼットだ。
「ゲート出現からゲートが開くまでは、どの程度の時間が経過していましたか?」
「本当に短い時間だな。ゲートの周囲にいた者たちを安全に避難させる時間はないと判断し、多少の怪我人を許容してでもすぐに逃げろと叫んだほどだ」
「体感ではゲートが現れたという事実に困惑しているうちに、もうゲートが開き始めました」
今思い返しても本当に一瞬の出来事だった。これからもあんなゲートが出現するとなると、運良くゲート近くに戦える人たちがいない限り、ゲート周辺は酷く蹂躙されることになるだろう。
ゲートが出現した瞬間に騎士を呼びに行ったとしても、絶対に間に合わないスピード感だ。
「本当に脅威ですね……ではあの人型魔物が出現した時の状況を教えてください」
それからも人型魔物の攻撃パターンや動き方、思考や声など覚えていることを全て話した。そして質疑応答が終わったところで、カディオ団長が今度はダスティンさんだけを指定して問いかける。
「殿下は人型魔物の調査を進めていらっしゃると思いますが、何か成果はあったでしょうか」
その質問は私も気になって、横に座るダスティンさんの顔を覗き込むようにして視線を向けた。するとダスティンさんは人型魔物の調査が楽しいのか、分かる人には分かる楽しげな笑みを浮かべる。
「分かったことはいくつもある。まず形こそ人間と似ていたが、その内部構造は全く異なっていた。魔物と同じように魔石が存在しており、この魔石が今までに見たことがない大きさなのだ。その性能にも大きく期待できるだろう。また尻尾の素材が信じられないほどの伸縮性を兼ね備えており、強度もあることからさまざまな魔道具の素材として使えるはずだ。まさにフロッグ系魔物の皮とスネーク系魔物の皮の良いとこ取りをしたようなもので――」
ダスティンさんはよほど人型魔物の調査が楽しかったのか、かなり饒舌で、カディオ団長とシュゼットのメモが追いつかないほどの早口で喋り続ける。
そんなダスティンさんを止めたのは、苦笑を浮かべたベルトラン様だ。
「ダスティン、その辺に」
その言葉でハッと我に返ったのか、ダスティンさんはわざとらしい空咳をしてから人型魔物についての話をまとめた。
「つまり新種の魔物でありとても有用な素材を持つことが、現段階で判明している」
「ご説明ありがとうございます。では、私たちからの聞き取りはこれで以上となります」
ペンを置いて背筋を伸ばしたカディオ団長がそう宣言すると、最初の言葉通り見学に専念していた陛下がソファーの背もたれから体を起こした。
「重要な話が聞けたこと、ありがたく思う。本日は同席して良かった。しかし判明したのは……似たようなゲートへの警戒は無理だろうということだな。あまりにも出現からゲートが開くまでの時間が短すぎる」
まあ、そうなるよね……このゲートを警戒するとなると、王都中に等間隔で騎士を配備しないといけない。全く現実的じゃないし、それをすると戦力がばらけて、いざという時にゲートが出現した場所への派遣が遅れる可能性もありそうだ。
「先日の出来事には緘口令を敷き、幸いなことに大きな混乱は起きていない。現状ではこのまま秘密にし、情報収集に努めるのが賢明な判断であろう。今回のような事態は稀なことで、もう発生しなければ良いのだが……」
そう呟いた陛下の表情は、思わず息を呑んでしまうほどに厳しい。やっぱり陛下も、今回だけのイレギュラーで終わるとは考えていないんだね。
最近の不穏な事態の連続を思い出すと、何かが起きようとしてるって可能性の方が高いだろう。そしてその何かの影響で、今回のようなことが起きてるのだ。
「とりあえず他国にも情報提供を求めているので、また何か進展があれば皆にも伝えよう」
陛下のその言葉に皆で頭を下げ、今回の聞き取りは終わりとなった。他国からの情報提供で最近のイレギュラーな事態の原因が分かったり、今回のようなゲートの出現を防げるようになると良いけど。
そんな儚い希望を胸に、私は屋敷に戻った。
本日からガンマぷらす様にて、「転生少女は救世を望まれる」のコミカライズ連載が始まっています!
あぬ先生が漫画として面白くなるようとっても素敵に描いてくださっていますので、ぜひご覧ください。(本日は1話が配信されているのですが、無料でお読みいただけます)
よろしくお願いいたします!
蒼井美紗




