223、帰宅と王宮へ
「カディオ団長、避難した人たちが無事かは分かる? まだ学院内にいるのかしら」
疲れてるけど家族の皆やメロディ、オレリアたちが心配だったので、お嬢様レーナをなんとか表に出して問いかけた。
「そうだな……少し見てきた限りでは、大怪我をして倒れてるような者は見られなかった。避難誘導にも騎士を動員しているので、そこまで心配はいらないだろう」
団長の言葉に安心する。騎士が向かってくれているのなら、もう大丈夫だろう。
「それなら安心だわ。ありがとう」
皆が無事だろうことも確認できると、なんだか一気に疲れが増した気がした。やっぱり身体強化は使いすぎない方が良いね……無理して動くと反動がかなり来る。
もっと鍛えれば良いんだろうけど、まだ子供の体じゃそこまで鍛えられないし。
「騎士団はこれからどう動くんだ?」
次はダスティンさんが問いかけると、カディオ団長はそちらに視線を向けて答えた。
「しばらくはこの場所でゲートが再度出現しないか、見張ろうと思います。また魔物を王宮に運び、避難した者たちへの対応も行います。それからこちらは数日後になると思うのですが、お二人に詳しいお話を聞かせていただければと」
「分かった。私の方でも詳細をまとめておこう。いつでも声をかけてくれ」
「私も話せることは全部話します」
「ありがとうございます」
そうしてシュゼットとカディオ団長との話が終わりとなり、騎士たちが忙しく動き回る中、私とダスティンさんはそれぞれ家に帰ることにした。
もう疲れたから、とにかく寝たい。
「ダスティンさんは問題なく帰れますか?」
「ああ、迎えのリューカ車は待機しているはずだ。レーナは大丈夫か?」
「私も多分大丈夫だと思います。ただリオネルや公爵家の皆さんと、家族の皆がどこにいるのか……できれば合流してから帰りたいんですが。私がリューカ車を使ってしまうと、その間は他の皆さんが帰れませんし」
「それならば公爵家のリューカ車の御者に先に帰ると伝言し、私のリューカ車で帰れば良い。屋敷まで送ろう」
それは……凄く魅力的な提案だ。正直ここから皆と合流してというのは、かなり辛いなと思っていた。
「では、お願いしても良いでしょうか」
「もちろん構わない」
それから私とダスティンさんはリューカ車の待機場所に向かい、オードラン公爵家の御者さんに伝言してから、すぐ帰路に就いた。
屋敷に戻った私はパメラたちから心配され、執事のジャメルにも色々と話を聞かれたけど――
碌に説明もできないまま、眠りに落ちてしまった。
学院に突然ゲートが出現したあの学祭の日から数日後。私は王宮に呼ばれていた。今日はあの日の詳細を、カディオ団長とシュゼットに話すのだ。
それだけなら普通の聞き取りだけど、今日の聞き取りは陛下やベルトラン様も出席するらしいので、もう聞き取りというよりも謁見じゃないかと思っている。
「レーナ様、もしお体が辛ければ仰ってください」
パメラが心配そうに声をかけてくれて、私はリューカ車の揺れに体を預けながら頷いた。人型魔物との戦いの後、屋敷に戻ってベッドに潜り込んだ私は、なんと丸々一日寝ていたらしいのだ。
それで皆を心配させてしまい、パメラだけじゃなくレジーヌとヴァネッサ、家族の皆、公爵家の皆さんからも毎日心配の声をかけられている。
ちなみにあの日は私が眠りに落ちてから、しばらくして全員が怪我なく帰宅したそうだ。家族の皆も公爵家の皆さんも無事だと聞いて、目が覚めてから本当に安心した。
「そろそろ着くかな」
リューカ車の窓から外を見てみると王宮はすぐそこだ。通りは閑散としていて、いつもより早い気がする。
人型魔物の出現は、あの場所にいた人たちには口止めをして公表はしていないそうだ。まあ公表なんてしたら大混乱になるから、仕方がないことだよね。
でもあの場には大勢の貴族や貴族家に関わる人たちがいたから、貴族街はいつもより静かになっている。
学院も再開していなく、再開するとしてもしばらくは護衛を伴ってと特別措置が取られる可能性があるらしい。
「レーナお嬢様、到着いたしました」
パメラがリューカ車の扉を開けてくれて、私が降りるとすぐにヴァネッサとレジーヌがぴたりと横につく。二人は私が帰宅して丸一日寝込んだあの日から、今まで以上に過保護だ。
「では行きましょう」
「はい」
私のことを出迎えてくれた王宮の使用人さんに案内されて向かった先は、王宮の奥にある応接室だった。中に入るとカディオ団長とシュゼットがいて、まだ陛下やダスティンさんたちは来ていないらしい。
「カディオ団長、シュゼット、おはよう」
まだ朝早かったのでそう挨拶をすると、二人は笑顔で返してくれた。それに安心して体から力が抜ける。
ここ数日は誰もがピリピリと緊張感を放っていて、特に何もなくても体に力が入ってしまっていたのだ。また突然現れたゲートが少しトラウマなのか、ついゲートが現れてないかと周囲を確認してしまう癖が付いた。
「もう体は大丈夫なのか? 一日寝ていたと聞いたが」
「もう大丈夫よ。無理して動きすぎた反動だったみたい」
「そうか。それなら良かった」
「二人は忙しいの? 少し疲れているようだけど」
二人はいつも通りに振る舞っているけど、よく見るとうっすらと隈がある。あんなことがあったら騎士団はいくら働いても仕事が終わらないだろうし、かなり大変だよね……。
「忙しくないとは言えないが、なんとかやっている」
カディオ団長は苦笑しつつそう言った。
「体調は崩さないように気をつけるよ」
シュゼットのその言葉に私が頷いていると、部屋の扉がノックされた。代表してカディオ団長が答え、待機していた使用人の方が中から扉を開ける。
入ってきたのは、陛下とベルトラン様、そしてダスティンさんだった。




