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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
2章 貴族編

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217、緊急事態

 前回のゲートでも開く直前に感じた生暖かい風が流れ込んできた瞬間、心臓がドキッと跳ねた。息苦しくなるほどの緊張感が全身を襲い、焦りが湧き上がってくる。


 多分もう一刻の猶予もない……! まだ大勢の人たちが近くにいて、戦闘態勢が整ってる人は一人もいないのに。


 しかし焦りが募るだけで何も行動に移せないでいると、隣にいたダスティンさんが聞いたことのないような大声で叫んだ。


「今すぐこの場から逃げろ! ゲートから魔物が出てくるぞ! 逃げなければ命の保証はできない!」


 その叫びを聞いて一瞬の沈黙が場を包み、次の瞬間には蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。ゲートの近くにいた人たちだけじゃなく、少し離れた場所の人たちも一斉に逃げ出す。


 誰もが真っ先に逃げ出したいと前にいる人を押し退けようとするため、力が弱い人や子供などが、周囲に押されて地面に倒れ込み始めた。

 しかし倒れた人を気にする余裕は誰にもなく、騒ぎは全く収まらない。それどころか酷くなる一方だ。


「邪魔だ! 早く行けっ!」

「もっと早く走れっ!」


 怒声も響き渡る中、人々は押し合いながらゲートから離れていった。倒れ込んでしまった人たちも人波が去ってから、足や腕などを痛そうに庇いながら駆けていく。


 あんなふうに言えば、怪我人も出る大騒ぎになることは分かっていたはずだ。なのにダスティンさんがあえてそれを選んだということは、それほどに現状がギリギリなのだろう。

 ゲートの亀裂はどんどん広がっていき、今にも魔物が飛び出してきそうな雰囲気だ。


「アナン、君は警備の騎士と兵士に状況を伝えてくれ、頼む」


 大騒ぎで逃げていく人たちに少しだけ視線を向けてから、ダスティンさんはアナンに声を掛けた。アナンは私たちの近くで腰を抜かしていて、まだ逃げられていない。


「は、はいっ」


 しかし役割を与えられたからか、体をビクッと動かし立ち上がった。そして足をもつれさせながら、必死に皆が逃げた方向へ駆けていく。


「必ず伝えます……!」


 そうしてアナンも危険な場所から去ったところで、ダスティンさんはふぅと息を吐いた。そして私に真剣な表情を向ける。


「レーナには本当に申し訳ないが、ここに残り戦ってほしい。大丈夫か?」


 ダスティンさんは葛藤しているような表情で、私は深呼吸をして焦りや緊張を抑え込んでから、迷うことなく頷いた。

 ダスティンさんに頼まれなくても、ここで魔物を倒すつもりでいたのだ。


「もちろんです」


 私にはルーちゃんがいる。たくさん魔物が出てきたとしても、援軍が来るまでここで魔物を押し留めることぐらいはできるはずだ。

 大丈夫、酷い事態にはならない。ゲートも小さいんだ、普通に考えたら弱い魔物が多いはず。


 自分に内心でそう言い聞かせながら、ダスティンさんに問いかけた。


「ダスティンさんも戦われるのですか?」

「当たり前だ」


 全く迷いない返答に、私は頷き返すだけに留める。本当なら王族であるダスティンさんは逃げるべきなんだろうけど、決意の籠った瞳を見たらそんな事を口にする気にはなれない。


「私とレーナで、騎士団が来るまでなんとかここで抑え込むぞ。万が一魔物が王都内に放たれれば、甚大な被害は避けられない」

「はい。絶対に、ここで抑えましょう」


 そうして二人で戦闘への心構えを固めていると、突然後ろから焦ったような声が掛けられた。


「レーナ! 早く逃げないと危ないぞ!」


 その声を聞いて咄嗟に振り返ると、そこにいたのは家族の皆だ。


「早く逃げるわよ!」

「レーナ、こっちに来い!」


 皆は私が逃げない様子を見て、心配で呼びに戻ってきてくれたらしい。そういえば、家族皆には私が強いところを見せたことがなかった。

 それなら心配するのも当たり前だよね……ちゃんと伝えておけば良かったっ。


「私は大丈夫だから、皆だけで早く逃げてっ。騎士団と一緒にゲートの対処に行ったこともあるから!」


 慌ててそう叫ぶけど、皆は納得できないのかその場から逃げてくれない。それに皆はゲートの恐ろしさもよく分かっていないのだろう。


 お父さんがこちらに来ようと一歩足を踏み出した、まさにその瞬間。隣にいるダスティンさんの鋭い声が耳に入った。


「ゲートが開くぞっ」


 その声を聞いて咄嗟に振り返ると、ブワッと全身に鳥肌が立つような、嫌な気配が体中を巡る。そして直後にゲートから姿を現したのは――


 人型に近い、魔物だった。


「なっ……っ、あ、あいつ、魔物ですか?」


 あまりの衝撃にダスティンさんに問いかけるけど、ダスティンさんからも明確な答えは返ってこない。


「……わからない。見たことも聞いたこともない魔物……らしきものだ。私の目には、人の方が近いように見えるのだが」

「私も、です」


 その魔物は私たち人間とほとんど同じ作り・大きさの体を持っていた。人間と明確に違うのは濃い肌の色が紫であることと、頭にツノらしきものが生えていることだ。

 そしてニヤッと恐怖を感じる笑みを浮かべた口元からは、鋭い牙が覗く。こちらを見下すようにしてくる瞳は真っ赤な赤だ。


「キィィィィィ!!」


 人型の魔物は不快さに顔を顰めてしまうような高音を発すると、獰猛な笑みを浮かべてこちらに飛びかかってきた。

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