213、家族と合流
皆と別れてからまず向かったのは、ノルバンディス学院の正門だ。この時間に家族皆が学院に到着する予定になっていたので、さっそく迎えに行く。
皆は午後から休みをもらえたらしく、私の研究発表を見てから屋台巡りも楽しむのだそうだ。その屋台巡りでは、私が皆を案内しようと思っている。
「あっ、お父さん! お母さんとお兄ちゃんも」
まずはガタイが良くて存在感のあるお父さんが見え、そのすぐ近くにお母さんとお兄ちゃんがいるのにも気づいた。私が大きく手を振ると、三人も振り返してくれる。
「レーナ、会えて良かった」
お父さんは知らない場所に少し緊張していたのか、安心したように体の力を少し抜いた。
「迷わなかった?」
「ええ、大丈夫よ」
「レーナ、こんなにデカいとこに通ってたんだな」
お母さんとお兄ちゃんは、いつも通りで落ち着いているみたいだ。特にお兄ちゃんはキョロキョロと視線を動かして、学院の中を楽しそうに見回している。
ノルバンディス学院はオードラン公爵家ともまた違う雰囲気だし、興味を惹かれるのは分かる。私も自分が通ってるところだとはいえ、今だに物語の中に出てきそうな学校だなって思うから。
「かなり敷地は広いよ。最初は学院の中でも迷ってたから」
「これだけ広かったら分かんなくなるよなぁ」
「今日はレーナが案内してくれるんだよな?」
お父さんの問いかけに頷きながら、三人を正門前から誘導して学院の中に入ってもらった。
正門を塞いでるのは邪魔だからね。
「もちろん案内するよ。でも研究発表の時は皆と一緒にいられないから、あんまり動き回らないようにしていてくれる? 合流できなくなっちゃうと大変だし」
スマホがあったら良いけど、この世界にはないからね。さすがに慣れたけど、日本にあった便利な道具はこの世界にもあったらな……と定期的に思ってしまう。
「そうね。迷子にならないように気をつけるわ」
「うん、そうして」
そんな話をしながら歩いていると、さっそく学祭の中心地である屋台が並ぶ広場に到着した。
「すげぇ〜!」
お兄ちゃんは大興奮だ。お母さんとお父さんも瞳を見開き、驚きを露わにしている。
「凄い規模なのね」
「どれほどの屋台が出てるんだ……?」
「私も今朝は驚いたよ。多分百は超えてるんじゃないのかな」
学生の数を考えると、かなり過剰な屋台の数だ。ただこういうところで見栄を張るというか、お金を使うのが貴族社会だ。
そしてお金を使うことで屋台として出店しているお店は潤って、経済が回っているのだろうから、一概に無駄遣いだなんて言うことはできない。
どうしても庶民的な考えになっちゃう私からすると、半分ぐらいでも十分なんじゃって言いたくなるんだけど。
「美味そうなものもたくさんあるな!」
「皆には屋台巡りの前に研究発表を見てもらう予定だけど、見ながら食べられるような軽食を買っておく?」
「買う!」
私の提案に食い気味で頷いたお兄ちゃんに苦笑を浮かべつつ、屋台に少し寄り道するため、皆を案内する方向を変えた。
それから軽く摘めるような料理をいくつか購入して、研究発表が行われる予定の広場に向かった。
するとそこでは私たちの前に発表をしていた研究室が撤収をしているところで、近くにはすでにダスティンさんとアナンが待機していた。
「じゃあ皆、私は発表に行くよ。面白いと思うから見ててね」
「ええ、頑張りなさい」
「楽しみにしてるぞ」
「美味いもの食べて待ってるな!」
笑顔の皆に見送られて、私はその場を離れた。そしてダスティンさんとアナンのところに行こうとしたんだけど――ダスティンさんはやっぱり大人気のようで、周囲には人だかりができていた。
いつもの学院ではこうなってないけど、やっぱり学祭という非日常な雰囲気が皆を積極的にさせるのかな。
「殿下が発表をされるのですか」
「とても楽しみですわ……!」
「私も魔道具には興味がありますの」
「ぜひ今夜にでも、食事をしながら魔道具についてお話をいたしませんか?」
年齢も容姿の系統も多種多様な女性たちが、果敢にダスティンさんへと声をかける。しかしダスティンさんはそっけなく断るだけだ。
それでも諦めない女性たちが次々と自分をアピールしていると……ダスティンさんはほとんどの人に気づかれない程度にニヤッと口元を持ち上げ、どこか楽しそうに口を開いた。
「こんなにも魔道具に興味がある方が多いとは嬉しいな。ではトレントから採取できる木材と一般的な樹木から切り出される木材の違いについて、ぜひ論じようではないか。私としてはまずこの二つの間には生物と植物という大きな違いがあると思っていて、そのためトレントの方には明らかに普通の樹木にはない特徴が散見される。そのためトレントから採取できる木材は魔道具を作る際に、特殊な使い方ができるのだが――」
確かトレントって、巨大な樹木型の魔物だったよね。最近は魔物について熱心に勉強している私でも、辛うじて名前と少しの特徴を知っているぐらいだ。出現頻度はかなり低い魔物だったはず。
そんな魔物をここで出してくるなんて、ダスティンさん絶対にわざとだ。しかも早口だし、相当に魔物と魔道具への知識がないと理解不能だろう。
集まっている女性たち、その人は魔道具オタクなのでやめた方がいいですよ……。
思わず虚空を見つめながらそんなことを考えていると、ダスティンさんが良い笑顔で近くにいたご令嬢に問いかけた。
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!
本ページの下部に☆評価欄がありまして、その下に別作品へのリンクを貼ってあります。
「図書館の天才少女〜本好きの新人官吏は膨大な知識で国を救います!〜」という作品で、転生少女と同じく女主人公ファンタジーですので、レーナの物語を読んでくださっている皆様には楽しんでいただけると思います。
お時間ありましたら、ぜひ覗いてみてください。
よろしくお願いいたします!
蒼井美紗




