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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
2章 貴族編

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208、学祭開始

 オレリアが自分の席でアンジェリーヌに声を掛けられ困っているようだったので、私とメロディはさっそく二人の下に向かった。


「アンジェリーヌ、オレリア、おはよう」


 まずは一番身分が高いので私が声を掛けると、オレリアが縋るような瞳で私のことを見上げてくる。

 最近はアンジェリーヌともたまに話すようになったとはいえ、オレリアはまだ慣れてないのだ。特に一対一では、いつも緊張を隠せていない。


 最初のキツイ印象が強いし、何よりも侯爵家のお嬢様だからね……。


「レーナ様、ご機嫌よう。随分と遅かったですわね。待ちわびましたわ」

「いつもと同じ時間よ。アンジェリーヌこそ早いじゃない」

「本日は学祭当日なのですから、当然ですわ。それでオレリアと屋台を回る順番を話し合っていたのですが、レーナ様も参加してくださいませ。もちろんメロディも」

「ええ、もちろんよ」


 やっぱりアンジェリーヌも一緒に回るんだね……と頭の片隅では思いつつ、なんだかんだアンジェリーヌも普通に嫌いじゃなくなっているので、四人で椅子を少し移動させて向き合った。


「それで、二人の話し合いではどこまで決まったのですか?」


 メロディが小首を傾げながら可愛らしく問いかけると、アンジェリーヌが楽しげな笑みを浮かべて告げる。


「まずは花屋に行こうってことは決まったわ」

「花屋?」


 なんで学祭の屋台に花屋なんだろうと首を傾げると、アンジェリーヌが驚いたように瞳を見開いた。


「まさかレーナ様、ご存知ないのですか? 学祭にはたくさんの花屋が出店し、その日限りの生花アクセサリーを作ってもらえるのです。それを身につけて学祭を楽しむのが女学院生の嗜みですわ!」

「そうなのね……楽しそうだわ。ではその花屋でお揃いのアクセサリーを作っていただきましょう」


 "お揃いの"と伝えると、アンジェリーヌは一瞬だけパァッと表情を明るくしたけど、慌てたように視線を逸らしてしまった。横から見える頬は、うっすらと赤く染まっている。


「ま、まあ、レーナ様がお望みでしたら、私はお揃いでも構いませんわ……!」


 アンジェリーヌのお手本のようなツンデレお嬢様感に、思わず笑いそうになってしまった。


「お揃いのアクセサリーだなんて素敵です。楽しみですね」

「わ、私も楽しみです……っ」


 メロディとオレリアも笑顔で同意してくれたので、最初の行き先は花屋で決定だ。


「花屋の後に行きたいところはある? 私はテオドールの剣術を見に行きたいのだけど」

「そういえば、テオドールは剣術系の研究室に所属していましたね。私は構いませんわ」


 アンジェリーヌは思いの外すんなりと、テオドールの剣術発表の見学を受け入れてくれた。普段はうるさいとか品がないとか、リオネルの友人に相応しくないとか、テオドールに対して当たりが強いことも多いのに……やっぱりツンデレだね。


 メロディとオレリアも快く受け入れてくれて、今日の予定が着々と決まっていく。


「剣術の発表を見た後は、食事系の屋台を巡りませんか?」


 そう提案したのはメロディだ。


「私も食べ物には興味があります……!」


 オレリアも瞳を輝かせながら提案に乗り、私もすぐに頷く。やっぱり屋台といえば、食べ歩きだよね。


 ノルバンディス学院は貴族の子息子女が通う学校だから、屋台の近くにはたくさんのテーブルセットが備え付けられていて、厳密には食べ歩きじゃないらしいけど……まあ細かいことは気にしない。


 屋台で買って外で食べたら、それは食べ歩きだ。


「私も賛成よ。たくさんの美味しいものを食べましょう」

「美食に触れることも貴族令嬢としての嗜みですからね」


 アンジェリーヌはそんな言い方をしてるけど、瞳の輝きは抑えられていない。アンジェリーヌって、貴族令嬢として相応しくありたいって思いは強いんだけど、良い意味で貴族令嬢らしくないんだよね……。


 考えてるところがダダ漏れなところとか、自分の欲望に負けちゃうところとか、思ったことをポロッと口にしちゃうとか。


 こうして改めて列挙してみると――アンジェリーヌって侯爵家の令嬢としてやっていけるのだろうか。私も全く人のことは言えないんだけど、ちょっと心配だ。


「皆さん、おはようございます」


 色々と考えていたら、教室にノヴィエ教授がやってきた。私たちのクラス担任である先生だ。


「自分の席に着いてください」


 指示に従って教室が静かになると、ノヴィエ教授はいつも通りのふんわりとした笑みを浮かべて口を開いた。


「本日は待ちに待った学祭の日です。発表準備に向かっている方以外は……全員いますね。日頃頑張っている皆さんの成果を発表し、友人と目一杯楽しむ日です。規則からは逸脱しないよう配慮しながらも、楽しんでください」

 

 そこで言葉を切ったノヴィエ教授は、教室中をぐるりと見回してから声を張る。


「では皆さん、今から学祭開始です。もう屋台も始まっていますから、外に向かいましょう」


 その言葉を合図に、教室の中はまた騒がしくなった。

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