207、学祭当日
今日は待ちに待ったイベントがある日だ。私はいつもより早い時間にノルバンディス学院に向かうため、リューカ車に乗っていた。
「レーナ、楽しそうだね」
そう言って私の向かいの席で苦笑を浮かべているのはリオネルだ。
「それは当然でしょう? だって今日は学祭の日なのだから!」
私が力強くそう告げると、リオネルは不思議そうに首を傾げる。
「それはそうだけど、なんでそんなに楽しみなのか不思議だよ。私はどちらかというと、外部の人間が入ることに少し憂鬱なんだけど……」
確かに話を聞いていると、ノルバンディス学院の学祭には生徒の親族だったり招待した友人だったり、思った以上に幅広い人たちが入れるそうだ。
だからこれ幸いと、貴族たちは学祭を社交の場にするらしい。公爵家嫡男であるリオネルなんて、声をかけられまくるのだろう。
そして私もそうなのかもって考えると、少しだけ憂鬱になるのも分かるんだけど――やっぱり学祭という響きだけでテンションが上がってしまう。
だって日本では何度も学園祭とか学校祭とか、大学祭とか、色々と経験したけど全部凄く楽しかったのだ。特に友達と屋台を巡るのが楽しくて、ノルバンディス学院の学祭でも外部からの屋台がたくさん出店されるらしいから、とても楽しみにしている。
やっぱり――ワクワクしちゃうよね!
それに私たちも研究発表をする予定だけど、他の研究室の発表もたくさんあるので、それも楽しみだ。
「リオネル、せっかくだから楽しまなきゃ損よ! アリアンヌとエルヴィールも来るのだし、お養父様とお養母様も急用がなければ顔を出してくれるって」
「……確かにそれは少し楽しみかな。二人には屋台を案内する約束をしているんだ。そういえば、レーナの家族も来るんだっけ?」
「ええ、三人とも短い時間だけどね。お養父様のおかげよ」
お母さんとお父さん、お兄ちゃんは参加できると聞いて、数日前から凄く楽しみにしているようだった。皆に学院の中を案内する約束をしてるし、それも楽しみだなぁ。
もちろんメロディとオレリアとも、屋台を一緒に回る約束をした。あっ、そういえばアンジェリーヌも一緒に回るって言ってたかな。
「なんだか、レーナのおかげで私も楽しみになって来たよ」
「それなら良かった!」
リオネルと盛り上がっていたら、すぐにノルバンディス学院に到着した。リューカ車が減速していき、少しして完全に停止する。
今日はたくさんの人が学院に入るからか、いつも以上に門には警備の人がいるみたいだ。あれは……持ち物検査をやってるのかな。
「なんだかいつもと違う雰囲気だな」
「そうね」
こういうお祭りの前、みたいな時が一番楽しかったりするんだよね。私は当日も好きだけど、お祭りは特に準備が好きだったりする。
リューカ車から降りてリオネルと共に教室に向かうと、途中で後ろから声をかけられた。
「リオネル様、レーナ様、おはようございます」
可愛らしい声の持ち主は、メロディだ。後ろを振り返ると今日も完璧なお嬢様で、とても可愛らしいメロディがいる。
本当にメロディって、なんでこんなに可愛いんだろう。特に今日はいつも以上に気合が入っているのか、アクセサリーなどがキラキラと輝いていた。
「メロディ嬢、おはよう」
「メロディ、おはよう。今日の髪型、凄く可愛いわ」
「ありがとうございます。レーナ様もとても可愛らしいですわ。学祭当日ですが、とても良いお天気で良かったです」
「本当ね。特に研究室の発表が外でやる予定だから、晴れて良かったわ」
メロディとそんな話をしながらまた教室に向かっていると、今度は教室がある方向から一人の男子生徒が駆けてきた。
「あっ、皆さんお揃いですね!」
リオネルの友達であるテオドールだ。テオドールは裏表がない素直な性格だからか、リオネルとかなり仲良くなっていて、今ではいつも行動を共にしている。
その影響で私も結構話す相手だ。
「テオドール、おはよう」
「おはようございます!」
「そんなに急いでどうした?」
「俺の研究室発表、朝一なんです! 早く行って準備しないと」
リオネルの問いかけに答えたテオドールは、時計を見て慌ただしい。そういえばテオドールは、剣術系の研究室に所属してるって言ってたね。
「テオドールも発表に参加するの?」
私が問いかけると、テオドールはニッと口端を持ち上げて嬉しそうに頷いた。
「剣術の型を披露するんです。ぜひ見にきてください!」
「では時間があったら見に行くわ」
「ありがとうございます! あっ、リオネル様、発表が終わったら合流しましょう。一緒に屋台を回る約束ですよ!」
「もちろんだよ。まずは発表を頑張って」
「はい!」
テオドールは最後まで元気よく、大きく手を振りながら廊下の向こうに駆けていった。
そんな後ろ姿を見送ってから、私たちはまた教室に向かう。
「朝一の発表だと大変だね。レーナは午後だったかな」
「そうよ。午後の一番だから、ぜひ見に来てね」
「もちろん行くよ」
そこまで話をしたところで教室に着き、三人で中に入った。するといつも以上に皆の登校が早く、もうほとんどのクラスメイトが教室に集まっているようだ。




