205、不穏な予感
「シュゼット、大丈夫だった?」
怪我や返り血一つなく戻ってきたシュゼットに声を掛けると、シュゼットはいつも通りの笑顔を浮かべた。
「ああ、問題ないぞ。キルは倒した」
さらっとそう告げたシュゼットに、ハイノが驚きの声を上げる。
「あのデカいキルを一人で倒したのか!」
「もちろんだ。私は騎士だからな」
「す、すげぇな……!」
フィルもキラキラと光る、尊敬の眼差しをシュゼットに向けた。
「倒したキルを見に行ってもいいか?」
「もちろん」
五人で少しだけ場所を移動すると、一撃で首を斬られた様子のキルが地面に横たわっていた。そんなキルを前にして……三人とも嬉しそうな表情で興奮を露わにする。
首から血を流して死んでる動物をキラキラとした瞳で見つめられるって、やっぱりスラムに住む皆はたくましいね。
「こんなにデカいキルを、一回斬っただけで倒したのか!?」
「なんで首を正確に狙えるんだ? 凄いな……!」
「こんなに大きなキル、お肉がたくさん取れそうだね!」
すでにキルを食べることに思考が向いているエミリーの言葉に、思わず苦笑が浮かんでしまった。
このキルはシュゼットが持ち帰ることはないだろうし、皆にあげても良いのかな。これを持ち帰ったら、スラムではお祭り騒ぎになるだろう。
獣が狩れた時の皆の楽しそうな様子が思い出され、自然と頬が緩んだ。
「シュゼット、キルは皆にあげても良いかしら」
フィルとハイノに倒し方のコツを教えているシュゼットに問いかけると、シュゼットは悩むことなく笑顔で頷いてくれた。
「もちろんだ。処理してくれるのならば、逆に助かるな」
「え、もらっていいのか!?」
「構わない。しかし君たちだけで運べるだろうか」
「確かにな……さすがに難しいから父さんたちを」
ハイノがそう口にした瞬間、シュゼットが真剣な表情で静かにするようにと皆を手で制し、森の奥にじっと視線を向けた。
そんなシュゼットの様子に緊張しながら息を殺していると、少しして葉擦れの音が聞こえてくる。
もしかして、また獣が来たの?
この森に獣が出るなんて、そうそうないことなのに。信じられない気持ちで、シュゼットと森の奥を交互に見ていると――
葉擦れの音と共に獣がドシッドシッと走るような音も聞こえて来て、そのすぐ後にもう一頭のキルが姿を現した。
「グォォォォォ!!」
キルはかなり怒っているようで、私たちに威嚇するような声を浴びせると、一気に突っ込んでくる。この怒りよう、シュゼットが倒したキルの家族なのかも……!
私はいつでもルーちゃんに魔法をお願いできるよう構えつつ、シュゼットにちらっと視線を向けた。するとシュゼットは剣に手を掛けていて、今にも飛び出していきそうな構えをしていた。
それを確認したところで安心し、私は魔法を発動するんじゃなくて、突然現れたキルに全く動けないエミリーたち三人の手を引く。
「皆、シュゼットの邪魔にならないように後ろに下がってよう」
そう声をかけると三人ともハッと体を揺らし、真剣な表情で頷いてくれた。
そうして私たちがその場から退避している間に、キルに向かって強く地面を蹴ったシュゼットの剣は、キルの脚を深く傷つける。
それによって地面に倒れ込んだキルの首に、シュゼットは真上から剣を振り下ろし、深く首を切り裂いた。
キルの首元からは大量の血が流れ出し、すぐにキルの体からは力が抜けていく。討伐成功みたいだ。
やっぱり普段から魔物と戦ってる騎士は強いね。普通の獣なんて、肩慣らしにもならないって感じだ。私もこんなふうにカッコよく剣を使ってみたいけど……かなり無謀な望みだろうってことは分かる。
「大丈夫か?」
皆でシュゼットの強さに圧倒されていると、剣を鞘に収めたシュゼットがこちらを振り返り、いつも通りの表情でそう聞いてくれた。
「あ、ああ、大丈夫だけど……凄いな」
「強すぎる……」
「かっこいいね!」
三人のそんな感想に、シュゼットは嬉しそうな笑みを見せる。
「ありがとう。ただこの森で、キルが続けて二匹も出るのは珍しいな。昔はこんなことなかったと思うんだが、最近はこの森も危険なのか?」
そう言って首を傾げたシュゼットに、ハイノが代表して答えた。
「いや、こんなことは今までなかった。獣が出るのは稀だし、出てもリートが大半なんだ。キルなんてほとんど見ることはないはずなのに……」
ハイノの言葉を聞いたシュゼットは、眉間に皺を寄せて考え込む。
もしかして、ゲートの出現が活性化してることと関係があるのかな。敏感な獣は何かを察していて、活動が活発になってるとか。
なんだか不穏なことばっかり起きてるね……お願いだから平和が続いて欲しい。
「この森にはしばらく入らない方が良いかもしれないな。まだキルがこの辺りを彷徨っているかもしれないし、他に危険な獣が多数現れている可能性もある」
シュゼットのその言葉を聞いた三人は、不安そうに眉を下げた。そんな三人にシュゼットは少しだけ考え込み、私としてもありがたい決定を下してくれる。
「この森は近々、騎士団で見回りをしよう。スラムに住む他の者たちにも、見回りまではあまり森に入らないようにと伝えて欲しい」
「分かった。ちゃんと伝えておく」
ハイノがまず答えて、フィルとエミリーも真剣な表情で頷いた。
「シュゼット、ありがとう」
「いや、国の安全を守るのは騎士団の務めだからな」
やっぱりシュゼットって、かっこいい騎士だよね。ちょっと猪突猛進というか、我が道を行くって感じなところはあるけど、皆に慕われている理由が分かる。
そんなことを考えていると、シュゼットが話を切り替えるようにして口を開いた。
皆様こんばんは。いつも読みにきてくださり、本当にありがとうございます。
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とっっても可愛い表紙なので、ご覧いただけますと嬉しいです。(各種販売サイトや公式サイト等でご覧いただけます)
よろしくお願いいたします!




