200、脅威の攻撃力
拳を握りしめ、ぐっと気合を入れ直したところで、私は笑顔でルーちゃんに声を掛けた。
「ルーちゃん、もう少し頑張るよ! これからは右の翼の付け根を狙って!」
ルーちゃんは私の言葉に張り切ったように飛び回り、翼を狙って石弾を放つ。さらに下からも騎士、そして魔法師による攻撃がドラゴンを襲った。
上下から攻撃を受けたドラゴンは嫌そうに体を捩らせ、何度も甲高い叫び声を放つ。
このまま攻撃し続ければ倒せるかも……!
そんな期待が胸に灯った直後、ドラゴンが今までと違う動きを見せた。未知の攻撃が来るかもしれない。魔法を使うのかも。
そう考えて最大限の警戒をしていると――大きく開かれた口の先に、灼熱の炎のようなものが集まってきた。
もしかしてこのドラゴン、ブレスを放てたりする!?
「ル、ルーちゃん! 私を上に!!」
大きな口と灼熱の炎の向こうに、私を睨みつけるドラゴンの鋭い瞳が見え、一瞬だけ体が硬直したけど、すぐに恐怖を振り払ってルーちゃんに叫んだ。
とにかく逃げなきゃ。あれはヤバい、あの瞳は殺される。私なんてドラゴンの攻撃を受けたら瞬殺だ。
ルーちゃんによって上空に運ばれるのを、もどかしくスローモーションのように感じていると――
私がドラゴンの目の前から逃れた瞬間、口からブレスというよりもビームのような、直線的な攻撃が放たれた。
シュンッという軽やかとも言える音がして、その後には轟音が響き渡る。まるで地面が割れたかのような爆音に、反射的に耳を塞ぎ目を閉じた瞬間、熱風が私の身に降り掛かった。
爆音と熱風で自分が今どこにいるのかも分からない。多分飛ばされてる。でもどこに? 上になら良いけど下だったら……地面に激突する!?
――ルーちゃん、私を宙に留めて!
口を開ける状況じゃなかったので、心の中でそう叫ぶと、しばらくしてから私の体が宙に固定されたのが分かった。
そこで恐る恐る目を開くと――
そこはまだ空の上だった。私はほぼ水平に飛ばされたみたいだ。ドラゴンからは少し距離がある。
しかしそんな考察よりも、目の前のあんまりな光景に衝撃を受け、ポカンと口を開くことしかできなかった。
「なに、これ」
目の前にあったのは、ずっと遠くにある山まで続く、巨大な道だ。ドラゴンのビームが通った場所には、何もなくなっていた。木々が生い茂る森は、真っ二つに分断されている。
そして剥き出しの地面となった巨大な一本道の先に、巨大な山がある。しかしドラゴンのビームによって一部が欠けたような、歪な山になっていた。
「信じられない……」
あんなに遠くまで攻撃が影響するの? というか山を削れるってどんな威力? 森の木々は薙ぎ倒されたというよりも、一瞬で蒸発して消滅したように、跡形もなくなってるし……
あの攻撃を受けたら、死体も残らずこの世から姿を消すことになるんだろう。
そう考えてしまったら恐怖が蘇ってきて、手が震えた。足も震えてきて、私は恐怖心をなんとか抑え込むために、自分をギュッと抱くように腕を掴む。
どうしよう、あんなドラゴンに勝てるの? あのビームは何回撃てるんだろう。他にもあれと同等の攻撃手段を持ってたりする?
悪い想像しかできずに、体を動かせないでいると――
「レーナ! 大丈夫か!?」
私の耳に声が届いた。声の方向に視線を向けると、そこにいたのはダスティンさんだ。
そうだよ、私が動かなかったらここにいる人たちは全滅かもしれない。それどころか、この国がドラゴンに蹂躙されちゃうかもしれない。
守りたい存在を思い出したところで、自然と恐怖心は小さくなって、震えは収まった。
「――大丈夫です! すぐ戻ります!」
そう答えて、ルーちゃんに頼んでドラゴンの近くまで戻る。するとドラゴンは、ビームを放つ前とは少し様子が異なっていた。
動きは精彩を欠き、騎士や魔法師による攻撃に押されているようだ。
もしかして……あの攻撃の後は動きが鈍くなるのだろうか。あれほどの威力ならあり得る話だ。それほどの切り札である攻撃だったのかもしれない。
「それなら、今のうちに倒さないと。ルーちゃん!」
私はルーちゃんを呼んで、ドラゴンの右翼だけを狙って重点的に攻撃を放った。魔力不足はこの際考えず、とにかくルーちゃんには最大火力の魔法を何度も何度も放ってもらう。
ルーちゃんが魔法を発動できなくなったら場所を移動し、攻撃を続けることしばらく。
「ギャオォォォォ!!」
ドラゴンが悲痛な叫び声を上げると共に、右翼がガクッと力を失った。そしてバランスを崩すようにして、地面に向けて一直線に落ちていく。
「避けてください!」
下にいる皆にそう叫んだ直後、ドラゴンはドシンッッという爆音と共に砂煙を巻き上げて、地面に落下した。
ルーちゃんに頼んで風魔法で視界を確保してもらうと、落下の衝撃でまだ動けていないドラゴンに向けて、シュゼットが駆け寄ってるのが視界に映る。
「ルーちゃん! 尻尾を止めて!」
シュゼットを払おうとしていた尻尾を止め、攻撃の援護をした。
「はあぁっ!!」
他の騎士たちもシュゼットの援護をし、シュゼットの剣がドラゴンに届き――
左目にグサっと深く突き刺さった。それと同時にシュゼットは、剣を残して後ろに飛び退さる。
「グウゥアォォォ……!」
怒りなのか痛みにうめく声なのか、ドラゴンが悲痛な叫び声を上げたところで、私はルーちゃんに指示をした。
「ルーちゃん! 魔物の口の中に高熱の火球!」
ルーちゃんは私の指示に的確に答えてくれて、叫ぶドラゴンの口腔内に火球が吸い込まれるようにして入っていった。ドラゴンはカッと瞳を見開き、口から煙を吐き出す。
そして瞳には力がなくなっていき、だんだんとその巨体の動きが鈍くなり――遂には地面に力なく倒れ込んだ。倒れたドラゴンに生気はなく、ぴくりとも動かないようだ。
「倒せ、た……?」
そう呟いたけど本当に息絶えたのか確認する術がなく、その場には静かな沈黙が満ちる。誰もが油断なくドラゴンを見据えていて、それからしばらく。
やっと一人の魔法師が、シュゼットの指示によってドラゴンに魔法を放った。その魔法はドラゴンの体にボフンッと当たり、しかしドラゴンは全く動かない。
それから数人の騎士によって慎重に死亡確認がなされ――シュゼットによって、討伐完了が告げられた。
「討伐が成功したことを、ここに告げる!!」
「「うおぉぉぉぉ!!」」
シュゼットの宣言に続き、皆の雄叫びが戦場に響き渡った。
嬉しいご報告があります。
ツギクルブックス様から1巻が好評発売中の本作ですが――2巻の刊行が決定いたしました!
書籍をご購入くださった皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
発売日は4/10です。これから表紙など情報が公開されましたら、またこちらでもお知らせさせていただきます。
予約等もすでに始まっておりますので、よろしくお願いいたします!




