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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
2章 貴族編

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199、ドラゴン戦

 嫌でも恐怖感を煽られる叫び声を発したドラゴンは、ゲート近くの上空で騎士たちを睨みつけるようにしながら、巨大な羽を動かしていた。そして威嚇でもするように、また圧倒的な力を感じる声を発する。


「ギャオォォォォォッ!」

 

 ドラゴンが翼を動かすたびに突風が吹き荒れ、叫び声は私たちから五感の一つである聴覚を奪い、さらには希望も奪っていった。

 休憩所にいた騎士たちから、震える声で弱音が溢れているのが僅かに聞こえてくる。


 倒せる未来が、想像できない。


 その意見には私も完全に同意だ。圧倒的な力を感じる上に、見るからに硬そうな鱗を全身に纏っていた。


 開いた口から覗く牙は、一瞬で人間なんて串刺しにされそうな大きさと鋭さで、鱗の各所にも棘のようなものが付いている。

 近づいて攻撃を当てることさえ、できそうにない。


 まさに動く災害。そんな魔物が目の前にいた。


「……っ、レ、レーナ」


 あまりにも圧倒される存在に呆然と立ち尽くしていると、ダスティンさんが絞り出すように声を出した。


「は、はいっ」

「……あの魔物は、金色の精霊に、倒せるのか?」

「分かりませんが……やって、みます」


 そうだよね。私にはルーちゃんがいるんだ。ルーちゃんは創造神様の加護を得たことで契約できた精霊。それならドラゴンだって倒せるはず……!


 私はダスティンさんの言葉に少しの希望を抱き、さっそくルーちゃんに向けて祈るように言葉を紡いだ。

 

「ルーちゃん、あの空飛ぶ大きな魔物を倒して……!」


 必死にそう伝えると、ルーちゃんは少しだけ悩むような動きを見せ――しかしドラゴンへと向かっていった。


 高速で動くルーちゃんから放たれた石弾は、普通の魔物なら容易に貫通するような、人の目にはほとんど認識できない速度だ。


 そんな石弾は一直線にドラゴンへと向かっていき、肩部分に当たったけど――


 その瞬間に、石弾の方が砕けた。


「ギャオォォォォォ!!」


 ドラゴンが悲痛な声で叫んだから効いてはいるみたいだけど、倒せるどころか、そこまでダメージは大きくはないように見える。


「っ、ダメみたいです……!」


 私がダスティンさんにそう伝えた瞬間、ドラゴンの視線がこちらにギロリと向いたような気がした。それは気のせいではなく、ドラゴンはバサっと翼を動かすと、凄い速度でこちらにやって来る。


 このままだと拠点がやられる……!


 そう思った私は、咄嗟に叫んでいた。


「ルーちゃん! 私をあの木の上空に連れて行って!」


 他の皆を連れて行く余裕もなく、私は一人で飛行魔法によって場所を移動した。そして移動した直後、またルーちゃんに石弾を放ってもらう。

 すると予想通り、ドラゴンはまた進行方向を変えた。


 こっちには広い草原と森、そして山があるだけだ。これで騎士さんたちへの被害は減らせるはず。


 でもこのドラゴン、どうすれば良いの……!?


 騎士さんたちは混乱気味だし、他の魔物に対処もしなくちゃいけない。今からドラゴンの動きや弱点を判断して、皆で連携して倒すっていうのも……難しいよね。


「そうなると、私が一人で倒すしかない」


 そう呟いた私は、拳を握りしめて気合を入れた。この場の魔力がなくなっても良いから、とにかくあいつを倒すことだけを考えよう。


「ルーちゃん、私を右に飛ばして! あと魔物の目を狙って石弾! 全力でね!」


 ルーちゃんに指示を出すためには近くにいないといけないから、私がドラゴンから逃れることはできない。逃れられた時は……倒せた時だけだ。


 ルーちゃんでも太刀打ちできなかったらどうしようと怖いけど、震える手を握りしめて、強引に震えを止めた。


「ルーちゃん、上に回避! 次は下!」


 ドラゴンは完全に私を敵だと認識したらしく、その巨体からは想像できないほどの素早さで動き、私を爪で狙ってくる。


 振り下ろされる鋭い爪をギリギリで避けて、一瞬で噛み殺されるだろう巨大な口から必死に逃げて、なんとかその合間にルーちゃんに攻撃をしてもらった。


 ドラゴンには少しずつ傷が付いているけど、このままだと倒す前に、私が力尽きそうだ。


「……痛っっ!」


 っ……、ドラゴンの爪が、僅かに腕を掠った。それだけで信じられないほどの痛みと熱さが身体中を駆け巡り、私は必死にルーちゃんへと治癒をお願いする。


 さっきから何度も攻撃を受けていて、その度に治してるけど、このままだと早々に魔力が尽きてしまう。それに怪我は治っても、失った血は戻ってこない。


「はぁ、はぁ」


 どうしよう。どうすればドラゴンを倒せる?


 いくら考えても打開策が見出せず、思考が負のループに入りかけたその時――


 私の耳に、ダスティンさんの声が僅かに届いた。


「レーナ! 倒さなくていいから翼を一つ落とせ! 地面に落ちたら後は騎士たちでやれる!」


 その言葉にチラッと声が聞こえてきた方に視線を向けると、シュゼットもその場にいた。


「下からも援護をする!」


 二人の言葉に、私はネガティブな思考のループから抜け出すことができた。視野が突然広くなり、戦場の様子がよく分かるようになる。


 そうだよね、私は一人じゃないんだ。皆と一緒ならドラゴンだって倒せるはず。


「私が上空で魔物を引きつけるので、皆さんは下から攻撃してください!」

「分かった!」


 シュゼットから頼もしい言葉が返ってきて、私は再度気合を入れた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ほー。  ほのぼの進行系の話だと、ドラゴンは話が通じるタイプが多い印象ですが、こちらでは問答無用で襲いかかってるタイプなんですねえ。
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