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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
2章 貴族編

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198、今後の対処と驚愕の魔物

 ダスティンさんとクレールさんの姿を見ただけで、なんとなく安堵感が湧き上がってきて体の力が抜けた。あの二人がいれば、特にダスティンさんがいれば何とかなる気がするんだよね……


「レーナ、先ほど使ったのは治癒魔法か?」


 二人の下に着くと、真っ先にそう聞かれた。


「はい。見えましたか?」

「いや、細かい部分は見えていない。しかし温かな光と、明らかに致命傷を負ったであろう血濡れの騎士服を着て、なんの問題もなさそうに歩く騎士を見た」

「……その騎士さんを、私が治癒魔法で治しました。救護班の人たちの反応では、命が助からないほどの怪我のようでした」


 それから治癒の様子、消費魔力量などを詳細に伝えると、ダスティンさんは眉間に皺を寄せて考え込んでしまう。しばらくじっと宙を睨み、徐に口を開いた。


「まず、治癒魔法については今まで積極的に明らかにしてこなかったが、詳細を公開するべきかもしれないな。死の淵から救われた、などという言葉が一人歩きすると、レーナの下に重病の者が押し寄せかねない。しかし病気は治せないのだから、下手に希望を持たせ、レーナを恨む者も出るだろう」


 確かに……病気で命が危ない家族がいて、それを治せるかもしれないなんて情報を得たらすぐに飛びつくだろう。そしてそれが真実ではなかったと分かれば、一部の人は私を恨むかもしれない。

 または、本当は治せるんじゃないかと邪推するかもしれない。


「怪我ならば重傷も治癒可能だけど、病気には一切効果なしと公表するのでしょうか」

「そうだな。効果に関して嘘はつかないほうが良い。怪我人はそう多くないし、レーナに頼む余裕がある怪我は自然に治癒もするだろう。したがって、公表したところでレーナに大きな影響はないはずだ」

「……そうですね。では公表の方針でいきたいです」


 私がそう伝えると、ダスティンさんは真剣な表情で頷いてくれた。


「どれほどの魔力を消費するのか、どんな怪我まで治癒可能なのかなど、さらに詳しい情報については、騎士団に協力しているうちに自然と明らかになるだろう。積極的な検証は難しいし、突発的に取れたデータをまとめるしかないな」

「分かりました」


 ということは、治癒魔法については詳細を公表して、後は今まで通り使い所があれば使うって方針で良いんだね。

 あまりにも強い効果に驚いたけど、大きな変化はなさそうで良かった。


 あっ、でも戦場ではさすがに自由に使うのは避けた方が良いかな。


「戦場での治癒魔法の使用に関して、どう対処すれば良いでしょうか。目の前に大怪我を負った騎士がいたら助けても良いのか、魔力を温存するために怪我人を移動させるべきなのか……」

「――判断が難しいな。そこはカディオ団長、シュゼット副団長との相談になるだろう。とりあえず現状では、戦場から外れたところだけで使うようにするべきだな」

「分かりました」


 そこまで話をしたところで大きな懸念点はなくなり、私は大きく息を吐き出した。


「では、休憩しましょうか。休む時間なのに疲れました」


 思わず苦笑しつつそう告げると、ダスティンさんも僅かに苦笑を浮かべて頷いてくれる。


「そうだな。私も少しは休んでおかなければ」

「そうですよ。真剣に魔物素材を見てましたけど、良い素材はありましたか?」

 

 休憩所の一角に腰掛けながら問いかけると、ダスティンさんは瞳を輝かせた。


「たくさんあったぞ。今回のゲートはかなり厳しいものだが、魔物素材という一点においてだけは素晴らしい。しかし素晴らしい魔物素材であるほど、希少で強い魔物が多いというのが難しいところだな」


 そうなんだよね……ダスティンさんとしては、喜んで良いのか心配すれば良いのか、微妙なところだろう。


 私も希少な魔物素材が手に入ったと聞くと喜びそうになるけど、こうして戦場を見ちゃうと……その魔物素材を倒した騎士たちの苦労や怪我が思い浮かんでしまう。


「……複雑ですが、魔物素材は一つも無駄にしないようにしましょう」


 せめて大切に使おうとそう告げると、ダスティンさんは真剣な表情で頷いてくれた。


 それからも話をしたり少し横になったりと、休憩時間を有意義に過ごしていると……あと少しで私たちが戦場に戻る時間になった。

 そろそろ準備をしようと、立ち上がって体をほぐす。休憩前には意外と疲れが溜まってたけど、それも結構解消してくれたみたいだ。


「ゲート、まだ閉じないのかな」


 思わず素の口調で呟くと、私と同じようにゲートへと厳しい表情を向けていたヴァネッサが反応してくれた。


「……今回のゲートは長期戦かもしれませんね」

「そうだね。……できる限り後半に余力を残そう」


 ゲートがいつ閉まるかなんて誰にも分からないから、残した余力は無駄になるかもしれない。でも分からない以上、全てを出し切ってしまうわけにはいかないのだ。


「かしこまりました」


 そう話をして、そろそろ戦場に戻ろうと近くにいるダスティンさんを見上げた――


 まさにその瞬間、ゲートの方から耳をつんざくような魔物の雄叫びが聞こえてきた。戦場から少し離れたこの場所でも、思わず耳を塞ぎたくなるほどの音量だ。


 なんだか肌が震えるような、ビリビリとした空気も感じる。


「今のって……」


 嫌な予感がしつつゲートに視線を戻すと、そこには――ワイバーンの何倍も巨大な、空飛ぶ魔物がいた。

 その姿形は、日本でよく見かけたものだ。空想世界の話によく出てきていた生物。


 そう、ドラゴンだ。

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