156、講義開始
次の日の朝。私は昨日と同じようにリオネルとリューカ車に乗り、ノルバンディス学院にやってきた。今日は学院に着いたらそのまま教室に向かう。
「今日からさっそく講義が始まるわね」
もう周囲に他の生徒がたくさんいるので、私はお嬢様モードでリオネルに話しかけた。リオネルも完璧な微笑みを浮かべた公爵家子息になっている。
「楽しみだよ。確か最初は魔道具理論だったかな」
「そうよ」
そう、講義初日の一つ目が魔道具理論、ダスティンさんの講義なのだ。講義するのはダスティンさんなのに、なぜか私が少し緊張している。
「第二王子殿下の講義だから、皆が張り切ってるだろうな」
「……それって、目を掛けてもらえるようにということかしら」
「そうだよ。特に女性は、気に入ってもらえるようにという気持ちもあるかもしれない。第二王子殿下はご結婚されていないし、婚約者も発表されていないだろう?」
「……やはりその座を狙いたいご令嬢は多いのね」
「当然多いはずだ。とても端麗な容姿であったから尚更に」
やっぱりそうなんだ……まあ普通に考えたら狙い目だよね。まだ二十歳そこそこで、初見ではちょっと怖いけど顔立ちが良くて、さらに第二王子という身分だ。
「レーナは殿下のご婚約者様について、聞いたことはある? 魔法の検証の時などに」
「いえ、聞いたことはないわ。ダスティン様は検証に夢中になられているから」
「そうなんだ。確かに魔道具理論の教授をやられるようなお方なら、精霊魔法の検証はお好きなのかもしれないな」
「……生き生きとされているわ」
そこまで話をしたところで教室に辿り着き、私たちはそれぞれの席に向かった。
「メロディ、オレリア、二人は随分と早いのね」
「レーナ様、おはようございます。初日ですので早めにと思っておりましたら、早く着きすぎてしまいました」
「私も、絶対に遅れてはならないと思っていましたら、まだ薄暗い時間に学院に着いてしまい……」
「オレリア、それはさすがに早すぎではないかしら?」
私がまだ朝食も食べてない時間に学院に来ていたなんて、信じられない話に苦笑が溢れてしまう。でもオレリアなら、なんとなく納得もできるかな……
「明日はもう少しゆっくり来られると良いわね」
「は、はい。そうします」
「そういえば、レーナ様は第二王子殿下とお知り合いだというのは本当ですか? お父様から聞いたのです」
「ええ、私の精霊魔法の検証を担当してくださっているわ」
「そうなのですね。どのようなお方ですか?」
ふんわりとした笑顔に少しの好奇心と期待感を乗せ、メロディは可愛らしく首を傾げた。こんなに可愛い貴族令嬢に好意を寄せられたら、さすがにダスティンさんも嬉しいよね……
「研究が好きなお方ね。特に魔道具開発はお好きなようよ」
「そうなのですね。では講義を真剣に受け、魔道具について詳しくなれるように頑張ります」
「……メロディは、ダスティン様……と、仲良くなりたいの?」
「私自身というよりは、お父様がお近づきになりたいとお考えのようです」
そういうことか……やっぱりメロディみたいにふわふわしてて可愛い子も、家のことを考えて動いてるんだ。貴族社会、色々と大変だね。
「私個人としても、少し興味はありますわ。第二王子殿下はどのようなお方なのか、ほとんど知られておりませんから」
「私も本日は楽しみにしておりました……」
「あら、オレリアも?」
「はい。……あっ、ただ私はお近づきになれるなんて全く思っていませんし、私の両親も期待していないので、本当に純粋な興味というか……」
慌てて言い募るオレリアに、メロディはふふっと微笑んで口を開いた。
「そんなに慌てなくても良いわ。どのようなお方を好まれるのかは分からないのだから、オレリアが気に入っていただける可能性もあるわよ」
「い、いえ、そんなことはあり得ません……!」
「もう、オレリアは可愛いのに、自分でそのことを認めてあげなければダメよ?」
そう言って少しだけ唇を尖らせながら首を傾げるメロディは、女の私でも思わず見惚れてしまうほどに完成された可愛さだ。
こんなに可愛いメロディが目の前にいたら、自分を可愛いと思うのは難しいよね……凄く可愛いと思っていたレーナの容姿でさえ、メロディを前にすると可愛いじゃなくて綺麗の方かもって思ってしまうほどだ。
それからも二人と今後の講義に関して話をしていたら、学院のチャイムが鳴り一限の講義が始まる時間となった。チャイムが鳴り終わる頃に教室に入ってきたのは……無表情で感情が読み取れないダスティンさんだ。
ダスティンさん、いつも以上に怖い顔になってますよ。そんなことを考えながらダスティンさんに視線を向けていると、バッチリと視線が合った。




