138、改めて顔合わせ
「改めて、私がアレンドール王国の国王であるエマニュエルだ。そして右にいるのが王太子であるベルトラン。左が第二王子であるダスティンだ」
陛下のその説明を聞いてから、私も改めて自己紹介をした。ここ最近の練習成果を見てもらえるよう、指先にまで意識を集中させる。
「私はレーナ・オードランと申します。この度はお会いできて光栄でございます」
「……随分と動きが洗練されたな」
「お養父様が私のために様々な手配をしてくださったおかげです」
私のその言葉に感心したように頷いた陛下は、少しだけ表情を緩ませてからまた口を開いた。
「オードラン公爵家での生活はどうだ?」
「とても楽しく、不便なく過ごさせていただいております。私の家族に対しても配慮していただいて、本当にありがたいです」
「そうか。公爵から見てレーナはどうだ?」
「正直、毎日驚いております。すでに平民だったとは誰にも気づかれないでしょう。家庭教師からもとても頭が良いと報告が上がっており、学院でも大きな問題はなく過ごせるはずです」
フィス夫人、そんな報告をしてくれてたんだ……認められたようで嬉しいな。それにお養父様も、私に対して好印象を抱いてくれているようで良かった。
「そうか。創造神様による加護の方はどうだ? 何かしら特別なことが起こったりはしただろうか」
「いえ……特にそのようなことはございませんでした。ここ数日は忙しく、精霊魔法も行使しておりません」
「ふむ、分かった」
陛下は創造神様の加護を得た私に何か特別なことが起こるって思ってるのかな……確かに今までいなかった存在だし、その可能性もないとは言えないか。
できればこの先も、何も起きなければ良いんだけど。これ以上私の生活に波乱を起こしてほしくない。
「レーナ、一つ大切な話がある」
陛下が真剣な表情で発したその言葉によって、室内には緊張感が漂った。一言で場の雰囲気を変えられるその存在感は、さすが陛下と言えるものだ。
「……なんでしょうか」
「そなたの精霊魔法は特別なものだ。したがって、その検証を国が主導で行いたいと考えている。検証に協力してもらえるだろうか?」
なんだ、そんなことか。もっと重大な話かと思っていたので安心して、すぐに頷いた。
「もちろんでございます。私も精霊魔法の検証をやらなければと思っていましたので、とてもありがたいです」
「そうか、それならば良かった。ではそなたの精霊魔法の検証だが、責任者は第二王子のダスティンとする。ダスティンと共に検証を進めてくれ」
「かしこまりました。第二王子殿下、よろしくお願いいたします」
この部屋に入って初めてダスティンさんにしっかりと視線を向けて礼をすると、ダスティンさんはいつも通り無表情のまま僅かに頷いてくれた。
もし本当に初対面なら、こんなに怖そうな人が責任者なんてって思うのだろうけど、私は苦笑を浮かべないようにするのに神経を注いでいる。
ダスティンさん、やっぱりどこにいてもちょっと怖いというか、近寄りがたい雰囲気なのは変わらないんだね。
「そうだ、これは検証が終わった後の話だが、騎士団からレーナと魔法の訓練をしたいという要望が来ているので、その話についても考えておいてほしい。またリクタール魔法研究院からも、精霊魔法の研究に力を貸してほしいので早めに登院を願いたいと要望が来ていたな」
騎士団との魔法の訓練と、リクタール魔法研究院での研究の手助け……うん、断りはしないけど、とりあえずノルバンディス学院に入学して落ち着いてからにしてほしい。今はそんな余裕なんてないよ。
「陛下、恐れながら申し上げます。レーナは現在寝る間も惜しんで勉学に励んでおりますので、しばらくは他の仕事を増やす余地がないと思われます」
どうやって断れば角が立たないかと考えていたら、お養父様がはっきりと断ってくれた。
お養父様……ありがとうございます!!
内心で大感謝をして、土下座までしておく。本当にお養父様ってできた人だよね。もう尊敬だ。
「確かにそうだな。では少し落ち着いてからになると伝えておこう」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
そこで話が一段落し、陛下が話を切り替えるように「さて」と口を開いて背もたれに預けていた体を起こした。
「この後はダスティンとレーナで魔法の検証について、日程などを話し合うと良い。その間に公爵には私から財務に関する話があるので、執務室に移動してもらえるか?」
「もちろんでございます」
「ベルトランは王太子として二人の話を聞いておきなさい。あとで私に報告するように」
「かしこまりました」
陛下は今後の予定を素早く決めると、お養父様を連れて部屋を出て行った。そして残された私たち三人とその従者と護衛だけの部屋に沈黙が流れ、それを破ったのは王太子殿下だ。




