表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/105

第98話 許される訳がない

テライルから情報元の場所を聞き出し、寝ていた老年の男をそのまま転移魔法でこの場に連れて来て起こす。


「んあ……へぁ?えっ!?あ、あれ!?どこだ此処は!?」


テライルの言葉に嘘はなかったが、そもそもの情報源が偽物でないとは――雇用主の御機嫌取りのために、適当な事を話していないとも――限らないからな。

なので、その真偽を確認する為だ。


「バイカー」


「て、テライル様!?これは一体!?」


「ここは私の執務室だ。お前に聞きたい事があって、ここに来て貰った」


「来て貰った?聞きたい事?」


バイカーと言われた男は混乱してか、挙動不審にあちこちへと視線を移す。

まあ起きたらいきなり知らない場所で、しかも雇い主から話があるから連れて来たなんて言われたら、そうなるのも無理はない。


「落ち着いてください」


スキル【ウィスパーヴォイス】を使用して声をかける。

これは人の心を落ち着かせる効果を持つ。


「少し話を聞かせて頂くだけですので」


「あ、貴方は?」


「私はコーガス侯爵家の執事、タケルと申します。横の彼女は同じ執事のエーツーです」


俺は堂々と名乗る。

そもそも顔も隠していない。

今後、バイカーにはうちで働いてもらう事になるからな。


――監視付きで。


この後テライルを殺し、ジャッカー家を崩壊させるのだ。

バイカーも自分が話す情報から、その犯人が誰かを容易く推測する事だろう。

テライルが優秀だからと雇った人物な訳だからな。


コイツがただの一市民ならそこまで気にする必要はない事だが、この男はそうではない。

大貴族である侯爵家の元使用人だ。

他の貴族や商家に、伝手を持ってる可能性がある。


そしてテライルにアブリス侯爵家の事を話した様に、新たな雇用先で今日の事を話す。

それは容易に想像出来る事だ。


――だから確保する。


勿論、拒否権はない。

コーガス侯爵家没落に直接関係している訳ではないが、仮にもその真実に触れながらなにもしなかった様な奴だからな。

なので配慮無用。

嫌がっても力尽くで屈伏させるまでだ。


「こ、コーガス侯爵家……」


「30年前の、コーガス侯爵家の没落。その事に詳しいとお伺いしましたので、その話をお聞かせ願いたい」


「30年前……」


コーガス侯爵家の人間に30年前の事を知りたいと聞かれ、バイカーがテライルを見た。

その視線にテライルは黙って頷いて答える。


「……わ、分かりました……私が知っているのは……」


バイカーの話の内容は、テライルの物とほぼ一緒だった。

特に新事実的な物はない。


まあそれは最初から分かっていた事だし、問題はない。

これはあくまでも、審議判定の確認だからな。


「これが、私の知っている全てです」


『すべて真実だ』


「お話、ありがとうございます」


さて、情報の裏は取れた。


「ふむ……最後の情報は有益な物と言わざる得ませんね」


「では……」


「ええ、約束どおり……ご家族の命は保証いたしましょう。但し先に宣告した通り、この商会は叩き潰します」


俺の言葉に、事情を知らないバイカーがギョッとした顔になる。

まあこの際、コイツの事は放ってく。

一々説明せずとも、優秀なら此方のやり取りから事情をくみ取るぐらいはするだろう。


「では、席におつきを。そしてここに、商会に関する情報を全て書き込んでください」


テライルに席に座るよう勧め、商会の情報を書き込ませる。

財産などを把握する為に。


商会の財産は全て消滅させる。

接収などはしない。

前侯爵夫妻の血を吸って築かれた汚れた富など、コーガス侯爵家は決して受け入れないからだ。


「これで全てですが?意図的に隠している物があるなら……」


「そんな愚かな真似はしない。それが私の知る全ての情報だ」


エーツーに視線を送り、真偽の確認をする。


『嘘は言っていない』


嘘は言っていない様だ。


「では――貴方には死んで貰います。何か言い残す事は?」


「家族は助けてくれるという約束……ちゃんと守ってくれ……」


「コーガス侯爵家の名に懸けて、約束は守りましょう」


「それならいい」


テライルは満足そうに頷くと、そのまま目を瞑った。


「……」


俺は座るテライルの背後に立つ。

そして手刀を振り上げた。

これを振り下ろせば、報復完了だ。


……これで前侯爵夫妻の無念が張らせる。


本当にそうか?


本当にそうなのか?


黙って目を瞑るテライルを見て、そんな疑問符が浮かぶ。


財産が失われるとはいえ、こいつは家族を守った。

だからこそ、こんな落ち着いて最後が迎えられるのだ。


だが、だが……前侯爵夫妻は……


彼らは、侯爵家の誇りさえ捨てて子供達を守ろうとした。

だが、この男のせいでそれは叶わなかった。

毒で死にゆく中、侯爵夫妻はさぞ無念だった事だろう。


なのにこいつは家族を守り、満足して死んでいく?


そんな事……

そんな事が……


胸の内から、何かが湧き上がって来る。

それが俺の心を真っ黒に染めた。


「許される訳ねえだろうが!」


俺は怒りに任せ手刀を振り下ろす。

但し、それはテライルの首に向けてではない。

俺が刎ね飛ばしたのは奴の耳だ。


「ぐっ……うぅ……がっ!」


奴の座っているイスの足の部分を蹴りでへし折り、テライルを転ばせる。

そして痛みに耳を押さえる奴の体を踏みつけ、上から見下ろす形で俺はテライルにこう告げた。


「気が変わった」


と。


「ぐ……何を……」


「これからお前を一ヵ月の間拷問する。その間、命乞いや自ら死を望む言葉を発したら……その時はお前の一族も皆殺しにする」


「拷問……話が、話が違うではないか!」


「クライアント側が、契約間際になって全てを引っ繰り返す。商売の世界じゃ、そんなのよくある話だろ?」


商売の世界は詳しくない。

だが、立場の強い側が理不尽を押し付けるなど、どこの世界にでも転がっているありふれた話である。


「コーガス侯爵家の……誇りをかけた約束をしただろう。それを違えるのか?」


「誇りよりも大事な物があるんだよ。だいたい、誰が約束を破った事を周囲に言いふらすんだ?」


バイカーを見ると、彼は悲鳴を上げてその場で蹲る。

エーツーは俺の支配下だ。

つまり約束を破っても、誰も周囲にそれを言いふらす者など居ないという事だ。


自尊心?


そんな物くそくらえだ。

俺は必要なら何でもする。


「く……」


俺の開き直った言動に、テライルが表情を歪めて黙り込んだ。


「良い顔だ。まあ家族を守りたいなら、精々頑張って耐えて見せるんだな」


「私が……約束を破ったばかりの、貴様の言葉を真に受けるとでも?」


「信じないなら好きにすればいい。その時はお前の目の前で、一族を皆殺しにするだけだ」


信じてもらう必要は全くない。

テライルが弱音を吐いたら、自動的に一族が皆殺しになるだけ。

寧ろ、その方がこいつを苦しめられると思うと、そうあって欲しいとすら思っている。


「く……」


「ああ、そうそう。言っておくが……俺は死亡直後なら魔法で蘇生できるから、ぬるい拷問は期待するなよ。死んだら、蘇生して続けるだけだ」


拷問は俺が手ずから行う。

まあ他に任せられる人間が居ないというのもあるが、途中で死なれでもしたら困るからな。


「おい。お前にはテライルの拷問を手伝って貰うぞ」


「ひぃ……」


テライルを気絶させて担ぎ上げ、蹲って震えていたバイカーの肩を掴んで引き起こす。


こいつには一月、拷問の助手を務めて貰う。

俺を敵にまわしたらどうなるかってのを、よく見せつけておけば後々コントロールししやすくなるだろう。


「さて、そうだな……拷問は魔王の秘密の部屋でいいか」


魔王の肉体を封じている場所。

あそこなら邪魔が入る心配はない。


「では行こう」


俺は転移魔法を使い。

魔王城の地下へと転移した。


拷問にテライルが耐えたら、本当に一族は見逃すのか?


もちろん見逃すさ。

耐えられればの話ではあるが。


――但し、たとえ耐えても、テライルのトドメを指す前にフェイクの一族死体は見せつけるがな。


こいつは絶望の中、苦しみ死んでいくべきだから。



俺は、自らの内から湧き上がって来るどす黒い衝動に疑問を持つことなく、心を委ねるのだった。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。


評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作宣伝
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
『現代ファンタジー』ユニークスキル【幸運】を覚醒したダンジョン探索者が、幸運頼りに頂上へと昇りつめる物語
天才ですが何か?~異世界に召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレとして放逐されてしまう~だがやがて彼らは知る事になるだろう。逃がした魚が天に昇る龍であった事に
異世界に召喚されたがハズレクラスだったため異世界に放棄された主人公。本来なら言葉すらも通じない世界に放り出されれば絶望しかない。だが彼は天才だった。これは持ち前の超学習能力で勇者を越える存在へと昇りつめる天才の物語
無限増殖バグ始めました~ゲーム世界には運営が居ない様なので、本来ならアカウントがバンされる無限増殖でアイテム増やして最強を目指したいと思います~
気づいたらゲーム世界。運営がいるならと、接触するためにBAN確定バグを派手にするも通知来ず。しょうがない、もうこうなったらバグ利用してゲーム世界を堪能してやる。目指すはゲームじゃ手に入れられなかった最強装備だ!
― 新着の感想 ―
勇者の人選が間違って…いやある意味正解なのかw でも正直拷問して諸々よりはサッサと次にいった方がぽい気もしたけどなぁ 両親のエピソードがないから正直復讐に対してやれやれーとも思えないしね
今まで見た感じ普通に終わらせた方が気持ちよかった気がするなー 最後は腹括って一族の為に交渉したテライルの方が他の人も言ってるけど感情移入できる
ここまでは合理的で割り切った性格の勇者だなぁで済んだけど、ここにきて闇堕ち勇者の素質が。 直接の家族が惨殺されたとかならともかく、面識のない子孫でしかも正義感拗らせてヘイトを買ってしまった世代のこと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ