第89話 見つけた
「皆さん、急な召集にも拘らずお集まりいただきありがとうございます」
レイミーが大会議室の上座に座り、貴族会議が始まる。
今回は新領地に作られた町で行っているので、十二家の引き連れてきた護衛は以前の様に大人数ではなかった。
まあそれでも若干過剰な気はするが、それは以前の経験からくる警戒の為だろう。
俺が身に着けている、大河の発明品の示す反応からもそれが良く分かる。
……まったく、疑り深い奴らだ。
「本日皆様にお集まりいただいたのは――」
議事進行として、俺が表向きのお題を並べる。
領地の現在や展開の進捗状況や、聖女への貢物の受付や面会など、ごくごく他愛のない内容である。
まあ聖女関連には多くの奴らが食いつてきたが……
侯爵家経由であろうと、聖女へのパイプが出来れば何かあった時便利だとでも思ったのだろう。
なにせ誰にも手出しできなかった魔王の呪いを解いた偉人だからな。
作っておいて損はないと思うのも当然だ。
「以上を持ちまして、本会議を終了したします」
「いやはや、素晴らしいですな。このまま順調に進めば、かつてのコーガス侯爵家の権勢を取り戻す日も近い事でしょう」
ケリュム・バルバレーが席から立ち上がり、拍手を始める。
いわゆる『よいしょ』だ。
しかも盛大な。
この行動は、利益を追求する商人だから、という訳ではない。
何故なら、これは俺が指示した物だからだ。
会議終了と同時に、領地発展を褒めたたえる様にと。
ちょっと持ちだしたい話があって、これはそれが不自然にならない様にするための誘導である。
バルバレーはコーガス侯爵家に取り入る姿勢を堂々と見せているので、この行動が俺の指示である事に気付く者もいないだろう。
「確かにそうですな」
「侯爵家の未来は明るい」
それに釣られ、他の十二家の人間達も立ち上がって盛大に拍手を始める。
心の籠っていない少々寒い絵面ではあるが、まあそれ自体はどうでもいい。
実際、領地関連は公国からの移民が止まりそうで手放しで絶賛できる程順調な訳でもないしな。
拍手の中、俺に促されレイミーが笑顔で会議室を出ていく。
――さて、じゃあ本番と行こうか。
「皆様、ありがとうございます。現在の侯爵家の復興を知れば、今は亡きレイミー様のご両親――前コーガス侯爵夫妻も、きっとお喜びになる事でしょう」
レイミーが退出し、拍手が止んだ所で俺は先代侯爵夫妻を話題に上げる。
そう、『今は亡きレイミーの両親』。
これこそが、ケリュム・バルバレーに命じてまで流れを作って出したかったワードだ。
この言葉に対する反応を見たくて、俺はこの会議を開いたのである。
殺した相手の話題が出れば、犯人から何らかの負の感情を引き出せる可能性があると考え。
一々話題を自然に出したのは、不自然に出すと犯人以外も大きな反応を示す可能性があったからだ。
以前コーガス侯爵家は十二家に攻撃的な――まあ一言で言うと、嫌がらせからの巻き上げを行っている。
そんな俺達が不自然な話題を出せば、絶対この場にいる奴らは何らかの負の感情を抱く事になるはず。
そうなると判定が難しくなると判断したから、こんな寒い事までやったという訳だ。
――そしてその成果はあった。
別室でモニターを確認していうた俺の分身が、それを確認する。
明らかに他の人間とは違う、ある人物の強い負の感情を。
大金星だ。
結構駄目元だったんだが、大河には感謝しかないな。
「それでは皆様、本日はお忙しい中本当にありがとうございました」
俺は笑顔で見つめる。
異常な負の感情を示した、コーダン伯爵家から情報を得ていた三家の中の一人。
犯人――テライル・ジャッカーの顔を。
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