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第85話 夢

「くくくくくくくく……」


深い闇の中から、濁った赤い瞳が此方へと向けられていた。


――俺はその目をよく知っている。


――そう、それは大魔王コリポレの瞳だ。


「またか……」


奴は既に倒している。

なので、今俺が見ているのは只の夢幻だ。


「魔界から帰って、もう結構経っているんだがな……」


未だにちょこちょこ大魔王が俺の夢の中に出て来る。


……まあ倒すのに100年もかけた訳だし、しょうがないか。


俺はその人生の大半を、大魔王討伐に捧げて来たのだ。

終わったから『ハイ次いこ次』と割り切るには、余りにも長く奴にかかわり過ぎた。

未だに夢に出て来るのも仕方ない事だろう。


「とは言え……ウザい」


いつもならこの後大魔王が『我は不滅。いずれ貴様は我によって』――とか続くのだが。


冷静に考えると、折角の就寝中に夢の中で長々とこいつと対面などウンザリである。

ので、俺はなんとなく魔王の赤い両目に人差し指と中指を勢いよく突き込んでみた。

目潰しって奴である。


「ぎゃああああああ!!」


目を突かれた大魔王が断末魔の声と共に消えていく。

本来の奴ならこの程度笑いながら反撃して来た事だろうが、所詮は夢である。

弱い事この上なしだ。


「ははははは!勇者様の力を思い知ったか!この雑魚め!俺に勝ちたきゃ100年――ん?」


急に世界が揺れる。

いや、揺れているのは俺の体だった。


「おいタケル!」


俺の体が揺れていたのは、横で寝ていたシンラが揺すっていた為の様だ。


「急にどうした?」


「急にどうした?それはこっちの台詞だ。急に大声で笑いだすから、ビックリして目が覚めてしまったではないか」


「ああ……そりゃすまん」


どうやら夢の中での勝利宣言に合わせて、無意識下で口が動いてしまっていた様だ。


「まあ構わんが……一体どんな夢を見ていたんだ」


「ん?ああ……大魔王の夢さ」


「なるほど大魔王か……いやまて、それはおかしくないか?大魔王が出て来る夢の何処に笑う要素がどこにあるというのだ?」


「ああ、それなんだが……ちょっと目突きしただけで叫び声上げて消えていく姿を見たら、なんかテンションが上がってさ」


100年もかけて頑張って倒した強敵が、夢の中とは言えあっさり倒せた事がツボったのかもしれない。


「まあタケルは大魔王に長らく苦労されていた訳だからな。倒したからと言って、それまでため込んでいたストレスが綺麗さっぱり消える訳もないか。どれ……」


シンラが本格的に起き上って、何故かベッドの上で胡坐をかいた。


「話を聞いてやろう」


「何でそうなる?」


「お前は魔界での事を、全く話そうとしないからな。無理に聞く気はなかったのだが、夢に出る様なら話は変わって来る。私に話して楽になるといい」


「いやいや、別に暗い感情を抱えたりはしてないぞ。俺は」


辛い思い出だったのは、まあ確かだ。

だが、いつまでも引きずって抱え込む程の物ではなかった。

そもそも、自分で言うのもなんだが、俺はメンタルが超強い方だからな。


だいたい夢に出て来るのも、魔界での事ってより、もっぱら大魔王単品だけだし。


要は奴の事を考えながら生きて来たから、残滓みたいな物が脳裏にこびり付いているに過ぎないのだ。

なので聞いて貰えばスッキリとか、そういう事にはならない。


……それに、あんまシンラに話せる内容じゃないんだよな。


魔界時代はかなりやりたい放題やっていた。

特に初期は魔族をムシケラ以下にしか考えていた事もあって、振り返ると自分でも引くレベルだったりする。


なのでとてもではないが、純粋なシンラにそんな話は出来ない。


「遠慮するな。私とお前の仲だろう」


「親しき仲にも礼儀ありだ。人様の過去を詮索する様な事はするな」


シンラの要求は無視して、そのまま頭から布団に潜り込む。

が、それを引っぺがされてしまう。


「良いから話せ」


どうやら彼女はてこでも俺から話を聞き出すつもりの様だ。

真夜中だというのに迷惑極まりない。


まあその真夜中に急に笑って横で寝てたシンラを起こしたのは俺な訳だが……そこは不可抗力だ。


「俺は明日、第三王子達を迎えに行かないと駄目なんだが?」


第三王子保護の話はとんとん拍子で進み、明日迎えに行く予定となっている。

それを理由に断ろうとするが――


「お前は別に1週間寝なくても大丈夫だろうに。さあ早く話せ」


――俺の事をよく知るシンラには通用しない。


「やれやれ」


どうあっても寝かせてくれそうにないので、俺は諦めて体を起こした。


仕方ない。

とは言えそのまま話すのははばかられるので、話はふわっとオブラートに包みエグイ部分は暈すとしよう。


「魔界に行った俺は――」


ああ、因みに――


俺はシンラと一緒に寝てるが、単純に一緒に寝てるだけだぞ。

特に何かをしている訳ではない。


シンラ曰く。

俺の周りには精霊の力――世界樹周りに満ちている力――が感じられて安心するそうな。

だから無防備な睡眠の時間は、俺と一緒に寝てる感じである。


まあ周囲にそういう仲だと誤解されてる可能性もあるが、大した弊害がある訳でもないから問題なしだ。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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シンラおまいたんか
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