第75話 屁の河童
「子供にこんな真似をするなんて……絶対に許せない……」
アークが肩を震わせ、怒りの声を漏らす。
このまま怒りに任せて飛びして、今にも無双ゲーを始めそうな雰囲気だったが、それをニンジャマンが窘めた。
「気持ちは分かる。でも……今は王子の保護が優先よ。怒りに飲まれれば、大事な事を見失う事になるわ。堪えて」
しかも真面な言葉で。
『おまえ普通に喋れるんじゃねーか!』という突っ込みは控えておく。
今は狼だし。
いやまあ狼じゃなくても、空気は読めるから言わないけど……
因みにニンジャマンはムキムキの見た目だが、声は常時女の子の声だったりする。
なので変装している女性だと言う事は皆承知していた。
「ああ、そうだな……」
「このまま王子を動かすのは危険だわ。潜入がバレてリスクが跳ね上がってしまうけど、まずは回復魔法で最低限の治療だけでもしましょう。アーク、タルク、お願い出来る?」
王子の容体は酷く、そのまま動かすのは危険だ。
下手をしたら、運んでいる最中にこと切れかねない。
だからローラの判断は正しいと言える。
「分かった」
「まかせろ」
とは言え、リスクの跳ね上がり方は相当なものだ。
「警報が」
「分かっちゃいたけど、速攻かよ」
回復魔法を使った途端、王宮全体に警報が鳴り響く。
どの位置で魔法を使ったのかもバレバレなので、直ぐに兵士達がこの場に押し寄せて来るだろう。
ふむ……こりゃきつそうだな。
王子の状態はくっそ悪いのに、二人の使える回復魔法は低レベルの物でしかない。
そのため、動かせるだけ回復させるのに結構な時間がかかってしまう。
包囲待ったなしだ。
いくらこの面子の腕が立つとは言え、瀕死の王子を連れての本格的な包囲網突破は容易ではない。
派手に動かしたら、多少の応急手当程度じゃ王子は持たないだろうからな。
しかも今動いてる奴らの気配の中に、ちらほら腕の立つ連中が混ざっているのが感じられる。
どうやら平和ボケしているエンデル王国より、一部の騎士のレベルは公国の方が高い様だ。
このまま王子を下手に庇いながら脱出したら全滅もあり得る……か。
仕方ない。
ここは一肌脱いでやるとしよう。
ま、既にフルチンな訳だが……
「回復はこれ位にして、急ぎま――「うおおおおおぉぉぉぉぉん!!!」」
回復魔法を切り上げるタイミングで俺はサイズを元に戻し、雄叫びを上げる。
そしてそのまま壁に体当たりして大穴を開けた。
「ウル!?」
急な俺の行動に、皆が驚きの声を上げる。
「どうやらウルは囮を買って出てくれた様でござるな」
そんな中、俺の行動の意図を理解してかニンジャマンだけは冷静だ。
「そんな!?ウルを犠牲になんて出来ない!!」
「そうよ!これ位どうって事ないわよ!」
「いや……この状態の王子を庇いながらとなると、脱出は結構きついで御座るよ。ここは忍犬であるウルに任せるべきでござる。ウルなら最悪、縮んで姿をくらます事も出来るでござろう」
ニンジャマンの言う通り、かき乱して脱出するぐらい余裕だ。
その気になれば全滅させる事だって出来るぞ。
まあしないが。
「しかし……」
『ぶぅぅぅぅぅぅぅぅ』
小汚い音が響く。
ぐだぐだ続きそうだったので、一発かましてやった音だ。
おならを。
「くっさ!!」
「ぐわぁ!目が!?」
「げほっ……げほっ……ウル……なんて事するのよ」
俺の強烈な屁に、その場の面子が悶絶する。
想像してたより効果覿面だ。
初の試みだったが、これは結構使えるかもな。
雑魚制圧辺りに。
……大河に増幅拡散できるアイテムの依頼でも出すか。
ああ、安心してくれ。
もちろん第三王子には影響ないよう、流れはちゃんと制御してある。
死亡原因がオナラとか、流石に不憫すぎるしな。
「ウルはその程度屁の河童と言いたいようでござるよ」
ニンジャマンが俺の意図を見事にくみ取って見せる。
口調は変だが、鋭い感性を持ち合わせているのは流石ニンジャと言えるだろう。
「ウル……」
「うおおおおぉぉぉぉん!」
俺はもう一度吠え、そして開けた穴から飛び出した。
巨体の狼である俺が吠え暴れまくれば、自然と注意が集まり包囲に穴が開く。
アーク達にはニンジャマンが居るので、その辺りは的確に動いてくれるだろう。
「なんだ!狼だと!?」
「何だってんだ!?」
「射殺せ!!」
「うおおおおおおおんん!!」
さあ、ちょっくら鬼ごっこと行きますか。
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