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第22話 集金完了

「はぁ……」


小さく溜息をつく。


結局、暗殺者から引き出せたのは奴らの組織が【闇蠍やみさそり】と呼ばれる犯罪組織である事。

そしてその支部の位置だけだった。


支部の位置が分かったのなら、そこからさらに情報を引き出せるのでは?


もちろん俺もそう考え、速攻で支部は壊滅させている。

そしてその場にある書類や捕らえた奴らを拷問し、更なる情報を引き出そうとした。


――だが、情報は徹底的に遮断されてしまっていたのだ。


そのため、闇蠍の本部や他の支部のありかは疎か、依頼主が誰であったのかすらも結局分からずじまいに終わってしまっていた。


完全にやらかした訳だ……


怒りと、そして相手への侮りから、短絡的な行動に出てしまった自分の愚かさが恨めしい。

分身を使って時間をかけ、じっくりと炙り出してさえいればこんな失態は冒さなかったはず。


「だが……だからって俺から逃げ切れるとは思うなよ」


現時点での手掛かりは【闇蠍】という組織の名前だけ。

だがそれだけ知っていれば十分だ。

時間も手間も相当かかるだろうが、犯人共を逃がすつもりは更々ない。


コーガス侯爵家に手を出そうとしたんだ。

必ず地の果てまでも追い詰めて、その罪の対価を支払わせてやる。


「ふぅ……」


心のイラつきを吐き出す様に、もう一度溜息を吐く。

これから三回目のコーガス家の会議だ。

切り替えて行こう。


「コーガス家当主代理!レイミー・コーガス様がおなりになりました!」


扉を開け、レイミーに扮した分身と共に会議室へと入った。

今回の参加者は十一名。

すでに支払いを済ませているバルバレー家には、当然欠席の許可を出してある。


この十一家の誰かが……


タイミングや状況を考えて、暗殺を依頼した者がこの十一家の中にいる事は疑いようがない。

そいつがのうのうとこの場に顔を出している事に、再び腸が煮えくりそうになる。


我慢しないとな……


短気は損気。

報復は後々の楽しみとして取っておく。


「本日の議題は、当領地の一部の借地契約が成立した事でコーガス侯爵家の財政状態が好転した事のお知らせになります」


一々説明しなくとも、誰がそんな契約をしたかは一目瞭然だろう。

席が空いていて、前回までその場にいたまとめ役が居ないのだから。


「発言を宜しいか」


神経質そうな男が手を上げる。

ジャッカー家の当主、テライル・ジャッカーだ。


随分と顔色が悪いな……


まあ砦に来るまでに、前回より熱烈な魔物達の歓迎を受けたのだ。

先の事を考えて、暗い気分になるのは当たり前か。

他の奴らも似た様な顔色をしているし。


コイツだけがそうなら、暗殺失敗の報を受けてとも取れるんだがな。

なので、顔色だけでは犯人と断定する要素足りえない。


「どうぞ」


「ありがとうございます。実は先日お伺いした件の事でして……我がジャッカー家も、是非コーガス侯爵家の領地の一部をお借りしたいと思っております」


テライル家は、金を払う事を決めた様だ。

まあそれが賢い選択である。

回を重ねれば重ねる程、無駄な出費が増えるだけだからな。


「そうですか。では、そのお話は会議終了後にお伺いしましょう」


「あの……」


三分とかからず会議が終わると、他の連中も次々と自分達もと申告して来た。

中には価格交渉をして来る者達もいたが、当然そんな希望を受け入れる訳もない。


「特定の方だけ値引きしたのでは、公平性が保てませんので。そもそも、現状が最大限譲歩した価格になっております。この価格が難しいとおっしゃられるなら、まあ仕方ありませんね。ですが……コーガス侯爵家がいつまでも皆様に譲歩を続けると思われている様でしたら、その考えは早計と言わざる得ないでしょう」


そのうち値上げするよと笑顔で宣言してやったら、交渉しようとしてきた奴らも諦めてか、しぶしぶ此方の言い値で借地契約を結ぶ事を決めた。


「では皆さま、契約書をお渡ししますので御目通しください」


全員に用意していた書類を配る。

その場で契約を締結する者。

代表の代理であるため、一旦持ち帰る者。

まあ取り敢えず、これで十二家からの金の巻き上げは完了だ。


俺はこの金を使って、本格的にコーガス侯爵家の領地を手に入れる予定である。

そして手に入れる場所はもう決まっていた。


王国最南部に位置し――


呪われた地。

破滅の傷跡。


――などと不吉な名で呼ばれる場所。


そう、元魔王城を中心とした一帯だ。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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