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第101話 困った

「まあ3割なら悪くない方か」


屋敷にある自身の執務室で書類を眺め呟く。

何が3割なのかだって?

ジャッカー商会の労働者の回収――誘致の成功率だ。


商会の労働者達は、ある日突然職を失っている。

しかもその月の給金は出ていない――商会の財物全部叩き潰したのだから、まあ当然ではあるが。


で、その弱みに付け込んで――ではなく、主家として、従家の尻ぬぐい代わりに住居や高額な報酬を従業員達にコーガス侯爵家は約束した。

そしてその結果、話に乗った来たのが3割という訳である。


え?

少ない?

そうでもないさ。


いくら仕事を失ったとはいえ、未だイメージの悪い旧魔王領に来たくないと思ってる人間は少なくないからな。

それ以外にも、今住んでいる場所を移りたくないって考える者達だっているだろう。

だから、寧ろ3割なら悪くない方だ。


因みに、ジャッカー家の人間は全員コーガス侯爵領で働く事になっている。

給料未払いで従業員達からしこたま恨まれている訳だからな。

自分達で身を守れない以上、うちの庇護下に――一族の財産もほぼほぼ全て叩き潰してるので彼らには金がない――入らざるえないという訳だ。


「どうぞ」


扉がノックされ、俺は許可を出す。

入って来たのはエーツーだ。

まあ入って来るだいぶ前から気配で分っていた訳だが。


ならノックはいらない?


そんな事はない。

これはマナーの問題だからな。

上司である俺の執務室にエーツーがノックもせず入る姿を、他の従業員に見られるのはよろしくないのだ。


「トナール領から、返事の手紙が来たぞ」


「ふむ……」


エーツーから便箋を受け取り、ペーパーナイフを使ってその封を切る。

そしてその内容に目を通した。


「オーケーの様だな」


俺は直ぐ横のトナール領に、ある打診をしていた。

それは転移ゲートの設置だ。

これを設置出来れば、コーガス侯爵領への物資の搬入がスムーズに進むため打診したのである。


ぶっちゃけ、トナール側からすればゲート設置を許可する経済的メリットはない。

にも拘らずオーケーの返事が返って来たのは……まあぶっちゃけ、聖女効果だ。


ゲートがあれば、病気になった際などすぐに治療を頼んだりできる様になる訳だからな。

安定した立場の貴族からすれば、唯一の懸念点に対する保険は喉から手が出る程欲しかったという訳である。


因みに、ゲートの技術自体は特に珍しいもいのではない。

なので何処の国でも設置は可能だ。

だが、実際に運用されているのは極極一部だったりする。


何故か?

それはゲートの発動や維持に、大量のエネルギーが必要となるからだ。


どれくらいかと言うと……


そうだな、発動にかかるエネルギーは、この国のちょっとした都市の一か月を支えるのに必要なエネルギー量と同じぐらいだと言えば、それがどれぐらい大量か理解してもらえると思う。

維持の方も、1日でだいたいそれと同じぐらいである。


なので、ゲート自体は設置してあっても、どの国も緊急時以外休止状態にされているというのが実情だ。


設置するとして、エネルギーはどうするのか?

そんなの決まってるだろ。

魔王から抽出しているエネルギーを使う。


今は死ぬ程余らせてる状態だ。

バンバン使って行かないと勿体ないからな。

そのための問題も解決してるし。


唯一の問題点であった、ゲートが離れた場所に設置されるという――流石に魔王城の直ぐ近くにゲートは作れない――部分も、大河が携帯型エネルギーチャージャーを発明した事で解決している。


まあ表面上は、聖女の古い友人である大魔法使いがタケコの伝手で侯爵家に所属する事になって、その魔力を使って維持するって事になってるが。


「順調そうで何よりだ」


「他の事も順調に進んでくれると有難いんだがな」


今現在頭を悩ませているのは、アブリス侯爵家の事についてだ。

現在の当主は35歳と若いため、30年前の時間に関わっていない事は確実である。

そして、前当主はもう既に亡くなっていた。


――つまり、当事者確定の人物はもういないという事だ。


そうなると、非常に動きづらくなってしまう。


アブリス侯爵家はほぼ黒確定なので、叩き潰すのは決定事項となっている。

だが、俺は直接かかわった人間以外はもう殺さないと決めていた。

テライルの際の、エーツーとのやり取りから。


つまり、殺すこと前提の情報の引き出しは出来ないという事だ。

当事者確定の前当主以外は。


だがそいつは既に亡くなっている。

そのため、迂闊な尋問なんかはもう出来なくなってしまっていた。

尋問後生かすという事は、此方の情報を相手側に渡す事になるからな。


それは余計なリスクにつながる為、出来れば避けなければならないのだ。


「大河に人の記憶をなくす様なアイテムが作れないか、頼んでみるか」


「随分と物騒な頼み事だな」


「それぐらいできないと、動きづらくてしょうがないんだよ」


我ながら、余計な制約を自分に課したものである。

何も考えず全員(さら)って、口を割ってから始末できないってのは、本当に不便だ。


まあ地道に調査するしかないんだが……


大河えもんが素敵アイテム作ってくれんかな?

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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