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ダブルス!  作者: 和貴
11/30

11、ひとり試合?

『ウオー』と言う悲鳴交じりの雄叫びがした。

「っぶねーな!」

「しっかりしろよ!」

俺へのヤジが飛ぶ。

「サーティラブ」


な、なんだ? 何が起こった?

自分に起きた事が信じられなくて、俺は飛んで行ったラケットの方を見ながら呆然と立ち尽くす。

あんな小柄なヤツのサービスで……俺が構えていたのに吹き飛ばしやがった。見た目パワーも全然無いサービスだと思ったのに。

ボールの芯を捕らえ損なった事と、俺の振り遅れが重なったせいでフレームが本田の球威に押し負かされたんだとは思うんだが……でも、あのコンパクトな体型であんなに重いサービスが打てるものなのか?

俺はラケットを握っていた左の掌を開いて視線を落とした。

弾き飛ばされた瞬間の掌に奔った痺れがまだ残っている。

「明神、早くラケット取りに行け」

「あ、ハイ」

先輩の声に我に返る。

「ドンマイ明神!」

「気圧されてンじゃねーぞ」

慌てて拾いに行くと、みんなから温かく応援された。

「そうそう! 一球で良いんだからさっさとリターン決めて終わらせろよ」

先輩から簡単に言い切られてしまった。

フレームだけのラケット対戦、俺的にはそんなに難しくはないと甘く見ていたんが……相手がちょっと悪かった。

ベースラインに立ち、左手でボールを地面についている姿からは、ブランクがあったとは思えないほどの鋭い気迫を感じる……って、そりゃあそうだ。本田は元県大会の優勝者。いい加減な気持ちで対戦すれば、手痛いお返しを喰らってしまうのは必須だ。

そんな事を考えながら視線を泳がせると、偶然本田と眼が合った。

「舐めるなよ。簡単に返せるとでも思っていたのか?」

出たよ上から目線。

まだ気迫十分じゃねーか。リタイヤするのは速過ぎるって。

俺と眼が合った瞬間、本田はフンと鼻で笑うと、一層神経を尖らせて俺を睨み付けた。

再びゆっくりとしたトスアップで身体を精一杯しならせて『タメ』を作り、サービスモーションに移る。

今度こそ、捉えてやる!

そう思って身構えたのに……アイツのファーストサーブは一直線にネットへ突っ込んだ。

「フォールト」

「よっしゃあ、チャンスだ明神!」

ファーストサービスに失敗した途端、空気が変わった。アイツから急に覇気が感じられなくなったんだ。

ファーストで失敗しても、セカンドで入れれば問題無いんだし……と思ったんだが……

「ダブルフォルト。サーティ・フィフティーン」

「サーティオール」

「フォーティ・サーティ」

「デュース」

「アドバンテージ・サーバー」

「デュース」

待て待て待てぇえええ~~~!

俺は何にも遣っちゃいねーのに、勝手にポイントが入って行く。本田のヤツがサービスで失敗を繰り返していたからだ。

「明神ファイト!」

「とにかく当てろ」

ギャラリーは熱くなっているみたいだが、俺自身はなんだかな~。リターン出来なくても本田が勝手に自滅してくれているから、本田の得点に追い縋るようにして点がどんどん入って行く。

……なんか俺、必要ないんじゃ……

ラケットを弾かれずに持ち堪えるコツを掴んだが、とにかく本田のサービスは今まで俺が受けたどのサービスよりも速くて重い。コントロールが利かずに、ホームランばかりで全くリターン出来なかった。

やっぱスゲーよ本田と感心しながらアイツを見たら、ワンセットも終わっていないのにもう肩が大きく上下している。

「アウト! ゲーム」

やっとこさ本田は自力で一ゲームを取った。

事故で怪我を負ってから、真面目にリハビリを遣って居ないのがバレバレだ。サービスが一番攻撃に有利な分、消耗も激しい。先ずは体力を付けないと四ゲームなんか無理だろう。

考え事をしていたら、本田がボールを投げて遣した。

「ほら、次、お前のサービス」

「良いのか? このまま続けても」

「はあ? 何言ってる?」

「お前、百歳のじいちゃんみたいだ」

死に掛けてるだろ。

「何だと?」

「いやマジで。そんなに息が上がってるのに、ゲームなんか続けられないだろうが」

そう言った途端、本田は顔を真っ赤にして怒り出した。

「黙れ! 侮辱するな!」

「侮辱って……いや、そんな気は全く無い。第一、コイツできっちり返せると思っていたのに出来なかった」

『それだけお前が上手いって事だよ』と言おうとしたのに、その台詞を阻まれた。

「まだ終わってない!」

尋常じゃ無い荒い息を吐きながら、滝のように汗が顎を伝って滴り落ちている。本田は右手首にしていたリストバンドでその汗をぐいと拭い、大きく深呼吸を繰り返して荒くなった呼吸を整える。

「打ってこい!」

俺から馬鹿にされたと勝手に勘違いしているらしい本田は、ムキになってベースライン近くのバックコートでラケットを構えた。


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