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はじまりの朝 

「ふぁ……」

 目が覚めて薄目を開けると、部屋の中は暗く、眠り足りない感じが残っている。

 頭上にある目覚まし時計の針は午前三時を示し、四月の朝はまだ寒かった。

 冬掛けの布団を肩が隠れるように羽織り、腕の中にいる玉ちゃんを抱きしめると、もふもふした温もりが伝わり心地良い。

 玉ちゃんはくぅくぅ声を漏らしながら舟を漕いでいるようだ。

「ふふふ、暖かい」

 これが稲荷神様だというのだから、笑みが零れ出てしまう。

 まるで子犬のように愛らしい仕草は顔をスリスリしたくなるぐらいだ。

 それに癒されている内に僕は又眠りについた。 


 

「ふにゃ……」

 くすぐったい。

 再び目が覚めたら、玉ちゃんの黄金色の尻尾が僕の顔の辺りに揺れていた。

 九本ある尻尾が顔や首らへんを無意識にくすぐっているのだからたまったものじゃない。

「まったく、玉ちゃん寝相悪すぎだよ!」

 胸元で抱きしめるように定位置に戻すと、幸せそうな玉ちゃんの顔が見えた。

 夜明けが近いのだろう、窓から朝の光が部屋に入り始め僕と玉ちゃんを照らしている。

 そろそろ起きないといけないかなぁ、と思いつつもこの布団の中のぬくぬくした時間は捨て難かった。

 だけど――お尻の辺りが寒いことに気付いた。

 布団をずらしてお尻の方に掛けるも効果が無い。

「うん? なんでだろ」

 疑問を感じた僕が布団を見たけど、特に捲くれているような様子も――

「って、ええ!?」

 ここで異変に気付く。

 目の端に金色の塊が写ったのだ。

 その金色の塊は、先程見た玉ちゃんのモノに良く似ているような……

 嫌な予感がし、パッと起き上がって布団を捲くる。

 すると、そこには――

「なっ! なんであるのぉおお!!」

 僕のお尻からパジャマを押しのけるようにして大きな尻尾が出ていたのだ。

 その際に、玉ちゃんが僕の腕から太ももにずり落ちていったけど、それどころじゃない。

 震える手で、尻尾を触ると感覚がお尻の方まで響いてくる。

「もふもふしてる……」

 そのまま、無意識に何度も触っていたせいで、とても心地よくなってきた。

 お尻の方までだった刺激がお腹まで広がりジンジンするような感じがする。

「これは、気持ちいいよ――」

 蕩けるような甘い声を吐き、顔が上気してくる。

 その声が耳に入り――

「はっ! 何してるの僕は!」

 首を振って今の現状を再確認することにした。

 緩んでいた表情も元に戻す。

 今度は、気を強く持って自分の尻尾を注視する。

 黄金色に輝く艶のある尻尾は僕の体から見ても大きく、膝下までの長さと軽く抱きしめれるぐらいの太さがあった。

 どう見ても狐の尻尾だ。

 そこで、以前の玉ちゃんのやり取りを思い出した。

 僕が尻尾が欲しいと言って稲荷神になったのだから、この結果は当然なのかもしれない。

「うー。どうしよう……」

 このまま外に出たらとても目立つことになるだろう。

 現状でも十分目立つ状態であり、先日、八雲に聞いた話だと金色の妖精とかいう恥かしいあだ名で僕の通う沿線では有名になっているらしいのだ。

 尚且つ、尻尾……痴漢にあったらどうしよう。

 このもふもふ絶対触りたくなるよね!

「むぅ」

 腕を組んで考えていると、僕の膝の上で平和に寝ている狐が目に入った。

「ちょっと玉ちゃん、起きて!」

 ゆさゆさ揺すってもまるで効果が無く、ふみゃふみゃ口にして幸せそうだ。 

「……図太いな! だったらこうだ」

 玉ちゃんの尻尾を撫でながら、玉ちゃんの弱点である耳と首元を摩る。

「ふにゃ・・・・・・にゃ! はぅ」

 その刺激には耐えれなかったらしく、玉ちゃんがぶるっと首を震わせながら目を覚まし、同時にだらしなく口元を緩めて、快感に耐えるようにしていた。

「気持ちいいのぉ……もっとしておくれ……」

 玉ちゃんが催促するけども、僕はそれ以上しないで手を止める。

 玉ちゃんを可愛がるのが目的じゃなく、起す為の手段だったのだから当然だ。

「桃香もっと~」

 甘える声を出しても、気にしない。

「玉ちゃん、それどころじゃないんだよ! これ、見てよ!」

「うう、なんじゃそんなに慌てて……もっとしてくれてもいいじゃろに」

 玉ちゃんはまだ不服そうだが、僕の真剣な態度に渋々ふりふり動いていた僕の尻尾を見てくれた。

「お……」

 その途端、目を丸くして、大きな口を開けたまま静止してしまった。

 そんな言葉は聞きたかった訳じゃないんだよ!

「玉ちゃん! どうしよう――」

 まだ、止まっている玉ちゃんの体を揺すって催促する。

「あぅ……判った、判ったから揺するな。目が回る~」

「うん……」

 やっと、玉ちゃんが復帰したようなので、揺すっていた手を止めた。

 玉ちゃんはまだ目が回っているのか、首を仕切りに振っていた。

「桃香もこれで一人前じゃのう。耳も生えたしなぁ」

「え?」

 今度は僕が驚く番だった。

 慌てて、頭を触るとふわふわした毛並みを感じた。

 それに伴ない、元の位置にも耳があることを気付いた。

 飾りなのかな? でも、どうしよう……

 そう思いつつも、新しく生えた耳を触ってしまい、だんだん止めれなくなってきた。

 なんだろうこれ、敏感かもしれない。

 玉ちゃんが喜ぶのも良く判るよ……

 快楽の虜になってく――

「おーい、桃香よ、そろそろええかぁ?」

 玉ちゃんのヤレヤレという声に、「ひゃ」と声を出して今の現状を把握する。

 危ないところだった……もふ耳は気をつけないといけないね。

「う、うん、大丈夫。どうなってるのこれ?」

 赤い顔を誤魔化しつつ、玉ちゃんの目を見る。

 玉ちゃんはコンと一息付くと、

「やっと桃香の体が神族に馴染んだということじゃな。今迄は人間の部分が強く残っておったが、これで完全に神族になったということじゃ」

「そうなんだ……」

「なんじゃ? 不満でもあるのか?」

 戸惑っている僕に玉ちゃんが怪訝な表情を向ける。

「うん……だって、これ目立つもん。学校とかどうしよう?」

「なんじゃそんなことか? 神の姿を見て文句を言う罰当たりな者等居ないじゃろけどな。それに、桃香の場合は母体が人間じゃから、尻尾と耳を隠すのは簡単じゃぞ」

「本当!」玉ちゃんに抱きつく。

「ああ、本当じゃ」

 抱きつかれた玉ちゃんは苦しそうだけど、僕の胸に顔を押し付けられて鼻を伸ばしている。

 ……この狐は!

 玉ちゃんを胸元から離す。

「玉ちゃんのエッチ!」

「いや、何を言うとるんじゃ。桃香が抱きしめてきたのじゃぞ。それに娘にそんな邪なことは思わん!」

「本当に?」ジトーっと玉ちゃんを見る。

 すごいうそ臭いよね。これから一緒に寝るのはやめた方が……

「うわ、なんじゃその目、わしがそんなに信用できないんか――」

 玉ちゃんが目を潤ませている。

 それを見ると、少し悪い気もしてきた。

 実際僕は玉ちゃんのことは大好きだしね。

 狐相手に大げさだったかもしれない。 

「ごめんねー玉ちゃん」

 再び胸元に寄せて頭を撫でてあげると、尻尾と耳をふにゃっとさせて気持ち良さそうに至福の表情を浮べている。

 だけど、やっぱり胸に顔を擦りつけてくるんだよね。

 動物だから自然現象なのかな? 

 神様だし嘘は付かないよ……ね?

お待たせしました。

第二章 スタートです。

桃香は耳と尻尾を手にいれた!

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