表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/50

便箋47 鳥かご その4

 


「アダンに助けに来てほしい。この城まで来てほしいの」


 沈黙。

 俺は……吹きだした。



「プッ。あ、は……はははは! なにを……ハハハ!」

「……」


「はは……冗談だよな?」

「冗談じゃない。とにかくアダンに来てもらわないとマズいのよ」


「な、な、な、なぜ?」

「いま私の手足、(ヨロイ)に呪われてるじゃん?」


「……呪われてるね」

「これ、私の魔力を吸収してるんだよね。動かなくなったって言ったけど、いまは充電っていうか魔力を蓄積してるっぽい」


「……で?」

「たぶんこのままだと、半年くらいで魔力が()まりきると思う」


「魔力が戻ったらどうなるんだ?」

「……動く」


「うご……ま、ま、まさか」

「うん。自動修復機能があるから、勝手にカブトのとこへ行こうとする。そうなったら呪われてる私は、いっしょに連れてかれる」



「な、な、な……!」

「そりゃそうじゃん。脚甲がオートで動き出したら、強制的に私も歩いてくことになるもん」


「そ、それって」

「うん。城の外にノコノコ出てった瞬間、センサーが反応して私は毒死ってわけ」


「……」

「だからもう、アダンに助けを求めるしかないわけ。わかった?」


「……アダンがここに来たらどうなるんだ? なんか状況が変わるのか?」

「うん。アダンが私に(さわ)ったら、籠手も脚甲も()げるはずだよ」


「……」

「……そんな感じ」


「……」

「……」


 沈黙。

 今度の沈黙は重い。



「あー……どうやってアダンに手紙を出すんだ?」

「それは考えがあるから大丈夫。あとで説明するから」


「あー……手紙を出せたとして、アダンは来てくれると思うか?」

「来てもらえるような文面を考えるの」


「あー……来てくれたとして、俺たち殺されないか?」

「来てくれなくてもどうせ死ぬし。だったら殺しに来てくれたほうがマシ」


「……よくそんな落ち着いてられるな。これはヤバすぎるぞ」

「だって」


「だってなんだよ?」

「だって弟が目覚めたもんね!」


 笑う魔女。

 姿は20歳のままだったが、その顔はとても幼く見えた。



「俺なんか、なんの役にも立てないぞ」

「そんなことないよ! 私、ひとりで不安不安不安だったもん。けど弟が目覚めたってだけで、なんとかなるような気がしてきた!」


錯覚(さっかく)だ、ムチャ言うな」

「ムチャじゃない! なんとかして!」


「それだったら、この城のタヌキ魔人に頼めばいいだろ。城主に呪いを()いてもらえばいいんだ」

「絶ッッッ対ムリ! あいつに相談なんかしたら、私の手足ちぎって鎧だけ奪われる!」


「いやいや怖い怖い!」

「あいつは神器を収集するためなら、何するかわからないんだって!」


「は……はあ? じゃあ、なんでまだお前は呪われたままなんだ? なんでまだ奪われてないんだよ」

「さっき言ったじゃん! いまはまだ魔力が枯渇(こかつ)してるから、籠手(こて)も脚甲もマジックアイテムだとバレてないだけなの!」


「さ、さすがに手足を斬られるなんてことないんじゃないか? 奪うにしても、ちゃんと呪いを解いてくれるんじゃないか?」

「絶ッッッ対にない! こんなの解呪できるのはSS級の魔導士くらいだもん! あいつが私のために(やと)うわけない!」


「神よ……!」

「弟!」


 俺にしがみつく魔女。

 重くはなかったが、体重がかかったことで傷に激痛が走った。



「い、痛い! どいてくれ!」

「どかない、なんとかして!」


 ばふ!

 魔女に組み()かれるように、俺はベッドに押し倒された。籠手のとがった部品が、俺の胸に食いこむ。

 本気で痛い。


 だが魔女を重いとは思わなかった。むしろ、ひどく軽く感じた。聖鎧(クロス)の力を借りたとはいえ、この女が俺を(かつ)いで走ったとは……とても信じられない。


 俺の首もとに魔女は顔を()せ、じっと動かない。ふうふうと息をもらしながら、ぎゅっとしがみついてくる。どいてくれない。



 どうすればいいんだろう。

 右手に埋まってる石……センサーとやらは、この城から出たとたんに毒を放出する。


 じゃあここにいるしかない。

 しかし魔女の脚甲は、あと半年で勝手に動きだす。

 カブトのところへ行こうとしてしまう。


 だからアダンに来てもらおう。

 鎧の呪いを解くために、持ち主のアダンに来てもら……


 ……ムチャクチャだ。



「……」


 本当にアダンに来てもらうしかないな。

 だがどうする?

 どうやってここに呼ぶんだ?

 呼べたとして、俺たちは確実に殺される。


 どうすればいいんだ?


 いや、俺はどうしたいんだ?


 俺は……



 ……魔女を死なせたくない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ