section 14 since then and from now on
東京都心部 警視庁本庁内
「柊隊長、報告書が上がりました」
「ありがとう」
四霊と晋也の死闘から三日、佳苗はかつての部隊に戻り事後処理に追われていた。
「……うん、問題なさそうね。これで通しておくわ」
「わかりました」
そして第二中隊だった佳苗の隊は第一中隊へと名前を変え、彼女は第一中隊長兼『副指令』へと昇進したのだった。
「……変わりましたね、隊長」
「どういうこと? 」
「あ、いや。かつての隊長ってこう、常に気を張っていてちょっと堅苦しかったんですよ」
「……嫌味? 」
そんなことはないですよ、と必死に首を振る隊員。佳苗はとっさに出た彼への返答がいつものそれとは違うことを心のうちで気付き、顔には出ない程度に驚いていた。
「今の隊長、この前までに比べてすごく背中が大きくなった気がします」
「そう、本当にそうだったら嬉しいわね」
隊員たちの顔を見回し、窓の向こうへと視線を移す佳苗。視界の端に遥か上空を飛びゆく一羽の鳥が映った。
(過去は変えられないし、投げられた賽は戻せない。でも…… それでも必死に今を戦い続ける、それを四霊さんから教わった)
「ありがとう」
「誰に対してです? 隊長」
「……今回、私を救ってくれた人よ」
___________________
東京郊外 第三スラム区域内
「……お前とも、酒が飲みたかったよ」
墓石の代わりに長刀を突き刺した塚に酒を垂らす四霊。半分ほどを墓にかけると、その液体を一口だけ飲み、残りを瓶ごと刀の横にそっと置いた。
「『クラウン・ハット』戦争中、しょっちゅう飲んでたウイスキーだな。俺は煙っぽさが強すぎて飲めなかったが」
「だが癖が強いってのは熱狂的なファンがつくってことさ。残念ながら俺はこいつしか知らねぇんだ」
静かに膝をつき、晋也の墓の前で胡坐をかく四霊。彼の背から声をかけた榊は黙って四霊の横に歩を進めた。
「これでコルウスは俺とお前だけになったな、四霊」
「だな」
「これからどうするつもりだ? 」
「俺はお前と違うからな。適当にどっかで野垂れ死ぬよ」
コートの胸ポケットから煙草を取り出す四霊。煙草をくわえたと同時に榊がライターを差し出した。
「持ってるよ流石に」
「戦中はしょっちゅうライター壊してたからついな」
「ま、ありがとよ」
一息大きく吸い込んで、大きく煙を吐き出す四霊。榊は少しだけ眉をひそめたが、特に文句も言わなかった。
「またクリーニングだな」
「気づけば偉くなったもんだなサブも。そうやって全てが変わっていくわけだ」
しばらく黙り込む二人。そして四霊は静かに立ち上がり、墓から立ち去ろうとした。
「もう行くのか? 」
「あぁ、もう会わないだろうさ」
「そうか。まぁたまには連絡してくれよ」
黙って手を振りながら歩き始める四霊。その背中を見つめながら榊はニヤリと口角を上げた。
「……いずれ出会うさ。いつかは分からんがな」
ありがとうございました。これにて吾は往くは終わりですが、続編の構想はあるのでやる場合はケツに2でもつけて新しく書こうと思います。




