section12 the Impending Shadow,Signs of Storm
摩天楼の残骸の中を歩く四霊。目線の先には、スラムにしては場違いな明らかに人の手が入っている綺麗な舗道が広がっていた。
「おい、あいつだ!!」
「ぶっ殺せぇ!! 」
「遠慮はいらねぇ!! 」
「血祭りじゃあ!! 」
四霊を待ち構えていたかのように、単車に跨ったゴロツキたちが一斉にビルの影から飛び出してきた。全員が血よりも深い紅のジャケットを羽織り、銘々が片手に武器を手にしている。
「……なるほど、紅か」
立ち止まる四霊。右足を強く踏み込むと、アスファルトにヒビを入れながら青白い火花が流れ星のように地面を走っていく。
「何だ!? 」
「うおぉっ!? 」
火花が当たった単車はその場で沈黙し、搭乗者を暴れ馬よろしく背から放り投げた。舗道は車両が動けなくなるほど粉々に砕かれた。無事停車して事なきを得た連中は一斉に単車を降り、手しにた得物で四霊に襲いかかった。
「おりゃあァァ!! 」
最初から狙っていた場所を知っていたかのようにゆっくりと身をかわす四霊。ゴロツキの鈍器は地面を打ったが、アスファルトの破片をクッキーのように易易と粉砕した。
「ほぉ、まぁまぁパワーはあるんだな」
「死に晒せぇ!! 」
もう1人のゴロツキがバットスイングの軌道で四霊めがけて鉄パイプを振り抜いた。バキッ、と鈍い音が響き渡る。
「しゃあ! 手ごたえ……は? 」
「……戦闘訓練を受けてるわけじゃなさそうだな。所詮はチンピラというわけか」
四霊は片足を上げて鉄パイプを受け止めていたのだった。破れたズボンの裾からは人のものとは思えない青白い鱗のようなものが見え隠れしている。
「なっ!? そんな、お前能力が使えて…… 」
「あぁ、それも悲しいことに2つも」
腰を抜かすチンピラの目の前で拳に鱗を出現させてみせる四霊。先程豪快に単車から振り落とされた者も含めて皆が一斉に逃げるが、それを遥かに超える速さで追撃の鉄拳を後頭部にお見舞いしていく。
「ば…… 化物、め…… 」
「オメェらも似たようなもんだろ、『EATS』受けた時点でよ」
力尽きる不良達。四霊は大きく息を吐き、思い切り最後の一人の頭を踏みつけた。ザクロのように弾け飛んだ不良の頭があった場所から再び閃光が迸り、周囲の建物の照明やガラスを一瞬で破壊した。
「出てこいよ晋也。いや、この場合は『コードネーム:紅虎』か? 」
まばらに残った街灯が不気味な仄暗さで辺りを照らしていた。やがてコツコツと靴音が近付いてきて、その音の主が暗がりに浮かび上がってくる。
「やっと来たか四霊さん。随分待たせるじゃねぇか」
暗がりから現れた青年がその手に握る長刀は既に抜き身だった。
「だが指定したのはお前だ、晋也」
「もう少し早くても良かったんだけどな」
パチンと指を鳴らす晋也。次の瞬間、どこからともなく照明が点灯し、晋也の背の後ろであられもない姿で縛り上げられている佳苗がライトアップされた。
「……お前、相変わらず趣味が悪いな」
「これから命かけて戦うんだ、これくらいの演出があった方が面白いじゃないですか」
ゆっくりと刀を持ち上げる晋也。対する四霊は構えを取ることなく目の前の青年を睨みつけていた。
(四霊さん…… )
口に布を噛まされた佳苗は、ただの一言も発さずに見守るしか出来なかった。下手に飛び込めば五体がバラバラになるような空気が辺りを覆い始めた。
「さぁ、始めよう」
「あぁ、さっさと終わらようぜ」




