section9 two people passing by
さぁさぁ、本腰入れて書いていきますよ
「ん、ンン……」
「目を覚ましたか」
佳苗が目にしたものは、代わり映えのない真っ白な天井だった。昔よく運ばれていたので知った光景である。
「医務室ですか? 」
「あぁ。肋骨骨折合計3本、胸骨にヒビ。強化スーツは完全におシャカだ」
自分が横たわるベッドに付き添っていたのは榊だった。
「やっぱり、そうですか……うッ」
「無理せんでいい」
ため息をつく榊。佳苗は起き上がろうとするが、すぐに胸を押さえて苦しそうなな表情を見せた。
「しかし、無謀なことをしたな」
「でも、許せなかったんです」
「やはり許せないか」
「はい。父の仇です」
天井を見つめる佳苗。榊はカーテンを開け、窓の向こうのビルの残骸を見つめる。
「宇宙から来たエポカを倒せるのは、エポカの力を身に付けた能力者だけだった。しかしエポカが死に絶え脅威がなくなったその時、世界はコルウスを切り捨てた」
「そしてコルウスは不満から各地で内紛を起こした。分かってます、コルウス達だって自分たちの生きる場所が必要だった…… 」
「だが、内紛が終結したのにはある理由がある。これを見てほしい」
おもむろにタブレットを取り出し、佳苗に手渡す榊。しばらく無言でタブレットを見ていた佳苗だったが、とある箇所で手が止まった。
「内紛処理報告書、作成者…… 暁 四霊!? 」
「驚いたか? 彼は自ら戦友を手にかけた。世界のために戦った英雄たちを犯罪者にしないためにな」
無言で起き上がる佳苗。榊が補助しようとしたが、婦警は自分の手で立ち上がり、スリッパをつっかける。
「私がコルウスに父を殺されたことは……」
「教えた。君と決闘をする前に少し」
「彼は何て言ってましたか? 」
「分かった、とだけだな。予備のスーツは地下格納庫にある。気を付けて行けよ」
「……はい、ありがとうございます」
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既に日は落ちていた。半分崩れ落ちそうな摩天楼の骸には、わずかな月光が差すのみであった。
「今日は一人ぃ? 珍しいわねぇ」
「一人だ。」
屋上のヘリポート跡、そこには少し大きめのオーバーコートにカーゴパンツをはいた長髪の女性がたたずんでいた。
「下にある程度人がいたはずなんだけど」
「全部倒した。随分情けない雑魚だったよ」
「へぇ…… あなた、前の警官たちより強い? 」
「ま、強いだろうな」
刹那、黒い影が四霊に向かって飛び掛かってきたが四霊は片手で受け止めた。
「……奇襲はなるべく速やかに、そして相手が気付かれないように。鉄則は覚えてるらしいな」
「何のこと? あなたは誰? 」
「やっぱり覚えてないのか…… 服装まで真似てるクセして、よぉっ!!」
まるで瞬間移動したかのように女性の懐に滑り込み、太ももに蹴りを入れようとする四霊。しかし目の前の相手は当たり前の様に蹴りを避けた。
「あなた、強いねぇ。名前は?」
「暁 四霊 まさかそんなことも覚えてないのか?『リリアン』」
「……シリョウ? 」
女性の周りのガレキが浮き上がる。次の瞬間、ガレキはまるで銃弾の様に四霊に向かって飛んで行った。
「あなたぁ、嘘ついてるわね? だって四霊はこんなところにいるわけないもの」
「は? 」
「あいつは私を見捨てたのよ? 二度と私の前には来ないの 」
微笑を浮かべながらガレキの雨を降らす女性。四霊は紙一重でかわしながら、よけきれないものを蹴りで壊していく。
「やれやれ、こいつは骨が折れそうだ」




