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086:次の目的地は?

「さて、次の目的地はダーテ王国だ」

「その心は?」

「ジョン=ウーが語っていたウィル=ソンの手記の内容を覚えているかい? 魔族が国造りゲームをしているというやつなんだけど」

「あぁ、確か『異世界の国々を巻き込んだ傍迷惑な魔界の遊び』とか言われてたやつだろ?」

「ポイントとなるのは『同じ事をしている他の魔族と覇を競う』って部分さ。この『他の魔族』というのが……」

「……ダーテ王国に居るって事か」

「ご名答。実はここ最近、ダーテからの侵攻が止んでいてね。探った所、何やら怪しい臭いがプンプンとする訳さ」


 俺達はいよいよ次の国に向けての出立の準備を始めていた。次の国はダーテ王国だ。

 この世界へ来た時にエレナから聞かされた説明によると、確か平民と貴族の身分差が激しく、平民は例外なく迫害されている国だったか。

 典型的な腐った貴族が支配していそうな国だな。果たしてそれは、魔族――いや、魔物による支配の影響か元々からの腐敗なのか……。


「あと、ファーミンは支配するメリットが少ない。説明を聞いているだろうが、住民が豊かな土地を求めて他国へ侵攻するくらいには生活が厳しいんだ」

「確かに、そんな国を支配した所で人材も資源もあまり手に入らなそうだもんなぁ。となると、ホイヘルと競うにあたって適した立地はダーテしか無い訳か」

「エリーティとの対角線上というのも良い立地だしね。ツェントラールはちょうどその間にあるから、互いの軍をぶつけるには良い地点だね」

「今思えば、魔族達はそのためにツェントラールを侵略して、両者の決戦の地として仕立て上げようとしていたのかもしれないな」


 さすがにアンゴロ地方外の国という事は無いだろう。地図で見る限りだと、コンクレンツの北やダーテの北から西にかけては険しい山。

 ファーミンの南やエリーティ、コンクレンツの南から東にかけては海。そして、ファーミンの西は砂漠が続いている……。

 アンゴロ地方が描かれたのみの地図だから、俺にはこの砂漠がどこまで続いているのかは分からないが、少なくとも越えるのは非常に厳しそうだ。

 そんな離れた所の国を支配してホイヘルと競うなど面倒くさい事この上ないだろう。少なくとも俺ならばやる気を失うだろうな。



「あの、ダーテ王国へ行かれるのは結構なのですが、どうして私の部屋で打ち合わせを……?」


 そう言ってトレイにお茶とケーキを乗せてやってきたのはエレナだった。

 彼女が言った通り、俺とリチェルカーレは今まさにエレナの私室で打ち合わせの真っ最中だった。


「それは単純な事さ。エレナ、ダーテ王国にはキミにもついてきてもらおうと思ってね」

「わ、私がですか……? しかし、私には神官としてのお勤めが」

「もう必要ないさ。コンクレンツとエリーティは併合し、ファーミンは対処の宛がある。ダーテには今から行く。祈るまでもないだろう」


 今まで人も戦力も足りなかったツェントラールが周りからの侵攻に耐えて来られたのは、エレナの『加護』があったからだ。

 幾人もの神官達と共に祈る事で、騎士達に凄まじいまでの身体能力強化と自動治療をもたらす法術――これのおかげで少人数で大人数を圧倒出来た。

 だが、使用者に対し極度の疲労をもたらすため、攻め込んできた敵を迎撃するくらいの短時間しか使えず、攻勢に転じる事は出来なかった。


「よ、良いのでしょうか……?」

「加護を使う以外なら他の神官にでも出来るだろう。信頼できる者にお勤めの引継ぎをしてくるといい」


 コクリと頷いて、エレナは早足で部屋を後にした。頷いた時の顔が笑顔だったが、実は外に出たかったんだろうか。

 俺が来た時からお勤め云々でずっと城内にこもっていた気がする。たぶん、リチェルカーレに負けず劣らずのレベルで城内に居たのでは……。


「今エレナとすれ違いましたが、嬉しそうな顔をしていましたよ。もしかして、同行してくれるのですか?」


 入れ替わるようにレミアが入って来る。基本的に『さん』や『殿』を付けて話すレミアが気軽に呼び捨て出来る存在がエレナだった。

 同年代という事もあり、城へ来た当時からずっと交流を続けているらしく、互いに遠慮というものは全くないような関係になっているらしい。


「そのようだ。レミアの方はどうだった? 冒険者として同行するにあたって、騎士団で色々話してきたんだろう?」

「えぇ。先輩がエリーティで発見され、いずれの復帰を考えている事と、私が冒険のために騎士団を抜ける事を伝えて来ました」


 騎士団に所属する面々のほとんどが前副団長のリュックと面識があるため、存命の報を聞いた時は皆が一様に喜んでいたらしい。

 特に騎士団長のロックに関しては憎からず想い合う仲であったらしく、団長なのにもかかわらず涙を流して喜んでいたという。


「……一緒に行けそうなのか?」

「大丈夫です。あと、いつ戻ってきても良いように「席は開けておく」と皆さんが」


 レミアの目にも一筋の涙が。なんだかんだ言って、彼女にとって騎士団は新たな家族となっていたのだろう。

 最初の仲間を失い、心折れてたどり着いた先で温かく迎え入れてくれた仲間達……。今度は、俺達がそんな仲間達以上の家族になれたらいいな。



 ・・・・・



 俺達は新たにエレナを同行者として加え、さらに冒険者として登録するため再び冒険者ギルドへやってきた。


「えぇっ、神官長も冒険者になるんですか? 別に兼業はかまいませんが……」


 もはや俺達の担当になったかの如く、毎度応対してくれるアイリさん。

 正確には、俺達が来たら他の職員が逃げるので、結果としてアイリさんがやる羽目になっているだけだが……。

 さすがにあの時はやり過ぎた。おかげでリチェルカーレを恐れてほとんど人が寄ってこない。


「実力試しはなさいますか? 力量如何ではある程度上のランクからでも始められますよ」

「是非お願いします。せっかくですから、始めるならリューイチさんと同じランクからがいいです」

「わかりました。では何をして頂きましょうか……。神官ですし、法力を使うのがいいですよね」

「だったら、手っ取り早く済ませてしまおう」


 そう言って、リチェルカーレが俺の右腕を人差し指で優しく撫でる。あ、これヤバいやつだ。

 直感を働かせ体内に強く法力を巡らせると同時、スパッと俺の右腕が斬り落とされる。

 ちっ、やっぱりか。法力の話が始まった辺りから嫌な予感がしたんだ。絶対俺の身体で実演させられる、と。


「きゃあぁぁぁぁぁぁーーー!」


 悲鳴を上げたのはエレナだ。普通に考えりゃ、目の前で人の腕が落ちればそうもなるわ。

 レミアは騎士としての矜持なのか声は出さなかったが、顔は驚きに染まっている。

 周りはと言えば、状況が追いついていないようで、皆唖然とした顔で沈黙しているようだ。


「ほら、エレナ。呑気に悲鳴なんて上げていないで治療しなきゃ。アニスの手をくっつけられたんだ。リューイチの手くらい造作も無いだろう?」


 リチェルカーレ当人は、人様の腕をぶった切っておきながら相変わらずの調子だ。

 仮に俺が蘇る体質でなくても、法力麻酔を会得していなくても、全く変わる事は無いだろう。


「そういう訳だ。俺はエレナの力を信じてるぞ」

「わかりました……って、どうして腕を斬られた当人がそんな平然としてるんですか!?」


 とは言われても……慣れ?



「お、おい……。良く分からないけど、何がどうなってるんだ?」

「ありゃ修羅場ってやつだよ。おそらくあのチビっこいのが男に惚れている。にもかかわらず、男は横に居る騎士や神官と懇意にしているんだ」

「な、なるほど。腕をぶった切られたのは嫉妬って事か、えげつねぇな……」

「我々の業界ではご褒美ですな。あんな美少女にならむしろ腕を斬られたいくらいですぞ」

「お前はニッチ過ぎる。俺としてはやはりあのばいんばいんな女神官がいいわ」

「女騎士ってのもいいよなぁ。ゴブリンやオークに敗北して「くっ、殺せ」とか言ってるのを想像すると……」

「けっ、修羅場ってはいるがハーレムパーティってやつか。いいご身分だな全くよぉ」



 よくよく周りの様子を伺ってみると、何だか変な方向に話が広がっているみたいだな。


「ふふ、どうやら関係がバレてしまったみたいだね」


 リチェルカーレも同様に周りの事を把握していたのか、噂話に乗っかる形で俺に腕を絡めてくる。


「リチェルカーレさん!? そ、そういうのは……い、いけないと、思いますっ」


 エレナまでもがこの寸劇に乗っかってくる。いや、彼女の場合は素の反応っぽいが。



 ・・・・・



 結局、騒がしくなってしまったギルド内を職員達が総出で収め、変に取り乱すエレナをレミアが落ち着かせ、何とか俺の腕の治療に成功した。

 例え死ねば完全な状態で蘇る事が出来る仕様であっても、死なない限りは治してもらわないとどうしようもないんだよな……。

 さすがに神官長だけあってか、法力に関しては抜群の力量を持っている。並の神官では切断された部位を繋げるのも難しいらしい。

 そのため、マスターからはリチェルカーレの時と同じように「Aランクからでも……」と言われたが、エレナは断った。


「私は、リューイチさんと同じがいいんです」


 嬉しい事言ってくれるじゃないの。涙目でそんな事言われたら、おじさん取り乱してしまうよ。


「わ、私もDランクからやり直したりは出来ないだろうか……」


 残念ながら、冒険者において『降格』は無いらしい。もし規律に違反したり犯罪に手を染めたりしても、降格などではなく『称号剥奪』となってしまう。

 一人、遥か先に居るレミアにとって、冒険者として歩み始めたばかりの俺達の姿は少し遠くに映ってしまっているのかもしれないな。


「安心しろレミア。みんなで頑張って追いつくからな。再び風となって世界をさすらう日は必ずやってくるぞ」

「リューイチさん……」


 レミアの所属パーティ『さすらいの風』はもう無い。だが、俺達『流離人』が新たな風を吹かせてみせる。

 そのためにも、召喚主であるエレナの願いを聞き届けツェントラールを救う。この広い異世界で、自由な旅をするためにも。

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