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079:帰ってきた『風』

「顕現せよ! シルヴァリアァァァァァァァァァァス!」


 レミアの叫びと共にホワイトアウトする視界。光が強すぎて、まぶたを閉じていてもなお世界が白く見えるくらいだ。

 目を閉じて間もなく『ガション!』と金属の音が響いたかと思うと、まぶた越しに光が収まったのを感じる。

 俺が目を開くと、そこには……銀の髪をなびかせ、銀の鎧と銀の剣を手に凛々しく立つ、白銀聖○士の姿があった。


「……レミア?」

「はい。これが私の『シルヴァリアス』としての姿です」


 先程まで来ていた騎士鎧は何処へやら、騎士鎧よりも軽装な銀の鎧と、煌びやかなサークレットが額に輝いている。彩りとして中心に位置する銀の十字架がカッコイイぞ。

 手には細身の剣が握られており、鎧も含めて全てが下ろしたてとでも言わんばかりにキラキラしており、正直言って直視するとまぶしい……。


「シルヴァリアス……だって!?」

「知っているのか! リュックさん」


 と、思わず昔のマンガのノリで乗っかってしまったが、詳細を知っているのならぜひ聞きたい所だ。


「あぁ。通称、聖銀の騎士。シルヴァリアスと言えば伝説的な冒険者パーティ『さすらいの風』のメンバーの一人の名だよ」

「さすらいの風……そういやギルドで聞いたな。確かメンバーは五人で、各々が上級魔族と渡り合える強さを持つSランク冒険者達だったか」

「けど、シルヴァリアスと言えばフルプレートで身を固めた男性騎士だったよ。昔、接した事があるし……」

「フルプレートですか、それはおそらく――」


 レミアが剣を掲げると、再び光と共に金属音が響き、リュックさんの言うフルプレートの鎧に身を包んだ銀の騎士が現れた。

 頭頂部から一束の銀髪がスラリと伸びているのが美しい……。あれは装飾ではなく、レミアの髪なんだろうか。


『この姿の事でしょう。私達は一般の方々の前では決して正体を明かしませんでしたし、体格や声も変えています』


 確かに、今のレミアは男性が喋っているように聞こえる。兜に変声機能でも付いているんだろうか。

 あと、本人が言う通り体格も大きくなっている。元々はリュックさんより小柄だったのに、今はリュックさんよりも大柄だ。


「そういう訳ですので、私がシルヴァリアスで間違いはありませんよ。先輩、黙っていて申し訳ありません」


 仮面が光となって砕け散り、鎧も大半の部分が同様にして消え、初期の姿へと戻った。


「とは言え、こうやって人に姿をさらす形の武装を構築するのは初めてです。今までは先程の姿で活動してましたから」

「なんか秘密にしていたっぽいのに、良かったのか……?」

「いいんです。これからはシルヴァリアスとしてではなくレミアとして戦います」

『よし! じゃあレミアとしての初陣、行っくよー!』

「わかりました! 私達の力を、あの魔族に見せて差し上げましょう!」


 まだ聖なる光にフラフラしているホイヘルに向かって、聖銀の騎士となったレミアが歩を詰めていく。


『クソガッ! 忌々シキソノ聖ナル光、ブッ潰シテヤルゥゥゥ!!』


 ある程度レミアが近づいたところで、ホイヘルが先手を打って上から巨大な拳を叩き付けてきた!

 地面が砕けるほどの轟音が響くが、何とレミアは片腕でホイヘルの拳を受け止めていた。

 床が大きく砕け、クレーター状に割れている事から、先程の攻撃がいかに凄まじい威力なのかが伝わってくる。


「さすがはシルヴァリアスですね。何ともありません」

『ふふん、とーぜんよ!』


 銀色の鎧には傷どころか汚れ一つ付いていない。おそらくは障壁のようなもので護られているのだろう。

 まるで汚らわしいものが触れるなとばかりに鎧から光が放たれ、同時に放たれた指向性の衝撃波によってホイヘルは弾き飛ばされ、尻餅をつかされた格好となる。


『キ、貴様! 一体何ナノダ……!?』

「私はレミア。レミア・ヴィント・ヘルムヴァンダン。元『さすらいの風』一員にして、聖銀の騎士と呼ばれた者です」

『私はシルヴァリアス! ミネルヴァ様に作られた『ギフト』の一つだよ! って、私の声レミアとリューイチにしか聞こえないんだっけ』


 レミアがかつて名乗っていたという『シルヴァリアス』は、元々武装の名前だったのか。声を発する度に額の十字架がピカピカしているから、あの部分が本体なのだろう。

 懐から取り出した時も十字架だったしな。普段はあんなにコンパクトなのに、展開すると武装になる……。さすがはミネルヴァ様が作ったギフトだ。

 俺の持っている青い球もミネルヴァ様から頂いたものだから、ある意味『ギフト』なのか? そもそも、ギフトの定義が何なのか気になるな、後で聞くか。


『サスライノ風……聞イタ事ガアルゾ。コノ世界ヘ来タ同胞達ヲ幾人モ葬ッテキタ組織ダッタカ』

「ご存知とは光栄な事です。では、これから貴方が辿る運命も……わかりますね?」

『何ヲ言ウカト思エバ! 貴様ハ今一人デハナイカ。他ノ者達モ、モハヤ戦力外ダロウ。今更ドウスルト言ウノダ!』


 コイツ、馬鹿なのか? たった今、レミアに攻撃が通じず弾き飛ばされたばかりだろうに。あるいはまだ全力を出していないのか……?

 どちらにしろ、ホイヘルの読みは完全に誤っている。何せこちらにはリチェルカーレが居るのだ。彼女を視野に入れていない時点で詰みなんだよ、お前は。


『サァ、オ喋リハ終ワリダ! 死ネエェェェェェッ!!!』


 ホイヘルが今までに無いほどの凄まじい魔力を口に溜め、俺達をまとめて薙ぎ払おうと一撃を放つ。

 しかし俺は一切防御をしない。と言うのも、既に解っているからだ――。


「断!」


 レミアが剣を横薙ぎに振るう。ただそれだけ。


 それだけの事で、自分達に向けて迫りくる魔力の奔流が両断され、同時に塵となって消え去る。

 そして、その先に居るホイヘルの胴にも横一文字が刻まれ、あれほど苦戦していた相手の身体があっさりと上下に分かたれた。


『グゥアァァァァァァァァァァァァァァ! バカナ! バカナ! コンナ、コンナコトガアァァァァァ……』


 さすがに両断されてしまってはすぐに再生とはいかないらしく、上半身と下半身それぞれが床に倒れ伏す形となった。

 この状態の場合、どうなるんだ? 上半身と下半身が繋がろうとするのか……? まさか、それぞれから足りない部分が生えてきて二人になったりしないよな?

 どちらにしろ、まだ生きている以上は油断できない。ホイヘルの上半身が床に倒れ伏しながらも顔だけは上げてこちらを睨みつけている。


「貴方は『さすらいの風』を知っていたようですが、一つ情報が足りませんでしたね」

「ド、ドウイウ……コトダ?」

「私達は、組織としてだけではなく、個々でも幾人もの上級魔族を屠ってきたのですよ」

『ナァ……ッ!?』


 今更驚くホイヘル。いや、さっきも思ったけど自分の攻撃をあっさり受け止められた時点で気付けよ……。

 一つ目巨人みたいになってしまったせいで知能までも低下したか? あの巨大な目が脳までも潰してたりしないだろうな。


「では、そろそろおしまいにしましょうか」

『イヤダ! イヤダッ! 俺ハ、コンナ所デ……』


 悪あがきとばかりに、ホイヘルが両手で魔力弾を次々に飛ばしてくるが、レミアの眼前まで飛んできた所で全て消滅する。

 特に手で払うような動きもしていないため、彼女が纏う力によってかき消されているのだろう。

 ついさっきまでだったら全力で防御しなければならなかったような攻撃がこのザマ。シルヴァリアス、恐るべし。


「……悪あがきは以上ですか?」


 レミアは剣の先端に聖なる力を集中し、銀色の刀身を強く発光させると同時に高く飛び上がると、剣先を下に向け倒れるホイヘルに向けて降下する――

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