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077:基本、魔族はしぶとい

「御爺様のプレゼントだって……? じゃあ、さっきのはあの時の……」


 ジョン=ウーが推察した通り、リチェルカーレが放ったのはウィル=ソンが連発していた魔力砲撃である。

 空間の中へと収納し、再び解き放っただけの事。砲撃はかき消されておらず、ずっと空間の中で生き続けていたのだ。


「なんて恐ろしい魔術だ……。確かに、御爺様のあの攻撃ならホイヘルにも通じるだろうけど」


 実際にホイヘルの魔力障壁を突き破って肉体を穿っているので、間違いなく通じている。

 主であるホイヘルには劣るにしろ、そのホイヘルによって魔族化させられた者の一撃が生半可なハズが無かった。


「ほらほら、呑気に呆けている場合じゃないよ。追撃追撃」


 そうだった! と言わんばかりに一同が改めて気を引き締める。想像以上の祝砲に唖然としてしまっていた。

 サージェとゼクレが協力して最前線を行く四人に強化魔術を施し、再び闘気に魔力が重なる。


「次こそ討ち取る!」


 飛び出した四人は上下と左右に分かれてホイヘルに向かって突撃するが、ホイヘルもそれを察し、四人まとめて打ち倒そうと全方位に魔力の波を起こす。

 対面時と比べてさらに強化された魔力が一同を襲うが、一同もまたその時と比べてさらに強く発現させた力と精神でそれに耐える……。

 おかげで魔力の波を受けて吹き飛ばされこそしなかったものの、動きが鈍くなったのを機として、ホイヘルが一人一人撃ち落とそうと、その拳を振るう。


「むむむっ! 今度はさっきのようにはいかないよ……」


 上から襲撃するマイテに再び迫るホイヘルの拳、しかし今度は両手でガードする事なく迫りくる拳を見据え続ける。

 直前まで来た所で、巨大な拳にそっと両手を添えると、そのまま拳に押し出されるようにして飛ばされ――


『なにぃ!?』


 ホイヘルの手が伸び切った所で、なんとマイテは勢いで飛ばされる事なく拳の上に乗っかっていた。


「……暗殺部隊秘技、フェアシュヴィンデン」


 驚く相手を尻目に、腕の上を走って一気に頭部に向けて突き進むマイテ。


『貴様! 何をした!? 全く殴った感触がしなかったぞ……』

「ちょっとばかり衝撃を消させてもらったんだよ。さっきは焦ってやり損ねたけど、今度は成功だね。じゃ、そういう訳だから、死んでね」


 間近から放たれる目からの魔力光線を軽く回避し、再び首筋に短剣を突き立てる。


『ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 最初に決めた一撃と全く同じ一刺しにもかかわらず、ホイヘルが今までにないほどの苦痛に思わず声を張り上げる。


『き、貴様! 何を……』

「さっきから人に聞いてばかりは良くないよー。少しは自分で考えなよー」


 体操選手ばりの華麗な着地を決めるマイテ。すっかり回復して絶好調だった。


「ほら、みんなも唖然としてないで続かなきゃダメだよ。総攻撃なんだから一斉に仕掛けないと」


 再びハッとなった一同が動き出す。正直、歌劇団の面々にとってもたった今マイテが見せた技は初見だったのだ。

 色々気になるし聞きたい事はあるが、マイテの言う事はもっともなので、今はホイヘル打倒に集中しようと一同の心が一つになった。


「……続きます!」


 闘気と魔力を重ね、さらに回転力と重力を上乗せしたレミアの斬撃がホイヘルの右腕切断に成功する。


「今なら私もやれる気がするよ! ざあぁぁぁぁぁぁん!」


 リュックもレミアを真似てホイヘルの左腕を斬り飛ばす……が、その成果を挙げた当人自身が驚きに目を見張る。


「魔族は先程よりも強くなっているはず。なのに、さっき通らなかった攻撃が通る……これは一体?」

「単純な話ですよ、先輩。私達がそれ以上に強くなっているんです。あの魔族を討ち、国を救いたいという気持ちが、私達の力を引き出しているんです」


 二人が言葉を交わす間にも、ジョン=ウーがホイヘルに向かって飛び込む。

 撃ち落とそうとホイヘルが目から光線を放とうとするも、突如唸るような音と共にホイヘルがバランスを崩す。


「こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ。俺の世界の武器は痛ぇだろ」


 竜一が手に構えていたのは何とエンジンチェーンソーだった。それが、ホイヘルの左足アキレス腱あたりをザックリと抉っている。


『ぬうぅぅぅぅぅっ! 貴様ぁ!』

「ス○ール謹製の業者向けチェーンソーだ! ドイツなめんな!」


 ガトリングガンの砲撃すら止めた魔力の壁が超高速で回転する刃を止める事すらあり得ると考えた竜一は、チェーンソーに闘気を込めていた。

 その念入りの良さが功を奏したようで、刃が大木のように強固な足を徐々に斬り裂いていく……。


「足元に気を取られていていいのかい?」


 ホイヘルが竜一に気を取られ下を向いた直後、飛び込んできたジョン=ウーがホイヘルの脳天に向けて刃を突き立てる。

 しかし、その直後にホイヘルが上を向いたため、ジョン=ウーの刃は脳天ではなく右目を抉る事となった。


「予定とは違うけどまぁいいや。これで終わりだ、ホイヘル!」

『あ、が……っ』


 目に刺さった剣を伝い、ジョン=ウーの闘気がホイヘルの体内へと流れ込み、爆発を起こす。

 ホイヘルの右目が爆ぜて煙が舞い上がる。さすがに魔族と言えどもこのダメージは深刻だったようで、まともに言葉も発せない。


「ゼクレさん、最後は私達が」

「えぇ、魔族の手からこの国を解放しましょう」


 放たれたのは炎。瞬く間にホイヘルの巨体を包み込み、骨の髄まで焼き尽くしにかかるが……


『まだだ! まだ我はこの程度では終わらん! うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 再びホイヘルが魔力を解き放ち、炎をかき消して肉体を再生させる。

 斬り飛ばされた両腕も再び元に戻っており、爆ぜた右目も何事も無かったかのように回復している。


『はーっ、はーっ……』


 だが、部位欠損を何度も修復し続ける事によって、ホイヘルは目に見えて息切れしている。

 回復は出来ても魔力が減って疲労するため、必ずしもメリットばかりではないのだ。

 このままでは再び一斉に攻め込まれ、先程以上に容易くその身を破壊され、滅ぼされる事になるだろう。

 ならばどうするか――ホイヘルは、その答えを行動で示す事にした。


『まさか、こちらの世界でこれを使う時が来るとは思わなかったぞ……』


 彼が目を閉じると同時、額の第三の目が不気味に輝き、徐々に肥大化していく。

 やがて元々あった二つの目を押し退けるようにして、顔から上の半分を占めるほどに第三の目が巨大化した。

 その瞬間、彼から解き放たれていた魔力が、より禍々しく毒々しい不気味なものへと変化する。

 魔族にとっての空気であり力の源である瘴気が、彼の身体から外に向けて、魔力に乗る形で流れ出しているのだ。


『グルアァァァァァァァァァァァ!』


 口も顔を割く程大きく広がり、放たれる雄叫びが衝撃波となって皆を襲う。

 スオン=ティークらとは比べ物にならないその力を前に、全力で防御を展開していた皆が次々に吹き飛ばされて壁に激突する。


「ま、まださらなる力を隠していたのか……くそっ」


 追い詰めたと思った矢先の再逆転に、ジョン=ウーは歯噛みする。

 また再生する事までは想定の範囲内であったが、さらにパワーアップする事までは想定外だったのだ。

 攻撃を続け再生を何度も行わせ、疲労させて追い詰めるという目論見が崩れてしまう……。

 もうすぐ憎き敵を倒せると希望を抱いていた彼の中で、相反する絶望の感情が大きくなっていく。




「ふふ、これです……。魔族との戦いは、やはりこうでなくては……」


 そんな中、レミアだけが壁に背を叩き付けられながらも笑みを浮かべていた。

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