表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/494

073:支配者の魔族

 白い光の中を抜けると、そこは玉座の間だった――。


 俺達が登ってきた魔法陣から一直線に赤い絨毯が敷かれ、絨毯を挟み込むようにして等間隔に巨大な燭台が炎を灯している。

 薄暗いその先は階段状となっており、階段を登った最奥に巨大な玉座と、そこに座る人影が見える。奴が親玉か……。


『ようこそ、人間達よ。改めて歓迎しよう。我が許までよくぞ来た』


 先程の声が響くと同時、燭台の炎が消えて真っ暗闇となるが、その直後に四方八方から目映いばかりの光が差し込んでくる。

 どうやら壁が開く仕組みになっているらしい。日の光が炎の代わりの照明となり、不気味でおどろおどろしかった雰囲気が一転、明るい展望台のようになった。


『ははは! 素晴らしいだろう……。天より地上を睥睨できるこの塔は、実に支配者たる我に相応しい!』


 玉座の人影が立ち上がる。ウィル=ソンの手記で書かれていた通り、赤黒い巨大な人型で、顔も人間に近いが額に第三の目と一対の角が付いている。

 翼もあるらしいが現時点では見受けられない。おそらくは収納出来るのだろう。日の光のおかげではっきり見えるようになったその姿は、明らかに異種族と分かるものだった。


『我が名はホイヘル! 我こそが、この国の支配者である!』


 ホイヘルと名乗った魔族は、名乗りと共に早速収納していた翼を大きく広げ、その身から魔力を解き放つ。威圧のつもりか……。

 さすがに支配者を称するだけあって先程まで戦っていた奴らとは比べ物にならない力だ。早くもジョン=ウー達が膝をついてしまっている。


「おや。随分と余裕じゃないか、リューイチ」


 お前や王の近くにいるから感覚が麻痺してるんだろうな……。異世界へ来訪した序盤にとんでもないのと遭遇してしまった影響は大きかった。

 肌をビリビリと震わせる感じはするが、王の死の力を宿したオーラと比べたらどうって事はない。アレは気を抜けばマジで魂を持っていかれるからな。

 それに、帝国でリチェルカーレが解放した力や浮遊竜に比べれば可愛いもんだ。あれらの力なら、確実にこの場所が吹っ飛んでいただろう。


『ほう、なかなかに肝の座った人間達がいるな』

「お前に負けず劣らずの化け物達に囲まれているからな、慣れた」

「失礼だな、キミは」


 いてっ! リチェルカーレに脛を蹴られたぞ。


「にしても、敵を招待するなんて随分とサービス精神旺盛じゃないか。てっきり俺はこの塔を登らせて体力や精神力を削ってくるものだと思ってたが」

『それは野暮というものだろう。我は国を支配する一方で攻め込まれる事や反乱を起こされる事に期待していたのだ。順調過ぎるというのも、刺激が無くてつまらんからな』

「こっちとしても面倒が無くて助かるよ。これだけ巨大な塔、踏破するのにどれだけの手間と労力がかかるか……」

『この塔は支配者たる我の象徴にして我の居城。故に、我以外の何者も住まう事を許さぬ。必要なのは我が玉座のみ。他に余計なものなど必要あるまい」

「……つまり、この塔はあの入り口部分とここしか部屋がないって事か?」

『然り。我が塔に求むは大きさと威容のみ。入り口部分こそ威容を増すために作ったが、後は外観さえしっかり出来ていればそれで良い』


 中身がスッカラカンのハリボテ……そういう部分は俺の世界のアレと同じなのか。向こうでは一応『未完成』の状態だったが、これは既にこの状態で完成してるってのが違う点ではあるが。


『さぁ、わざわざ歓迎してやったのだ。我を楽しませてくれよ?』


 ホイヘルが階段を下りてわざわざ俺達の所までやってくる。闇の世界の大魔王ばりに親切だな。

 間近で見ると五メートルどころかその倍はあるんじゃないかという巨体だ。スオン=ティークらが小柄に見える。

 ウィル=ソンの手記では五メートルくらいとか記されていた気がするが、時と共に成長したのか……?

 巨体に圧倒されている俺達を見て満足げに笑むと、右手に魔力を集中させ、それを天に掲げて魔力を無数の雨と化して俺達に降らせてくる。


 だが、リチェルカーレは腕組みをしたまま魔力の障壁を展開させ、全く動じない。申し訳ないが、俺もその恩恵に与る。

 レミアやリュックは闘気の障壁で自分自身を、サージェやゼクレはジョン=ウーを守るようにして魔力の障壁でこの攻撃を凌ぐ。

 マイテに至っては恐ろしいスピードで魔力の雨を回避し切り、ホイヘルの背後から壁を蹴って首筋に刃を突き立てた。


「ほぅ? この我に一刺しするとはな……。痛みを感じたのは実に久々だ。良いぞ、良いぞ」


 ホイヘルが自身の身体を蹴って素早く飛び退くマイテを一瞥すると、魔力の波がマイテを襲い、空中での体勢を崩してしまう。

 そこへ容赦なく打ち込まれる右拳。マイテはなす術もなくそれを受けてしまうと、弾丸ライナーの如く弾き飛ばされ、壁際のガラスを突き破って外へ――と思いきや、黒い穴が出現してマイテを飲み込んだ。

 直後、俺達の近くに穴が開き、そこからマイテが放り出された。両手をクロスさせた状態で苦痛に顔を歪める彼女。目に見えて分かるほどに腕がバキバキに砕かれている……。


「この子はアタシが回復させておくよ。法力なら、並の神官以上には使えるつもりだからね」


 さっきの黒い穴は間違いなくリチェルカーレの仕業だな。あのまま地面にまで落下していたら、確実にマイテは死んでいただろう。

 彼女が居る限り、最悪な事態にはならないだろう……。いや、『だろう』と甘えるのは危険だな。この世の中、何が起こるか分からないのだ。慢心するな、自分。 

 目の前に居るのは本物の魔族なんだぞ。理性を失って暴れるだけの魔族化した人間とは違う。知恵を用いて戦闘を行う相手に対して油断は禁物だ。


「奴の繰り出す拳や足は一撃一撃が大砲だと思った方がいいね……。受け止める事すら無謀なレベルだ」


 リュックがマイテの凄惨な様子を見てつぶやく。だが――


「……先輩、どうして笑っているんです?」


 リュックは、敵を恐ろしげに語る割には顔が笑っていた。疑問を呈するレミア。


「軽蔑するかい? 私はさ、強い奴と戦うのが楽しくて仕方が無いんだ。強大な相手は確かに怖い……だが、内から衝動として湧き出してくる楽しい気持ちは誤魔化せない」

「……楽しい気持ち、ですか」

「平和のためだなんだと語りながら、戦いそのものを楽しんでいる。私みたいなのは、完全に平和になったら退屈するタイプだ。こんな人間が騎士団の上に立っていただなんておかしな話だね」


 俗に言う戦闘狂ってやつか。戦いの中でしか生きられない人間も居る……。俺が取材してきた戦場にも、そういう人間達が居たな。

 死線を感じる事で生きている事を実感するだとか、合法的に人を殺せるからだとか、とてもじゃないが平和のために戦っているとは思えないような奴ら。

 他にも、一度でも人を手にかけてしまった以上はもう平和な世界で生きる事は出来ないという懺悔の気持ちで戦場に居る奴も居たっけな。


「結果として人々を救い、平和に繋がる結果を出せていたのであれば良いと思います。ですが、私には――」

「……そういう事が理解できないって?」


 黙って頷くレミア。何せ、レミアは人々の平和を護るために戦う騎士だ。けど、


「「嘘だね」」

「……!!」


 俺とリュックさんの声が重なる。リュックさんの方は知らないが、俺はレミアが明らかに戦いを楽しんでいると思われる場面を見た事があるのだ。

 あの時のあの言葉、そしてあの表情は、使命感だけで戦っている騎士の口から出てくる言葉ではないし、態度でもない。そして、アレをやってのけたのも、あの時だからこそだと思っている。

 今のレミアに同じ事を仕掛けてもおそらくは対処できないだろう。それくらい、今のレミアは精彩を欠いていると言っていい。本質から目を背けて現実を見ようとしない人間のそれだ。

 これまでの経緯から推測するに、かつて魔族との間に何かがあり、それが要因で何かが失われている。そして、今もなおそれを取り戻せていないと言ったところか。


「思い出せないというのなら思い出させてあげるよ。久々にアタシと組んで大物を討ちにいくよ!」


 リュックに引っ張られ、サージェとゼクレの元にまで連れていかれるレミア。


「さぁ、私達に全力で補助魔術を施してくれ。副作用が出るくらい強烈なので構わない。そうじゃないと……アレは落とせないだろうからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ