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059:集落の住民

「と、とにかくだ。この銃の利点は、持ち主の魔力が続く限り弾切れが起こらないという事だよ。つまり、魔力が多い者ほど撃ち続けられるという訳さ」


 魔力量にもよるんだろうが、撃ち続けられるというのは弾倉の交換の手間が無くていいな。

 逆に魔力量が少ないと、撃ち尽くした後に魔力欠乏による疲労感に襲われてより一層ピンチに陥りそうで怖いが。


「さて、試し打ちもしたし、次は耐久力テストと行こうか。沢山使って壊れないかどうかも確認しないといけないしね」


 リチェルカーレの全身が魔力の発光によって赤く輝く。それを合図とし、銃からは先程の魔力光レーザーが機関銃の如く迸る。

 一撃一撃が地をえぐる程の威力。そんなとんでもない代物が一切の容赦なくゾンビと魔族達に浴びせかけられていく。

 大気を震わし腹の底から響く轟音の連打は、まるで間近で花火のスターマインが行われているかのようだ。一言で言うとうるさい。

 反対側ではレミアが目を点にして砲撃を眺めていた。砲撃の衝撃波によって緑のセミロングがバッサバッサと揺れているな。


 それはいいが、一体何発ぶっ放すつもりなんだ……? 連射の速度を考えたら既に百発二百発どころじゃないぞ……。

 いや、そもそも一撃であれほどの高威力な砲撃をこれだけ連打して、なんで平然な顔して今なお変わらぬ連発を続けられるんだ。

 もしかして魔力が無尽蔵だとでも言うのか。まぁ、彼女の事だからトンデモなのは今更ではあるのだが。


「んー、そうだねぇ。この連射砲撃を『ミトラ・リャ・トリーチェ』とでも名付けようか」

「……あの、リチェルカーレさん?」

「どうしたんだいリューイチ。急に改まって」

「既にゾンビと魔族壊滅しちゃってるんだけど、いつまで撃ち続けるおつもりで?」

「銃の耐久力テストだからね。十発二十発程度じゃダメかと思って連射してみたんだけど……」

「いや、もう数えきれない程撃ってると思うし、これだけ撃って何ともないなら銃の開発は成功してると思うぞ」

「そっか。リューイチがそう言うなら大丈夫そうだね。じゃあテスト終了って事で」


 砲撃の嵐がピタリと止む。先程までゾンビと魔族が争っていて騒がしかった荒野が、風の吹き抜ける音を残して沈黙する。

 荒野は無数の砲撃跡でボッコボコになっており、軌道上に居た者達はチリ一つ残さず消滅している事だろう。


「って、軌道上は大丈夫なのか!? 町とかあったら……」

「大丈夫だよ。首都リュギオンには当たらないようになっているから。それに、こっちの方角の先は海だよ」

「当たらないようになっている……?」

「まぁ、それはたどり着いた時のお楽しみという事で」


 首都の事はよく分からないが、海の彼方にあるかもしれない別の国に砲撃が届いていない事を祈るのみだ。


「……じゃあ、後はその首都リュギオンを目指して進むだけか」

「って、お二人はどうしてそんなに呑気なんですか!」


 いきなりレミアが話に割って入ってくる。


「さ、さっきのは一体何なんですか! めちゃくちゃじゃないですか!」

「これの事かな? レミアも撃ってみるかい?」


 いきなり銃を手渡され焦るレミアだったが、なんだかんだ興味はあるようで、リチェルカーレと同じようにかまえてみせた。

 そして、引き金を引くと赤い魔力光のレーザーが放たれる……が、その直後にレミアは膝をついてしまった。


「嘘でしょう……。たった一回でこんなにごっそりと魔力を持っていかれるなんて」

「ちょっ、マジか。そんなにか?」


 俺もレミアから銃を受け取り、引き金を引いてみる。


「うぉっ!? 俺の中から無理やりに魔力が吸い出されるようだ……」


 立っていられない程に消耗してしまった俺は、その場に倒れ込む。リチェルカーレはこんなものをあれだけ連射していたってのか……。


「なるほど。一般的に普及させるのであれば、もう少し必要最低魔力量を調整して、威力も抑えなければダメか。やっぱこうして誰かに試してもらわないと、世間一般の基準が分からないね」


 俺達は実験台か……。これが一般的に普及してしまったら、世の中の戦闘事情が一気に変わりそうだな。

 さすがにそんな安価では出さないだろうし、こんな狂気じみた性能でもないとは思うが。

 ミネルヴァ様は『文明の利器を用いて変革をもたらすも自由』と言っていたけど、より凶悪な利器が生まれてしまったぞ。

 今後も俺が色々な物をサンプルとして提供したら、こんな感じでとんでもないものを作ってしまうんだろうか。


 ……それはそれで面白そうだ。




 ・・・・・




 抉られた地面の上を馬車で進むのはちょっと――という訳で、今は空飛ぶ絨毯で移動中だ。


「間引きとか言いながら、根こそぎ駆除してどうするんだよ」

「やりすぎた、反省している。けど、リュギオンに着くまでにはまだまだ出てくるから安心するといい」

「敵がまだまだ出てくると言われて安心なんて出来ないのですが……」

「ゾンビに兵士に魔族……どうなってるんだ、この国は。そもそも何で魔族が居るんだ?」

「簡単な話だよ。この国は既に魔族の手に落ちていたって事さ」


 何気なく明かされる衝撃的な事実。


「そ、それが本当ならとんでもない話ではないですか!」

「考えてもごらんよ。この国のありようはあまりにも奇抜過ぎる。もはや思考が人間のそれではない。けど、人間でない者が統治していたのであれば納得がいく」

「確かに、今日見た部分だけでもエリーティ共和国は異様極まりないですが……」


 俺の世界にあるあの国の統治者も実は魔族だったりするのか……? ゾンビとか魔物とかは抜きにして、この国とありようがそっくりなんだが。


「魔族の中にはゲーム感覚で人間の国を動かして遊ぶような物好きも居る。ツェントラールに流れてくるまで、何体かそう言う奴らと遭遇した事がある。者によっては大々的に表立って国を支配し、魔族としての国を興す。者によっては陰に潜み、裏から動かして様子を見て楽しむ。今回の例は後者だろうね」

「と、いう事は……私達は、魔族に戦いを挑むと?」

「そうなるね。リューイチは知らないから気にしないだろうけど、レミアは今のうちに腹をくくっておく事だね」

「!? ……え、えぇ、わかっています」


 今、レミアが一瞬だけ怯えたような表情を見せたぞ。この世界の住人にとって、魔族とはそれほどまでに恐ろしい存在という事か。

 さっきはリチェルカーレの砲撃で一瞬にして消し飛んだけど、あれは例外だと考えておいた方が良いのかもしれないな。


「さぁ、そろそろ見えてきたよ。次なる闇が潜む場所だ」


 指し示された先は何件かの家が立ち並ぶ小さな集落だった。崩れかけた家、作物の育っていない畑、水の流れの乏しい川……。

 じきに滅びそうな程の、見ていて可哀想に思うくらいの寂れた光景に、俺は思わず目を細めてしまった。

 住民らしき人が見えるが、身にまとうはボロ。骨が浮き出るくらいに痩せこけた、明らかに栄養の足りていない身体。

 これが共和国の素という事なのだろう。国境沿いに用意されたあの町は、本当に対外的に豊かに見せかけるためだけの舞台なんだな。

 リチェルカーレの言う『次なる闇』とはこの光景の事だろうか。いや、ちょっと待て。住民の様子が――


「な、なんですかあれ! ひ、人が化け物に……」


 痩せこけた村人がの表面が大きく裂け、内側から肉が膨れ上がっていく……。やがてその肉は大きな人型を作り出し、全身に鱗のようなものが浮き上がる。手は地面に付くほどまでに巨大化し、その先の爪はまるで象牙の如く巨大だ。

 その姿は、さっきゾンビと戦っている魔族の中に居たやつと同じだ。なんて事だ。集落の人間は、魔族による偽装だってのか……?


「おそらくだけどリューイチはこう考えている。集落の人間は魔族の偽装だった――」

「……違うのか?」

「逆さ。彼らは間違いなく人間……だった。けど、魔族によって同族へと改造されてしまったんだよ」


 曰く、魔族の血を取り込ませる事によって人間を魔族に変化させているらしい。

 魔族の血は非常に強く、ル・マリオンの生物ではその血の強さに抗う事が出来ず、身も心も魔族のそれに変貌してしまうとの事だ。


「けど、取り込ませすぎてもダメなんだ。強すぎる血が身を滅ぼしてしまう。だからだろうね、こうして不必要と判断された人間を使って実験してるんだ」

「不必要って、そんな……。まさか、あの見せかけの都市で活動している人達以外はみんな……?」

「首都リュギオンに住まう事を許された特権階級の人間達も例外だね。まぁ、彼らも失態を犯せば末路は同じだけどね」


 話を聞いている間にも、他の住民達が姿を見せ、同じように魔族へと変身していく……。ただし、最終的に変化する姿は千差万別だが。

 最初に見た人型のような姿ならまだいいが、芋虫やら肉塊のようなものに変貌するとかはハズレとしか言いようが無いな。俺が芋虫なら泣く。


「くっ、来ますよ……リューイチさん」


 十数体が出揃った所で準備完了と判断したのか、魔族達がこちらに向けて動き始める。

 だが、顔を合わせてから動くまでがあまりにも遅すぎる。罠を設置するだけの時間は十二分にあった。

 ある程度の距離まで近づいてきた所で、魔族達の踏みしめた地面が大爆発を起こす。

 しかし、さすがは魔族。何体かはより一層猛り、傷を負いながらも爆発の中を突き抜けてくる。

 人型が肥大化した腕を振りかぶり、象牙のように巨大な爪を叩きつけようと迫るが、そこに割って入ったのはレミアだ。


「こ、これ以上は好きにさせませんよ……。私が相手になります」


 剣を盾代わりにして振り下ろしに耐える。身体強化されているのか、女性の細腕でも問題ないようだ。

 だがレミアは両手で相手の片腕を受け止めている。となると、人型のもう片方の腕はフリーという事になり、当選その腕はガラ空きのボディを撃つ……かに思われたが、直前で手首から先が千切れ飛んだ。


「どうしたんだい? リューイチと相対した時のような気迫に欠けているじゃないか。普段のキミならそんなヘマはしないはずだろうに」


 援護してくれたリチェルカーレに何かを言おうとしたが、言葉を呑み込んだようにして顔を反らすレミア。

 手が切られた事によって悶絶している魔族に駆け寄り、背中から心臓部へと剣を突き立てる――と同時に刀身に闘気を集中させて魔族の胴を爆散させる。

 えげつねぇ……が、それくらいしないと倒せないって事なんだろうな。剣を突き刺した程度で油断していてはダメという事か。

 魔族を一体仕留めたレミアは続けて他の個体に向けて仕掛けていく……が、確かにレミアの様子がおかしい。

 リチェルカーレの言う通り、俺と戦った時とは違って精彩を欠いている感じだ。戦い方に余裕が無いと言ってもいいだろう。

 未知の銃を前にして笑顔すら浮かべて挑みかかってきたあの美しい騎士の姿は何処へ行ったんだ……?

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