465:選手交代
「(シルヴァリアスだけじゃない、皆の力もきちんと引き出さないと……)」
シルヴァリアスの鎧に装着された他のギフトの核たる宝玉達。
全体的な力の引き上げをしてくれることはもちろん、固有の能力を備え持つ者はその能力も使えるようにしてくれる。
レミアはブロンズィードの力で装甲を頑丈にしつつも、速度を殺し過ぎないようにバランスを調整していく。
同時に鎧や剣と同じ素材で短剣のような物をいくつも作り出し、自身の周りにいくつも浮遊させる。
ゴーディはお気に入りのアイテムを操作していたが、レミアはブロンズィードの能力で着用する鎧の体積を増やしてから削る事で、素材を確保。
その素材を魔力で簡易的に加工する事で、操作するためのアイテムを生み出していた。魔力さえ続けば、また鎧の体積は変えられる。
「面白い事を考えるではないか。さて、それが通じるかどうか試してみるか?」
「言わずもがな」
中空に佇むヴァザルに向けて突撃するレミア。先程と同じように剣は受け止められてしまうが、同時に短剣を発射。
左手でいくつかを薙ぎ払うヴァザルだが、全てをカバー出来るはずもなく接近を許してしまう――が
瞬時に展開した魔力の障壁によって阻まれてしまう。大半が強固な壁に弾かれて落ちるが、一本のみ障壁に突き刺さった。
その短剣を目掛け、まだいくつか飛んでいた別の短剣が向かっていき、柄を打ち付ける。
一度だけでなく、二度三度と繰り返していくうち、ハンマーで打たれた釘のように壁の中へと入り込んでいく。
左手で薙ぎ払おうとするが、そこへ今度は膝蹴りが飛んできたため、とっさにそれを受け止める。
「騎士道みたいな雰囲気を漂わせておいて手段は選ばないのだな」
「今の私は冒険者です。それに貴方自身が言ったのではありませんか。自分こそがあの時に私の仲間を殺した存在であると」
「敵討ちと言う訳か。悲願が達成出来たら良いな」
挑発するヴァザル。その不敵な笑みにイラッとしたレミアは、言葉通り手段を選ばない事にした。
元々ブロンズィードの力は装甲を厚くする装甲強化だった。しかし、他のギフトと融合した事で装甲を厚くする以外にも自在に変形させられるようになった。
先程のように装甲を厚くした上で、厚くなった部分を削っての素材調達。速度を殺し過ぎないようにバランス調整、そして……
「このまま短剣が障壁を突き破るまで粘るか? だが我がこのまま大人しくしているとでも思っ――がはっ!?」
ヴァザルの腹部を貫く刃。レミアが受け止められている膝の部分の装甲を変形させ、刃と化して突き出した。
刃は左手を斬り裂きそのまま腹部も貫き、背にまで突き出た。その不意打ちで気が緩んだのか、障壁が揺らぎ短剣が壁を抜けた。
一本がヴァザルの首元に刺さり、追従していた他の短剣も腕や脚や胴など、身体の様々な場所へ次々と刺さっていく。
「決めます!」
よろめくヴァザルに向け、レミアは重ねた両手をかざし、そこへ可能な限りの力を込めて砲撃を放った。
この時の彼女はル・マリオンへの影響など一切考えておらず、とにかくかつての仲間達を奪った仇を倒す事で一杯になっていた。
斜め下に向けて放たれた力の奔流は、眼前のヴァザルを呑み込みそのまま地面に着弾。土壌を抉りつつ奥深くへ消えていく。
両掌からプシューと煙を出しつつ、レミアは一息つく。深手を与え、さらに大技で追撃したが故のちょっとした間のつもりだった。
しかし、そのほんのちょっとした間が致命的な隙となった。気付いた時には既に手遅れで――
「追撃の手を緩めるとは、甘過ぎるにも程があるだろう」
「なっ……」
いつの間にか背後に回っていたヴァザルが、己が身を回転させて勢いを付けた蹴りをレミアの背に叩き付ける。
「まさか、あの程度で倒せるとでも思われていたのかね? だとしたら心外だな」
レミアが地面に叩き付けられる直前、とてつもないスピードで先回りしたヴァザルが、今度は蹴り上げる。
寸前で何とかガード体勢に移行は出来たものの、腕ごと砕かれそうな超威力の蹴りの勢いを殺しきる事は出来ず、再び宙に舞い上がる。
さらにそこへ爪を束ね剣状に固めたヴァザルが飛び掛かり、すれ違いざまに一閃。直後に旋回し、再び同じように斬りかかった。
レミアを中心にヴァザルが幾度となく行き交い、執拗に斬撃を浴びせていく。
装甲強化によって何とか致命的な一撃は避けているものの、このままではジリ貧だと思ったレミアは打って出る事にした。
幾度も攻撃を受け続けた事で相手の速度も何とか把握できてきた。あとはタイミングをつかんで仕掛ける――
(ここ……っ!)
ヴァザルが爪を横薙ぎに振るってきたタイミングで、それを受け止めるべく手を伸ばすが、目の前にまで来ていた相手が消えてしまった。
空ぶったレミアをあざ笑うように、背後からヴァザルが爪をレミアの背に突き立てるも、何とか装甲を強化し刺し貫かれる事だけは避けようとする。
しかし、ヴァザルもヴァザルで刺し貫けないならば止む無しとばかりに方向を変え、再び中空のレミアを地面へと叩き付けるように仕向ける。
「スピードに慣れたとでも思ったか? 慣れさせたのだ。我がスピードがあの程度だと思い込むようにな」
先程のように下へ回って再び蹴り上げるような真似はしない。今度はヴァザル自身の突撃の勢いを上乗せした上でレミアを地面に叩き付けた。
爆撃でもされたかのように地面が爆ぜ、轟音と振動が辺りを震わせる。土煙が辺り一面を覆い隠すが、直後に巻き起こった暴風の如き勢いの衝撃波がそれらを全て散らしてしまった。
形成されたクレーターの中心には半ば土に埋もれたレミアが倒れている。シルヴァリアスの鎧を着用していたとはいえ、決してダメージは小さくなかったようだ。
「選手交代ね! 次は私が行かせてもらうわっ!」
嬉々とした表情でヴァザルに向かって文字通り飛んで行ったのはアリムだった。
勢いのままに繰り出されたパンチを右手で受け止めるヴァザルだったが、クレーターの底部にさらにクレーターが出来てしまった
「む。貴様、人間では無いな」
非常識な力をぶつけられた事で、ヴァザルはすぐにアリムが人外の存在であると見抜いた。
特に魔力で強化されたとかでもなく、純粋にとてつもない身体能力で殴ってきたともなれば、さすがに警戒もする。
「ル・マリオンの在来種族『ヴリコラカス』の王女アリム・ラークよ。強者と名高い上級魔族と対面出来て光栄だわ。勝負よ!」
「こちらの世界にはそのような種族が存在したのか。もし世界征服を考えるなどしたら苦労させられそうだな」
「当然よ! ル・マリオンは私達の世界だし、絶対にそんな事はさせないわ。かつての戦いにヴリコラカスは参加して無かったけど、次は参戦するわよ!」
「我はそのような面倒事をする気はないが、この先愚かにも世界征服を企てようとする者達が気の毒でならないな」
「レミア、早く復帰しないと私が倒しちゃうからね!」
そう言ってアリムは全身から魔力を解き放ち、先程とは比にならない程に身体能力を高め、弾丸のような速度で突進。
同時に王女とは思えぬ大胆なヤクザキック。ヴァザルは一瞬反応が遅れたようで、ガードが間に合わず腹部に痛烈な一撃を貰ってしまった。
勢いを殺しきれずホームランボールの如くかっ飛んでいくが、すかさずアリムもそれを追って飛び立った。
「ごめん! 誰かフォローをお願いするわっ!」
「やれやれ。思いっきりやるつもりだね、アリムの奴」
アリムが残していった言葉に、気だるげな表情でリチェルカーレが答えた。




