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443:レリジオーネに向けて

 トヴァノは国王に呼び出された先で聞かされた話を一通り伝え終わると、金額は近いうちに振り込む事を約束して脱兎の如く逃げていった。

 賭け金を支払わなかった事を国際問題にしてしまうとは、何と言うかリチェルカーレらしい大胆な方法だ。協力させられたアルヴィさんに同情するよ。


「別に協力を頼んだ訳じゃないさ。アルヴィにちょっと「こんな事があったんだ」って愚痴ってきただけだよ」


 相変わらず俺の心中を察したかのように言葉を返してくるな。それはいわゆる権力者がよくやる『憂慮』というやつじゃないのか……?

 問題事となっている案件を何気なく口にすれば、それを察した部下達が気を利かせて勝手に対処してくれる的な。

 アルヴィさんの場合、気を利かせたというよりはリチェルカーレの「やれ」という圧力を叩き付けられただけな気もするが。


「アルヴィは世界的な国賓扱いで、国によっては国王よりも強い権限持ってる場合があるからね。あの子が「あの国が気に入らないのですが消しましょう」とでも言えば、言われた方は一つ返事で頷くさ。そこで断ったりすれば、あの子の言う「気に入らない」が『あの国」から『この国』に変わりかねないからね」

「完全な脅しじゃねぇか」

「世の中、結局は力による脅しで成り立ってるのさ。だから大国は凶悪な魔術兵器を開発したりして、自分達を怒らせたらヤバいぞってアピールしてるんだ」

「力で物事を動かしてると、いつかより強大な力でしっぺ返しを食らう事にならないか? アルヴィさんの権限に怒る国くらい出てきそうなもんだが」

「既に出てるよ。いくら伝説の存在だからって他国に内情にまで介入してくるとは度し難いって怒った国がイースラントに戦争を仕掛けた事があったんだけど……」

「結果は言わずもがなってやつか」

「その国は全魔導師魔術師を結集して国がかりの大規模な魔術を行使したってのに、アルヴィは一人でそれの数段上の魔術を使ってあっさり終わりさ。母様の弟子って言うのは基本的にそのレベルって事だね」


 遠回しに自慢してやがるなコイツ。自分がその弟子達の中で筆頭だからって……。

 しかし、そんなヤバイのが十二人も居る上に、それらを育てたというさらなる実力者――賢者ローゼステリアまで居るんだよな。

 アルヴィさん以外は目立って表に出てきていないけど、揃いも揃って野心も欲望もない隠居気質なのか?


「自分も人の事言えないけど、各々自身の好きな事を探求するのが第一だからね。世界征服したいなどと言う面倒な欲望を持つ者は弟子の中には居ないよ」


 世界征服なんて、みんなその気になれば問題なく出来てしまうだろうからな。だからこそ、やりがいも達成感も何にもなさそうだ。

 征服した後の管理とか運営とかも面倒臭がりそう。特に面倒くさがりのエンデルとかはやれと言われてもやらないだろうな。

 表向きの顔役をやっているアルヴィさんですらそういう事はやろうとしていない。干渉するにしても、リチェルカーレの圧力で動く時くらいか。


 まだ遭遇した事ない他の弟子達も、きっと物凄くクセが強いんだろうな……。



 ・・・・・



「さて、次はエレナにとっての因縁の地であるレリジオーネに向かう事にするよ」


 宿屋の大広間で、リチェルカーレが地図を広げつつ今後の方針を示す。

 クラティアからレリジオーネに向かうとなると、陸路だと北上して少し西へ行ってから南下する感じか。

 実質ギリシャからイタリアへ行くようなものだからな。これだとかなりの遠回りになるぞ。


 一方で海峡を渡れば短時間で向こうに渡れるな。俺達の世界で言うなら、アドリア海のオトラント海峡を渡る感じだろう。

 俺としてはどちらでもいいのだが、目的に合わせたスケジューリングに関しては現地の人達に任せるしかないな。


「一週間後、レリジオーネでは記念祭が行われます。この日は教皇も聖女も広場に出てきて、世界中から集った信者達に挨拶をします。正面から仕掛けるには最も適した日だと思います」


 エレナが提案したのは『記念祭』の日。ざっと概要を聞くとキリスト教で言う『復活祭』みたいな物で、大々的に神を称え祀る日であるらしい。

 自身こそが本物の聖女であると世間に向けて発表し、ミネルヴァ聖教に対して宣戦布告した身として、卑怯な事はせず正々堂々とあえて一番賑わい大目立ちする日を狙うという。

 まぁ、あれだけの事をしておきながらひっそり闇討ちとかでもしようものならイメージがガタ落ちだもんな。聖女を自称した以上は聖女らしい振る舞いが求められる。


「そんな大勢の人達が居る中で仕掛けて大丈夫なんですか? 間違いなくミネルヴァ聖教の人達と戦闘になりますよね」

「だからこそさ。そんな大勢の人達の前で本物の聖女を名乗るエレナが偽者の聖女と悪辣な聖女を倒す。実にドラマティックじゃないか」

「いえ、そういう事ではなく、激しい戦闘に巻き込まれるんじゃないかという不安が……」

「大丈夫です。皆様を守り切りつつ偽者の聖女とお父様を討ちます。それくらい劇的な活躍をしなければ、今のミネルヴァ聖教に染まった人達の信仰を崩す事は出来ないでしょう」

「何も全てエレナが背負う必要はないさ。周りでその辺のサポートはさせてもらうよ。そんな他事しながらどうにかなるような相手ではないだろう」


 レリジオーネにおける戦いの肝は大衆だ。大規模な戦いの場合、現実世界での被害を避けるため異空間で戦う場合がほとんどだ。

 しかし、今回は聖女エレナの戦いを大衆に見てもらわねばならない。そのため、大衆や建造物が被害を受けないように保護しつつ立ち回る必要がある。

 今までの戦いから想定して考える限り、間違いなくそういった物を巻き込まないよう慎重に戦うのは不可能に等しい。


 ならば、巻き込んでも大丈夫なようにする。巻き込まれる当事者達にとってはたまったものではないだろうが、世界の変革に付き合ってもらおう。

 ちょっと厨二臭いか――。いや、そもそもそれ以前に俺はこんな事に乗り気だったか? 俺達がやろうとしている事は、いわば一大宗教を相手にした戦争だ。

 あちらの世界では戦争を否定するために戦場カメラマンをやっていたハズなのに、いつしか戦火を巻き起こす事を是としてしまっている……。



 ・・・・・



 竜一が悩むのを他所に、レリジオーネに向かうための旅程についての話し合いは進んでいく。

 一週間での目的地到着を考えると、陸路で回り込むのではなく海路を使ってショートカットする必要がある。

 地形的に大きく内海を回り込むため、陸路では大幅に時間がかかってしまい記念祭に間に合わない。


(陸路で様々な国を通っていくのも捨てがたかったが、そう言った未練は次の周回でやればいいか)


 竜一は別に世界を巡る旅を一回こっきりと決めている訳では無い。立ち寄れなかった場所はまた次に来ればいいという精神だ。

 本当に全てを満喫しようと思ったら、それこそ一つの国ですら年単位はかかるし、求め始めたらキリが無い。適度な割り切りも大事である。


「海を渡った先にあるのはアナイラティという国となります。レリジオーネは、その国の中に独立国家として存在しています。言わばミネルヴァ聖教の本拠地が一つの国になっている感じです」

(なるほど。イタリアとバチカンみたいな関係か。本当に地球とル・マリオンは表裏一体みたいな間柄のようだな……)

「アナイラティはクラティアよりもさらに大規模な闘技場がある事で有名です。クラティアではラターヴァ選手以外には正直ガッカリさせられましたが、アナイラティの闘技場ではもっと唸るような強豪が居てくれる事を望みたいですね」

「主目的を済ませたら存分に楽しもうじゃないか。とは言え、レリジオーネに至るまでの間も楽しむ事を忘れちゃいけないよ」


 リチェルカーレが釘を刺す。記念日に間に合わせるための急ぎ気味の行程ではあるが、何もかもを犠牲にしてでも進むような強行軍ではない。

 観光はもちろん各所のギルドに立ち寄って依頼をこなすなどの隙間時間はある。楽しむという本文を忘れてしまっては元も子もない。

 アナイラティに関する知識のある者達が、個人的に興味のあるあんな場所こんな場所を挙げていき、それらをスケジュールに組み込んでいく。


「俺はアナイラティを知らないから、とりあえず何か美味いものが食べられればそれでいいかな」

「竜一さんに同じ。残念ながら異邦人組はこの世界に関する国の知識がほとんど無いし」


 次の国に関する話し合いで現地人組がワイワイと言葉を交わす中、少々ばかりハブられを感じてしまった異邦人組。

 とは言え、地理的な知識が無い者が旅の主導権を握る程無謀な事も無いと分かっているので、一抹の寂しさはあるものの不満までは漏らさないのだった。

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