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440:元々は一つだった

『ははっ、やるじゃねぇか。だが俺は自由自在に移動を――』

「……出来ますか?」


 レミアを中心に爆発したエネルギーはその範囲を徐々に拡散させていく、もし上空から見たのであれば円が徐々に広がっていくのが見えただろう。

 円の拡大は止まる事なく、戦いを見学していた竜一達を呑み込み、さらに広がっていく。終いには、異空間の全てが射程に収まってしまった。


「プラティニアの力で私が出せる魔力の出力は大きく向上しています。さすがにこの異空間全てを破壊し尽くすとなれば、貴方にもはや逃げ場所は無いでしょう」

『……!』


 レミアの策は単純だった。霊体となって自在に逃げられるというのであれば、逃げられる範囲全てを攻撃してしまえばいい。

 竜一達も巻き込む事になるが、リチェルカーレの用意したバリアがこの程度で破られるハズが無い。そういう絶対的な信頼の前提で行われた策だ。


(今回はシルヴァリアスにも文句は言わせませんよ。こうしなければあの人には勝てないのですから……)

『わかってるわよ!』


 レミアの放ったエネルギーが異空間の端にまで届き、バリバリと激しく衝突する音が聞こえる。

 同時にまるで空間そのものをシェイクされているかのような凄まじい揺れが起こる。

 本来であればここまでダメージを与えたら空間そのものが崩壊するが、今回は空間自体もしっかりとガードされている。


『まさか、躊躇いなく空間そのものを破壊する気でやってくるとはな。その空間を保護できるお仲間が居るってのも驚きだが』


 全てが破壊し尽くされ、真っ白となった空間にディリジェの声が響く。

 今度は全身鎧としての姿ではなく、金色の球体としての姿でレミアの前に現れた。


『利用できるものは何でも利用する。時には手段を選ばず勝ちに行く。そういう思い切りは大事だ。よくやったなレミア、俺の負けだ』

「ありがとうございます。私は何としても皆の仇を討ちたい。その一心であの者を倒せるだけの力を求めてきました」

『俺達を殺したってぇアイツの事か。アイツは次元が違ったな。魔族達に対してすら立ち向かえる俺達が、あぁもあっさりとやられるとはな』


 ディリジェはすぐに殺されていたため知らなかったが、レミアは既に自身の仇が魔界に住んでいた『上級魔族』であると知っている。

 上級魔族は絶大な力のため、ル・マリオンと魔界の間に張られた結界を通過できないが、瀕死となって弱った者は例外となる。

 つまり『さすらいの風』は死に体の上級魔族に手も死も出なかった事になる訳だが、リーダーの心中を考慮しあえて詳細を語らない事にした。


(伝えられる訳がない。そもそも私達が討ち取ってきた『魔族』と言うのは――)


 今まで倒してきた『魔族』とは、魔界においては『魔物』と呼ばれているそもそも魔族ですらない野良モンスターのような存在に過ぎなかった。

 真の意味での魔族とは、人に酷似した姿と高度な文明を持ち、魔界から出るのを結界で阻まれるような強大な力を有する存在。

 まだ『さすらいの風』が健在であった頃にその事実を突きつけられていたら、もしかしたらメンバーの心は折れてしまっていたかもしれない。


『俺はもうゴルドリオンを顕現する力もねぇ。だから、レミアに託すぜ』

『うむ。我もお主であれば新たなマスターとして異論はない。これからよろしく頼むぞ』

「はい、よろしくお願いしますね」


 ゴルドリオンは尊大な物言いであったが、心根の優しさを感じさせる声の人格であるようだ。


『ゴル兄久しぶり!』

『兄さん久しぶりなんだよ』

『兄貴との再会嬉しいゼ! ウェーイ!』

『ふふ、賑やかになりましたね。これで皆が揃いましたか』


 他のギフト達にとっては兄的存在であったのか、久々の再会を喜ぶギフト達の声が聞こえる。

 その声に迎えられるようにして、残る左足の甲にゴルドリオンの宝玉が宿る。これで両手両足に宝玉が装着された状態となった。


「もしかしてこれが……一体化した状態こそが貴方達の真の姿だったというのですか?」

『そうみたい。私達は元々一つの存在だったけど、余りにも力が強過ぎて手に余る存在だったから、地上へ送られるにあたって分割されたって感じかな。最近までは『元々は一つだった事』を話す事が封印されてたけど、また一つになった以上はもう話しても問題ないって事なのかも』

「そんな手に余る存在を私が手にしてしまって大丈夫なのでしょうか?」

『大丈夫になるように試練が課されたのよ。少しずつ力を手にしていく事で段階を踏んだでしょう?』


 ソウヤとブロンズィードと戦い、未だ引き出し切れていなかったシルヴァリアスの力を限界まで引き出した。

 ゴーディとパルヴァティアと戦い、新たに手にしたブロンズィードを馴染ませると共に、限界まで引き出したシルヴァリアスの扱いを慣らした。

 サンティエとパルヴァティアと戦……っては居ないが、今後に必要な知識と技術を叩き込まれてレミア自身の底上げを図った。

 ディリジェとゴルドリオンの戦いは総決算。手にした全ての力と学んだ技術や知識を活かし、最終的には力を出し尽くして勝利をもぎ取った。


『しかし、予想外であったな。まさか我らがシルヴァリアスを中心にして一体化する事になろうとは』


 ゴルドリオン曰く、一体化する際の中心となるのは五体のうち誰でも良いらしいが、元々は五つのギフトの中で長兄とも言える立場であるゴルドリオンが中心となるのが予定であったらしい。

 しかし、契約者のディリジェが亡くなってしまったため、自身を中心にして一体化することは不可能となってしまった。そのため、この時点でまだ契約者が存命だったブロンズィードかシルヴァリアスが候補となった。

 ブロンズィードは契約者であるソウヤの心が既に折れており、戦線復帰は無理だと判断。残るシルヴァリアスに全てを託す事にしたという。


「……ありがとうございます、皆さん。そのお力をお借りします」



 ◆



 俺達は墓の前に腰を下ろし、レミアの仲間だったという『さすらいの風』メンバー達の冥福を祈った。

 レミアにギフトを託すためのみならず、自身の言葉で伝えるべき事を伝えるためにずっと留まってくれていた英雄達に心から感謝する。

 彼女の新たな仲間として、悲願達成するまで――いや、悲願を達成した後も何らかの形で助けていければと思う。


「これで僕達の役目もお終いだね。三人は天に還り、ギフトはシルヴァリアスを中心に一つとなった。僕はこれから職人として世間を支えるよ」

「今後ともご贔屓に。また定期的に依頼をすると思うから、その時はよろしく頼むよ」

「貴方の所は金払いも良いし見る目もあるからね。名を売る意味でも優先的に対応させてもらう事にするよ」


 ガシッと握手するソウヤとリチェルカーレ。そういやさっき、ソウヤは『コッパー』という名で職人をしてるって言ってたな。

 いつのまにか新たな商談でもまとめたのか。試練を終えた事で荷を下ろしたソウヤは、これからは職人の仕事に集中していくらしい。

 俺達はどうするか。さすがにすぐ旅立ってしまうのは味気ないと思うし、クラティア見物でもしていくか。


「そう言えばこの町は闘争を娯楽にしていると聞いたが、何処かに闘技場でもあるのか?」

「闘技場はヴァルゴ神殿と並ぶ名物だよ。高台の開けた場所から見ればすぐに分かると思うよ」

「現在は外部の人間が参加できるようなイベントは開催されてたりするか?」

「残念だけど今はこの地区の大会が進行中だね。ブックメーカーもやってるから、目利きが出来るなら小銭稼ぎにも良いかもね」


 ソウヤの見た目が子供っぽいから勘違いしそうになるが、中身はしっかり大人だった。割と俗っぽい事も言うんだな。

 だが、悪くない。この世界の闘技場を見物しつつギャンブルなんて、今までに無かったタイプの娯楽だ。


「賭け事云々はともかく、この国の主要な格闘技を見ておくのは良さそうですね。サンティエも様々な流派の戦い方を見ておく事を勧めてましたし」

「剣以外の戦い方を覚えておいて損は無いからね。変に型に囚われるより、自由な戦いの方が読まれにくくもなるからね」


 とりあえず次は闘技場見物に決定だな。果たして、如何ほどのレベルの猛者が鎬を削っているのか……。

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