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439:『さすらいの風』のリーダー

『では早速行くぞ! 仲間達から受け継いだ力も遠慮なく使ってくるがいい!』


 厳めしい見た目とは裏腹に超スピードで迫るディリジェ。

 レミアがそれを受け止めるが、受け止めただけで二人の周りにクレーターが出来、暴風の如き衝撃波が散った。

 見学者として共に異空間へ入った仲間達もそれに巻き込まれるが、障壁のおかげで無傷である。


『ほぅ、この力を受けても涼しい顔で凌ぐとはな』

「それくらい出来なくては、貴方の合格ラインには届かないでしょう?」

『そうだな。では続きと行こうか!』


 ディリジェは剣術とは思えない荒々しさでむやみやたらと剣を叩き付ける。

 本来であればこんな戦い方など隙だらけになるのだが、パワーとスピードが強引にそれを成り立たせる。

 レミアも同様に、叩き付けられる剣に剣を叩き付け返し、金属同士が激しくぶつかり合う。


 もはやそれはキンキンという剣のぶつけ合いではなく、爆砕音が鳴り響く超絶パワー同士のぶつけ合いとなっていた。

 二人がぶつかり合うだけでどんどん周りの地形が崩壊していく。もはやフィールドの背景などあって無いようなものだった。

 彼らにとっての思い出の地も、一瞬にして消し飛んでしまっている。だが、二人はそんな事を気にする余裕などない。


「くっ、シルヴァリアスの全力を引き出しているハズなのに……」

『こちらもゴルドリオンの全力を引き出しているからな。魂のみになって最大出力は出せずとも、リーダーとしての意地でお前の上に立ってみせよう!』

「ブロンズィード、貴方の力を!」

『了解だよ!』


 右手甲部の宝玉が光り輝き、レミアの纏う鎧が重厚感を増す。防御力は勿論、パワーも増す形態である。


『ほぅ、早速使いこなしているようだな。さすがにこのパワーには押されてしまうか』

「ソウヤのパワーにはとても苦労させられましたからね。どうやら彼のパワーは貴方にも通じるようですね」


 改めてレミアが剣をぶつけると、ディリジェは受け止め切れずに弾かれてしまう。

 しかし、その瞬間に蹴りを入れて距離を離す事で生まれた隙の穴埋めをする。

 レミアはブロンズィードの強固な装甲で耐えその場に踏ん張ったが、踏ん張った事で追撃のチャンスを失う。


(リーダーは全てにおいて平均の上を行く……。サンティエに匹敵する機転で立ち回りも上手い。敵に回すと非常にやりづらい相手です)

『ならばこういうのはどうだ? そらそらそらっ!』


 遠距離からの魔力弾連打だ。彼のギフトであるゴルドリオンを象徴するかのような金色の球が次々と両手から放たれる。


(軽々しく連発してますが、一発一発が重いですね……)


 間違っても鎧の耐久力に任せて受けてはいけないと思わされた。受けたが最後、そのまま無数の弾によって完膚なきまでに痛めつけられるだろう。


「では、こちらも――」


 同じように魔力弾を連打して相殺するしかない。シルヴァリアスを象徴するかのような銀色の球を同じように撃ち出す。

 二人の間で魔力同士がぶつかり爆発を起こして粉塵が舞う。その影響で全てが煙に包まれてしまうが、互いに魔力弾を撃つ音はやまない。


(埒が明きませんね。止めれば押し切られてしまいますし、この状況から何か……)

『こんな時のための俺っちだぜー? ニューマスターなら、オールドマスターの使い方から何かをつかんでるんじゃないかな?』

(ゴーディの使い方から……。そういう、事ですか)

『どうしたどうした! このままでは俺が押し切ってしまうぞ!』


 同じ攻撃で相殺しつつ、レミアはパルヴァティアの力で一つの策を仕組んだ。


『さぁ、この程度の窮地くらい何とか切り抜けて見せ――!?』


 言葉を遮るかのように、唐突にディリジェの後頭部に衝撃が加えられる。


『むぅ、アレはシルヴァリアスの右手……まさか!』


 彼を撃ったのは、レミアから外れて飛んでいった鎧の右手部分だった。

 実はゴーディの『魔力による道具の操術』はパルヴァティアによってもたらされたものであったため、力を受け継いだレミアもその手法を体得した。

 ただしパールのネックレスはゴーディの自前であるため、レミアはレミアで操術に用いるための道具を用意する必要があった。


 この時点で用意できるものと言えば、自身が纏う装備くらいしかない。さすがに全てを操術に使ってしまったら防御が犠牲になるため、最低限のパーツに留めた。

 しかし、ここで初めて使った技術である事や、ディリジェの攻撃を相殺しながらと言った要因もあり、たった一つのパーツを操るだけでもかなり苦戦。

 かろうじて相手の背後にまで飛ばし、不意打ちで拳を叩き付けるのが精一杯だった。とは言え、この一発だけでも今のレミアにとっては充分過ぎる機だった。


(攻撃が緩まりましたね。今のうちに……アルゲントゥム!)


 両手に力を集中させ、未だ飛来し続ける多数の魔力弾を諸共に飲み込む大きな一撃を放つ。少し前にはゴーディとの戦いを終わらせた技だ。

 シルヴァリアスには「考えなしに撃つな」と怒られたばかりであるが、今回は『さすらいの風』最強のリーダーが相手である。そんな相手に対して、よりにもよって『手加減をする』などおこがましいにも程がある。

 空間破壊云々に関しては、先程の経緯もあってリチェルカーレを信用する事にしていた。あの人ならば、間違いなく自分の全力でも大丈夫であろう……と。


『おぉ、これがゴーディを葬ったという一撃か。確かに凄まじいまでの力を感じるな。良いぞ良いぞ! はははははは! ははは――』


 魔力弾を全て搔き消され、両手でアルゲントゥムを受け止めたディリジェであったが、さすがに完全に力を引き出したシルヴァリアスの力は荷が重かったらしく、そのままエネルギーの奔流に飲み込まれていった、が。


「……油断はしません!」


 ガキンッと金属同士がぶつかる音。レミアが背後から振り下ろされた剣を受け止める。


『さすがだな。人は勝利したと思ったその瞬間に油断が生まれるものだが、残心を忘れてはいないようだな』

「サンティエから嫌と言うほどに戦技指導を受けましたから。それに、貴方があの程度でどうにか出来るなどとは微塵も思っていません」

『今の俺はゴーストだからな。実体なんて物はとうの昔に無ぇから移動も自由自在よ。にしても随分と買ってくれるじゃねぇか。当然、そっちもまだまだやれるんだろうな!?』

「勿論です!」


 再び近距離で衝突し合うが、今度のディリジェは力任せではなく技巧に富んだ攻めを行使してくる。


(これはガリア式剣術……。サンティエから様々な地域の剣術を習っておいて正解でしたね)

『ほぅ、適応してくるか。ならばこれはどうだ?』


 事前に予習してあったためか相手の動きに適応できている。ディリジェはさらに動き方を変えるが、これもまた別の国の剣術。

 ディリジェが次々と動き方を変えていく中、ツェントラール式の剣術もあったりして懐かしくなったレミアであったが、ここで彼女も戦法を変えた。


(プラティニア。貴方の力をお借りしますよ)

『ふふ、サンティエには余り力を貸す機会が無くて寂しかったから、久々に気分が高揚しますね』


 今まで相手の攻撃を正面から受け止めていたレミアが、巧みな体捌きで攻撃を受け流し、その隙にディリジェの顔面に拳を打ち込む。

 兜が吹っ飛ぶが、ゴーディと同じく本体は霊体であるため、そこに顔は存在しない。当然ながら、その程度では全然ダメージになっていない。

 だがレミアもそんな事は承知の上。少しよろめいたディリジェの腕を引き込み、地面へと押し倒し、その背に膝を乗せて抑え込む。


「……アルギュロス・イフェスティオ」


 シルヴァリアスをディリジェの身体諸共地面へと突き刺し、可能な限りのエネルギーを地面で爆発させた。

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