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435:切られた契約、結ばれた契約

 レミアは器用にもソウヤは傷付けず、ブロンズィードだけを斬り裂いて見せた。

 これはシルヴァリアスが実体剣ではない事、レミアが斬る物を見極められるようになっていた事によって出来るようになった業だった。

 ソウヤとしてはレミアの覚醒と引き換えに自分が犠牲になるくらいの覚悟で居たのだが、無事に生き残る事が出来た。


「ぶ、無事……なんでしょうか……?」


 ブロンズィードの破片が爆発したため、そのブロンズィードを着用していたソウヤは言わば爆心地に居た事になる。

 ボロボロの姿となって地面に突っ伏してはいるが、ピクピクしているので死んではいなかった。

 試練が終わったと察して見学していた仲間達が駆け付け、エレナが治療に取り掛かったのでもう問題は無い。


「終わったみたいだな、レミア。シルヴァリアスの全ての力を引き出す事には成功したんだよな?」

「えぇ、おかげさまで。ただ、目的こそ達成はしましたが、ここへ至るまでにもっと強敵との実戦経験を積んでおくべきだったと後悔させられました」


 レミアがシルヴァリアスの力を全て引き出すためには、シルヴァリアスと一体化する必要があった。

 そのためにはレミアが瀕死となり『シルヴァリアスの力が無ければ生きていけない』程の状況に追い込まれる必要があった。

 万全の状態だと、レミア自身の持つ力がシルヴァリアスの力を異物と判断し、一定量以上の受け入れを拒んでしまう。


『ちょっと待って新マスターさん。試練はまだ終わっていないんだよ』

「?」


 レミアに声がかけられる。しかし、彼女にとっては聞き慣れない声であり、心当たりがない。


『僕、ブロンズィードだよ。試練を超えた事によって、新マスターに僕の声が聞こえるようになったんだよ』


 声の主はブロンズィードだった。声は横たわるソウヤの上に光る球体から発せられていた。

 銀色に光るシルヴァリアスとは異なり、ブロンズ――青胴を示すかのような色の光を放っていた。


「どういう事ですか? 新マスターとは……」

『先程の攻撃によって僕は一度破壊されて前マスターとの契約が切られたんだよ。そして、同時に新マスターとの契約が結ばれたんだよ』

「契約? 私が貴方と……ですか?」

『うん! 前マスターの試練はシルヴァリアスの覚醒のみならず、僕の譲渡という目的もあったんだよ』

「譲渡……。私がシルヴァリアスだけではなく、ブロンズィードも使えと? ギフトを二つも使うなど良いのでしょうか?」

『別にそんな決まりはないわよ。過去には強敵と戦うためにギフト山盛りの馬鹿も居たくらいだし』

「シルヴァリアスはそれでいいんですか? てっきり――」


 レミアはそこで言葉を止めた。他のギフトを使う事に嫉妬しそう……と思ったのだが、口にしたら烈火のごとくキレられると感じた。


『いいのよ。それに、私達は元々――んぁ!? 何か口にする事が封じられてるみたい、言えない!』

『シルヴァリアスもいいみたいだし、新マスターにとって「強くなる」という目的にも合致するし、契約は大丈夫だよね?』

「はい、よろしくお願いします。私は『真の魔族』を討つためにも、もっともっと強くなる必要があるのです」

『じゃあ僕もそっちに合流するんだよ。よろしくねー』


 そう言ってブロンズィードの光がレミアの身体に吸い込まれていく。直後、レミアの右手甲部に青銅の宝玉が出現した。


『これでシルヴァリアスに僕の力が組み込まれたんだよ。今後のギフトの主導はシルヴァリアスに任せるんだよ』


 つまり、シルヴァリアスの人格が主体となって喋るという事だ。ブロンズィードの意識は、意図して呼びかけない限りは眠っている状態となる。


『でも、眠る前に『次の試練』を用意しておくんだよ。それが前マスターの最後の仕事でもあるんだよ』

「次の試練……? 試練は他にもあるのですか?」


 しかし、ブロンズィードは眠ってしまったのか、反応が無かった。


『代わりに私が答えるわ。ブロンズィードから試練が与えられた以上、他の子達からの試練もあるという事よ』

「他の……まさか!」


 レミアが思い至ったと同時、ソウヤによって形成されていた『試練の場』が崩壊した。



 ◆



 通常の空間に戻ってきたため、ブロンズィードの力の解放によって完全に崩壊していた台地が元に戻っている。

 しかし、二人の自重無き激突によって薙ぎ倒されてしまった木々は元に戻っていない。


「さすがにこのままにしておくのは忍びないな。ククノ、パチャマ、今は大丈夫そうか?」

『ほいほい、呼ばれて飛び出て何とやらじゃ。パチャマとセットで呼ばれたという事は、つまりそういう事かの?』

『あいあーい。じゃあさっさとやっちゃおっか。二人ならお茶の子さいさいだしね』


 竜一が名前を口にするだけでひょっこり現れる契約精霊達。木の精霊と土の精霊がセットで呼ばれた時点で既に役目を察していた。

 その役目とは言わずもがな大地と木の再生。その気になれば大森林すら形成できる二人にとっては容易い事だった。


「他の子達から次の試練が与えられるみたいな事を言っていたが、ソウヤ以外のメンバーって亡くなったんじゃなかったか?」

「えぇ、間違いありません。私もソウヤも確実にあの魔族によって殺される所を目撃しておりますので……」

「確かにあの三人は亡くなってしまった。しかし、彼ら自身の意志と契約を結ぶギフトたちの意志、そして僕とブロンズィードの力で魂は現世に留まっているよ」


 治療を終えたソウヤが起き上がってきて、レミアの会話を引き継ぐ。


「まだ我々にはやり残した事がある。そのためには死んでも死にきれない……って、リーダーが言ってた」

「やり残した事……それが、私への試練という事でしょうか」

「その通り。僕はともかく三人は亡くなってしまったから、自分で行動しようにも出来ないんだ。だから、レミアお姉ちゃんに託すんだ」


 ソウヤ自身も過去の経験がトラウマとなってしまい、模擬戦はともかく実戦で活躍するのが厳しくなったため、レミアに託す事を選んだ。

 亡くなった三人も含めた『さすらいの風』メンバー全てが、再び立ち上がったレミアに願いの全てを賭ける事にしたのだ。


「さて、次の試練は誰が担当するのかな……?」

『だったら、この僕が行こうじゃないか』


 ソウヤが墓前に行ってつぶやくと、墓のうち一つが眩い輝きを放ち、中から大きな光の球が這いずり出してきた。

 白く輝くその球体から発せられる声は穏やかで優しげな男性の声。当然ながらソウヤは声の主を知っており、久々に聞いたレミアもすぐに分かった。


「まさか、パルヴァティア――ゴーディなのですか?」

『久しぶりだね、レミア。そうさ、僕さ。さすらいの風の伊達男、ゴーディさ』

「こんな言い方するのもどうかと思いますが、変わらないですね」

『誉め言葉として受け取っておくよ、何せ僕はポジティブだからね』


 光の中から現れたのは全身鎧。青銅の鎧と言った感じのゴツゴツしいブロンズィードとは異なり、光沢のある白で全体的に丸みを帯びた作りの鎧だ。

 少し宙に浮いた状態で両手を広げるポージングはまるで天から降臨した天使を思わせる。とても地中から這い出てきたとは思えない。


『さぁ、早速だけど次の試練を始めようか、レミア』

「よろしくお願いします。ソウヤとブロンズィードの時と同じように、貴方と戦えば良いのですね」

『既にシルヴァリアスの力は引き出しているね? 最低でもそれが前提だよ』

「ソウヤには苦労を掛けてしまいましたが、おかげさまで。後はこれからさらに磨きをかけていきます」

『その心意気やよし。では僕とパルヴァティアの大いなる力をお見せしようじゃないか』

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