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432:ブロンズィード

 私がソウヤとの戦いを始めてから、一体何回ほど打ち合ったでしょうか。

 ソウヤが「殺すつもりで」と言っていた通り、私に匹敵するスピードで一振り一振りがとても重い斬撃を放ってきます。

 私もここで死ぬわけにはいかないので、ソウヤを斬り倒してでも進むつもりで剣を振っています。


 後で知ったのですが、私達の打ち合いは一手一手が凄まじい威力であったようで、私達が戦っていた近辺は余波で壊滅的な被害を受けていました。

 自分で言うのも何なのですが、これほどの力を有している私達が普通の空間で全力を出してしまうのは非常に危険ですね……。


「いい感じじゃないか、レミアお姉ちゃん。シルヴァリアスをそこそこは使いこなせてるみたいだね。じゃあ次はこんな趣向はどうかな?」


 私に剣を打ち付けた反動で大きく後ろへ飛び、手元の剣を消すソウヤ。両手で握り拳を作り、腰を落として力を込めているようです。

 何やら大きな一撃でも放とうというのでしょうか。その前に懐へ飛び込んで、何とか先制を奪えないものでしょうか。


「ヴァリマヤーナ!」

「そこです!」


 彼が叫ぶと同時に私の一撃が胴を打ちました。これで彼が両断されてしまってもやむを得ない……それくらいの気概で放ったものです。


「……!?」


 しかし、剣は通ってはいませんでした。彼の鎧――ブロンズィードにしっかりと受け止められていました。

 おかしい。さっき打ち合っていた限りでは、彼の鎧にはこれ程の耐久力は無いはず。と、一瞬でも疑問を抱いてしまったのが間違いでした。


「つかまえたよ」

「しまっ」


 剣を止められた事に驚いて動きを止めてしまったその一瞬で、彼は左手で私の腕をつかんで引き寄せつつ――


「いくよ、ブロンズィード。今の僕は、剣よりも拳の方が強い!」


 先程までとは比にならないくらい重装甲と化した右手が、容赦なく私の腹を打ち据えました。



 ◆



 ソウヤが動きを止めた一瞬を狙い、レミアは踏み込んで斬撃を放った。

 しかしそれを胴体の装甲で受け止め、その事に焦ってか動きを止めたレミアを拘束。

 すかさず腹部へパンチを叩きこみ、弾丸ライナーの如くレミアを弾き飛ばす。


「やっぱ僕はこっちの方が性に合ってるね。レミアのように素早く動く事は苦手なんだ」


 レミアを殴り飛ばしたソウヤ。彼が身に纏う鎧――ブロンズィードはその様相をすっかり別物へと変えていた。

 軽装鎧といった雰囲気から一転、動くのも億劫そうに感じられるほどの凄まじい重装甲の鎧になっている。

 まるで限界まで引き締められた肉体の陸上選手が、急に力士へ転身したかのような、あまりにも真逆な変化であった。


「見た目は少年でも、さすがは伝説の一人だね。レミアの苦手を突いてきたか。素早さで撹乱して、手数で軽さを補うタイプだと重装甲は厳しいよ」

「レミアさんの攻撃が……軽い? その気になれば一振りで大地割るようなあの人の攻撃が?」

「いくら格下の相手や地形なんて物がスパスパ切れた所で、同格やそれ以上に対しては意味を成さないんだよ」


 レミアの規格外の攻撃力を間近で見てきたからこそ、ハルには『レミアの攻撃が軽い』と評されている事が信じられなかった。

 リチェルカーレは地形を斬り裂く事など大した事無いかのように言っているが、実際に大地を割る程の破壊力を出そうと思ったらとてつもないパワーが要る。

 先程レミアがソウヤに斬りかかった一撃も、もしソウヤに当たらず大地にヒットしていたら、この地に巨大な谷が形成されていた事だろう。


 二人がやり取りしていた攻撃はそのレベルである。互いに宣言し合っていたように、その気になれば相手の命を獲れる程の一撃。

 だが、それすらも重装甲となったソウヤのブロンズィードには傷一つ付けられずに止められてしまう。これがレミアの全力であったのなら詰みだ。

 ここにきてレミアはそれを超える事を要求される形となった。試練とは、今の彼女に足りない部分を補うために課せられたのかもしれない。


「く、うぅ……」


 森林の中へと弾き飛ばされ木々をなぎ倒しながら吹っ飛んでいったレミアだが、幸いにもまだ死んでいなかった。

 シルヴァリアスの鎧が大きく破損させられていたが、特別な『ギフト』と呼ばれるアイテムなだけあって、自動的に修復が始まる。


「ブロンズィードにあんな力があるとは……。ソウヤも力を引き出すための修行を続けていたという事ですね」


 まだ『さすらいの風』が現役だった頃、最年少メンバーのソウヤは今のレミアのように素早さとテクニックで戦う剣士タイプだった。

 そんな彼がブロンズィードに選ばれる事になったが、選ばれたばかりの彼はまだまだ自身の身体能力強化や、強い武器防具として扱うくらいしか出来なかった。


『感慨に浸ってる場合じゃないでしょ。あんただって私のパワーを引き出しきれていないんだから、もうソウヤに追い抜かれてるわよ』

「はっ!」


 シルヴァリアスに選ばれてから、自身の身体能力強化や強い武器防具として扱うくらいしか出来ないのはレミアも同じだった。

 とは言え、どうすればソウヤのようにシルヴァリアスを変形させられるかが分からない。そもそも、シルヴァリアスが同じような機能を有しているかどうかも不明だ。


「……考えるのは後です。攻めながら考えます」


 装備を元の状態にまで復元してから、ソウヤと先程戦っていた位置にまで戻っていく。

 見た目だけは修復出来ても身体に受けたダメージまでは回復していない。ズキズキと痛むが辛抱する。

 ソウヤはレミアが戻って来るまでその場でじっとしていた。そもそも動く必要が無かった。


 レミアは試練としてソウヤに打ち勝たなければならず、必ず戻って来る必要がある。

 重装備となった今、積極的に動くのは愚策。防御を突破するために動く相手の隙を突くだけでいい。

 ソウヤはそう考えており、レミアのあらゆる攻撃を受け止めて耐えるという腹積もりだった。


「改めていきます!」


 レミアは可能な限りの力を刀身に込めて、待ち構えるソウヤに対して振り下ろした。

 至近距離で受け止められての反撃を警戒してか、少し離れた位置で振るった斬撃が地面を抉りながらソウヤに向かっていく。

 ゴールキーパーのようにどっしり構えるソウヤは、その姿勢のまま飛んできた斬撃の闘気を受け止める。


「さっきよりはマシになったけど、まだまだだね。そう言う事じゃないんだよ、レミアお姉ちゃん」


 霧散する闘気。レミアの手前まで斬撃による深い溝が刻まれているが、ソウヤの所でそれは完全に止まっていた。

 重装甲と化したブロンズィードには傷一つ付いていない。レミアにとっては現時点で出来る限りの力を込めて放った一撃だったが、全く通じなかった。

 ならばもう一度――と考えるも、同じ事をそう何度も何度も許してもらえるとは思えないと考え、別の方法を考える事にする。


(やはり、接近戦しかない。しかし、ソウヤの一撃は非常に重い。何とかして活路を見出さなければ……)


 レミアはソウヤの攻撃を受けるのを承知で接近戦を挑む事を決めた。

 遠距離から闘気をぶつけるよりは、近距離から重い一撃を叩き込んだ方がまだマシと考えた。

 一撃で傷が付かないなら、傷が付くまで何撃でも打ち込んでやろうという気概だ。

 

「がっかりさせてごめんなさい、ソウヤ。でも、この戦いを通じて必ず壁を越えて見せます」

「期待してるからね。レミアお姉ちゃんがここで諦めてしまうような人なら、そもそもシルヴァリアスに見限られてると思うし」

『そうよそうよ! レミアはいくらボコられようが何度でも立ち上がるんだから!』


 ……どうやらシルヴァリアスの中では既にボコられる事が確定しているようだ。

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