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424:神官の聖性

 エレナは神官であるが、前衛で戦う事も可能なタイプだった。

 元々宿している莫大な法力に加え、アンティナートによる上乗せも重なって、もはや個人の領域を圧倒的に超える法力を有する。

 そんな彼女にしかできない手法。それが、法力量にモノを言わせて非効率な身体強化を行ってしまうというもの。


 人に宿る力は主に闘気、魔力、法力の三種とされており、身体強化に最も適した力は闘気である。

 一方で最も適していないのは法力で、闘気が一の力で一の強化が出来るならば、法力は百の力でやっと一を強化できるかの如き非効率ぶり。

 そのため、通常の神官であれば己の持てる法力を身体強化に費やしても雀の涙程度の効果しかないため、基本的に使わない。


 だが、エレナは十万だとか百万だとかの馬鹿げた量の法力を使って、無理矢理に闘気の使い手並の力を引き出している。

 こんな事が出来るのは現時点ではエレナしかおらず、普通の神官は法術で回復や補助などに徹するか、聖性で邪悪を浄化する方向に力を使う。

 型破りな戦い方は初見殺しとなっているが、エレナの恐ろしい所はそれだけにあらず。法力の使い方も常識の範疇を外れていた。


「あら、下手したらレミアさんを上回る力かもしれないわね」


 アリムがエレナの拳を手で受け止めて抱いた感想である。アリム自身も魔力を展開して受け止めたのだが、掌がヒリヒリした。

 エレナの格闘はちゃんとした訓練を行っていたためかしっかりと型になっており、本能的な力のみで戦うアリムには捌くのが難しかった。

 それでもまともに攻撃を受けていないのは、生来の圧倒的な身体能力による強引な対処によるものである。


(私自身、最近はコレに頼り過ぎてしまうのが悪い癖だとは思っています。ここは基本に立ち返って、神官らしさを……)


 エレナはここ最近御無沙汰になってしまっていた杖を召喚し、手に取った。

 別に杖など無くても法術は行使出来るのだが、インファイト思考から切り替えるためにあえて手にする。

 そして、本来ならば杖は力を増幅させる装置なのだが、彼女は収束と加減の意味でも使っていた。


「ホーリーウォール!」


 エレナは自分とアリムを中心にしたドーム状の結界を展開した。その直径は数百メートルに及ぶ実に巨大なものだ。

 本来ならば外から使って邪悪な者を閉じ込めるための結界なのだが、今回はアリムを遠距離へ逃がさないための檻として自分が中に居る状況で行使した。

 戦いを見学している竜一達も結界の中に入ってしまっているが、リチェルカーレがバリアを展開してくれているため問題は無い。


「ホーリーランス、多重生成!」


 エレナが前方に杖を突き出すと同時、その杖に並ぶようにして輝かしい光の槍が生成される。

 事前に多重と言った通り、その光の槍をコピーアンドペーストするかのように、次々と光の槍が増殖していく。

 最終的にはエレナの背後に大量に並び、まるで巨大な壁のように見える程の数が用意される事となった。


 相対する者からすれば地獄のような光景であるが、アリムは不敵な笑みを浮かべたまま姿勢を崩さない。

 エレナが杖を上に掲げ、そのまま前方へと振り下ろすと、それが合図とばかりに光の槍の壁の一部がアリムに向かって飛んでいく。

 逃げ場など無い程の徹底的な追い込み。アリムは己の魔力量と強度に任せてバリアを展開し、全てを耐えきるつもりだった。


「確かに数は多いけど、一つ一つの法力量はそんなに大した事な――え?」


 しかし、放たれた光の槍はあっさりとバリアを突き破り、アリムの身体へ突き刺さってしまった。

 刺された箇所から発される煙。槍が消えると同時に傷付いた箇所は再生していくが、アリムは苦痛に顔を歪める。

 身体の内側から焼かれるようなこの痛みは、通常の武器で刺された時には感じない独特のものだった。


(あまりにも型破りな戦い方で失念していたけど、エレナは神官――聖性があって当然だったわね)


 今までエレナは法力を身体強化に全振りしていたため、そんなに強く聖性が現出していなかった。

 だが今は法術に重きを置いており、己の属性を高めている。属性による相性差は、多少の力量差を覆す場合がある。

 単純な力ではエレナの攻撃を防げていたものの、聖性による魔に対する影響力は想像以上に凄まじかった。


(ちょっと待って。エレナの聖性は痛いけど、何とか再生は出来る程度のダメージにとどまってる。教皇の娘でスキルも相まって神官では最強クラスの使い手の力でこれくらいで済んでる。なら、じゃあリューイチの聖性って一体何なの?)


 竜一の血を吸おうとしたアリムは、口元や鼻にかけての部分がが完全に消失してしまうという事態に陥ってしまった。

 それどころか『存在の根源』にまで影響を及ぼしてしまい、アリムという存在の形が『口元や鼻の無いその状態が基本的な形状である』と固定されたようになってしまい、顔の再生を許さない状態と化してしまった。

 試しにリチェルカーレが頭部を完全に砕いて改めて再生してみても、竜一の影響で欠けてしまった部分だけは元に戻らなかった。


 それほどの影響を与える竜一の身体に込められた聖性の濃度は、エレナが発揮する力と比較しても比べ物にならない程に濃密なものだった。

 エレナの力が希釈されたカルピスだとするならば、竜一の力は原液そのもの。一体何をどうすればそれ程の聖性を宿せるというのか。

 アリムはエレナとの対峙中だというのに竜一の事を考えてしまった。そのほんのわずかの余計な思考が、彼女にとって致命的となる隙となってしまった。


「――!?」


 ジュワッと全身が一気に焼ける感覚。先程とは比にならない痛みが襲ってくる。


「聖なる力によって隔離された空間。当然の事ながら、その中は濃密な聖性で満たされる事になります。魔の力を宿す貴方にとっては、この領域そのものが猛毒です」


(そうか、光の槍があの程度で済んでいたのはこちらに力を使っていたからなのね……くっ、してやられたわ)


 アリムの強力な再生力は、聖性が全身を焼くと同時にすぐ再生を行う。そのため、アリムは肉体が焼かれては治癒するという状態を幾度も繰り返す事になる。

 表面的には澄ました顔をしているが、水面下では焼かれる度に歯を食いしばって耐えなければならないような痛みと戦っている。

 エレナが結界を展開した時点で、アリムはすぐ破壊に向かうべきだった。結界の稼働を許してしまった時点で、アリムには永続デバフが掛かったようなものだ。


 その上で、先程の光の槍が絶え間なく飛んでくる。これ以上は体に余計な痛みは負いたくないと、舞うようにして次々と攻撃を弾く。

 だが、今度は試し打ち程度の量ではない。視界を埋め尽くす程の光の槍が、撃ち落としても撃ち落としても全く減らない。

 アリムが消せば消しただけ、エレナが即再生産して準備する。アリムは全力で攻撃を凌いでいるのに、エレナは疲労感も無くと攻撃を続けている。


「あっ、まずっ……もう捌き切れない! きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ついにアリムは光の槍の着弾を許してしまう。先程と同じ痛みを覚悟したが、襲い来る痛みは先程とは比べ物にならない程に凄まじいものだった。

 当然と言えば当然だが、最初に少数の光の槍を放った時は試し撃ちのようなものであり、エレナはそこに大した力を込めてはいなかった。

 それをアリムが『エレナの力はこんなものだ』と勘違いしていたが故に起きた。だが、時既に遅し。次々と槍が着弾し、アリムがウニのようになってしまう。


「おっと。その辺でストップをかけさせてもらおうか。さすがにそれ以上やるとアリムでも死ぬよ」


 リチェルカーレが割って入り、右手を一振りすると同時、まだ無数に残っていた光の槍が根こそぎガラスの如くバリンバリンと割れていく。

 さらには結界すらも砕かれ、アリムに突き刺さっていた光の槍も消え、穴だらけとなったアリムがその場に倒れ伏してしまう。


(おいおいおい、さすがにこれは――)


 戦いを見ていた竜一は、もはやドン引きであった。

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