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423:組み手と言う名の

 ズガガガガガガガガガッ! ドゴオォォォォォォォン!!!


 俺は今、轟音の只中に居た。さっきからずっとこんな感じで地面の激しい揺れや空気の振動を体感している。

 と言うのも、現在はアリムと流離人の女性陣三人が組み手とは名ばかりの争いを繰り広げているからだ。

 最初は「せっかくだし組み手して互いの実力を確かめてみようか」くらいのノリだったんだが、アリムの俺に対するアプローチに嫉妬心を見せた三人がヒートアップしてしまったのだ。


「ほんと血気盛んよね、竜一ハーレムの人達は……」

「ハーレム言うな」


 いや、分かってはいるんだ。レミアとエレナとセリンが明らかに好意を寄せてくれているのは。

 それを聞こえない振りをしたり気付かない振りをしたりするような態度はご法度だ。しっかり向き合わなければなるまい。

 だが、俺だって男だ。合法的にハーレムが可能ならば、実現してみたいと思う程度には欲があるつもりだ。


 こういう考え方をするようになったのも、やはり身体の若さに引っ張られているのか……?


「私達は組み手に参加しなくていいんでしょうか」

「いいのよ。アレは組み手の名目で竜一さんを巡って争ってるだけだから、私達は参加しなくていいのよ」


 ハルとルーの二人は特にそういう気が無いらしく、俺と一緒に見学側に回っている。

 気が無いと明言されて寂しい気もするが、ルーは現役学生だし、ハルも見た目は高校生でそういう対象には見られないんだよな。


「みんないくら頑張ろうが無駄さ。アタシは最初期からリューイチと組んで旅をしている最古参。あらゆる意味で優位に立っているんだからね」

「……そうやって油断している奴が最後の最後で掻っ攫われていくという例は腐る程見てるんだがな。俺の気持ちが最終的に誰に傾くかは分からんぞ?」


 余裕ぶって見学側に回っていたリチェルカーレだったが、俺の言葉を聞いて大口を開けた状態で固まってしまった。

 いくら昔からの幼馴染で友達以上恋人未満の関係になっていたとしても、唐突に現れたアプローチの強い相手に横から寝取られる例は少なくない。

 安定した関係性だからとそのままゴールイン出来るなどと思うのは愚の骨頂だ。胡坐をかく事無く関係性を発展させる努力が大事だ。


「よし、アタシも参戦しよう。そして全力を持ってみんなをぶっ潰す――」

「そうやってライバルを排除しようとする思考は大きな減点だぞ。相手を潰すんじゃなく、相手を超えられるように自分を磨け」

「ぐ……ぅ……。ご、ごもっともな意見だね……」


 自分が七十点しか取れないからって八十点取る人を潰す人より、自分を磨いて九十点や百点を取ろうと努力する人の方が、どう考えても魅力的だからな。

 どんな事例においてもそうだが、自分の良さをアピールするのではなく相手の悪さをアピールする奴は嫌われる。こういう事例は選挙で勝てない側の陣営が良くやってるパターンだ。

 八十点の人に代わって九十点や百点の人が上に立つのは良いが、八十点の人を排除して七十点の人がトップに立っても、それは質の低下でしか無いからな。


「……という事は、だ。今まさにライバルを排除しようと動いているあの子達は大きな減点という訳か」

「残念ながらそうなるな。まぁ、今回は修練としての側面もあるだろうから、そこまで強く非難するつもりは無いんだが」


 幸いにもここはリチェルカーレによって連れてこられた別空間にある大地、いわば『管理外世界』の一つ。

 最終的に消去する事を前提としているため、いくら大暴れして破壊しようが問題はない。

 とりあえずは当人達が満足するまで見守ろう。こればかりは俺がどうこう言ってもどうしようもない。



 ・・・・・



 一方、そんな竜一の思惑など知らずに戦っている女性陣達。


(くっ、攻めきれない。シャフタさんは技巧で凌いでいたけど、アリムさんは単純なフィジカルで凌いでくる……)


 レミアはぶっちゃけ急に竜一との距離を詰めてきたアリムに対してモヤッとしたものを感じ、その衝動をぶつける形で戦いを挑んでいた。

 平たく言ってしまえば嫉妬である。レミア自身、割と唐突に竜一との距離を詰めてきているのだが、自身の事は棚上げである。

 最初はいきなり圧倒的な力で押して新人をわからせてやるつもりだった。しかし、ヴリコラカスという種族の潜在能力を舐めていた。


「どうしたのよ。貴方ギフト持ちなんでしょ? せっかくの美しい銀色がくすんで見えるわ。煌びやかに輝かせてみなさいよ」


 アリムの指摘に歯噛みするレミア。未だシルヴァリアスの力を完全に引き出しきれていない事を見抜かれている。

 レミア自身は全身全霊で力を込めているつもりなのだが、言わずもがなただそれだけでどうにかなるようなものではない。

 意志を持つシルヴァリアスが説明しようにも、シルヴァリアス自身がその明確なやり方を把握していない。


 実は安易に強大な力を開放してしまわないよう、作り手がギフトに宿る意思にわざと力の引き出し方を教えていないのだが、当人達はそれを知る由もなく。

 そのため、シルヴァリアスの真の力を引き出すには使い手たるレミアが自らの力でその境地に辿り着かねばならない。

 アリムが思わぬ強敵であった事で、これこそチャンスなのではないかと思って気合を入れているのだが、なかなか思うようにいかない。


「では、貴方との戦いをその礎とさせて頂きます!」


 レミアの全力の振りを、アリムは己の爪を剣状に固めて受け止める。容易くやっているように見えるが、レミアの一撃は大地を割る程の威力。

 その衝撃は容易に殺しきれるようなものではなく、受け止めたアリムの身体を抜けて地面を大きく破壊してしまう。

 特に力を受け流した訳では無い。正面からその力をしっかりと受けた上でビクともしない程の強靭な身体能力を有しているのだ。


「良い心意気だわ! でも――」


 アリムもまた、力任せにその腕を振るう。シルヴァリアスの剣で受け止めるも、その場で踏ん張り切れず後方へと弾き飛ばされてしまう。

 レミアは攻撃力だけならアリムに匹敵するパワーを出せているが、踏ん張りが弱いためこうして一撃で大きく動かされている。

 その力を上げるために何とかシルヴァリアスの力を引き出そうとするのだが、失敗が続いており、攻めきれない要因となってしまっている。


(こうなったら、辺り一帯を巻き込んででも!)


 レミアはシルヴァリアスを地面に突き立て、火山が噴火するかの如く膨大な闘気を噴出させる。

 瞬く間に大地が砕けて塵となっていくが、その渦中に居るアリムは球状の障壁を展開させて余裕の顔だ。

 彼女の足元も砕け散るが、そのまま浮遊状態となって放出される闘気の奔流を受け流していた。


「それが今の貴方の全力なのだとしたら、全然足りないわ。私はまだまだ本腰すら入れていないわよ?」

(私が打倒を目指す上級魔族……。目の前のアリムさんを超えられずして成し遂げられるとは、とても思えない)


 レミアが一気に大きな力を放出したからか、疲労で動きが止まる。

 しかし、それを待っていたかのように飛び込んできたのは神官のエレナだった。

 淡い緑色の法力を纏った拳が、アリムの障壁に突き立てられる。


「レミアさんの鬼気迫る勢いについつい見入ってしまいましたが、別に一対一では無かったですよね」

「えぇ、ご自由に。皆して『わからせる』つもりだったのかもしれないけど、思い通りに行かなくてごめんなさいね」


 挑発的に笑むアリム。エレナは内心で少しイラッとするが、事実なので笑みを崩さずに応じる。


「今の私が何処まで通じるのか、その胸を借りさせて頂くつもりで参ります」

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