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418:ヴリコラカスの王族

「よくぞ参られた客人達よ。我はイスナート、ヴリコラカスの王である。リチェルカーレ殿も久々であるな」

「この度は我々を領地へ受け入れて頂きありがとうございます。冒険者パーティ『流離人』リーダーの刑部竜一と申します」


 俺達は王の間に案内され、伯爵から事前に教えられたように跪いて礼を尽くす。

 さすがに王というだけあって纏う衣装は伯爵よりも豪奢。それでいて過剰に派手という訳でもなく紳士然としている。

 肩を少し超える程度の金髪を揺らす美形の顔立ち。それでいて体格は偉丈夫という活力に溢れた容姿。


「久々だねイスナート。元気してたかい?」

「ちょっ、アンタ一体なんなのよ! 私とお父様は王族なのよ! 無礼極まりないわ!」


 リチェルカーレは相変わらず腕組みして立ったままだ。相手が例え王だろうと尊大な態度は崩していない。

 しかし、そんな態度に腹を立てたのか、王の横に立っていた少女が彼女に対して食って掛かる。

 王をお父様と呼んだという事は王女様か。親譲りの金髪を腰まで伸ばし、リチェルカーレとはまた違うタイプのゴスロリじみた衣服が良く似合っている。


「良いのだアリム。リチェルカーレ殿は大恩ある賢者ローゼステリア様の筆頭弟子、我らにとって賢者様と並ぶ救い主なのだ。むしろ、我らの方こそが礼を尽くさねばならない御方だ。すまぬなリチェルカーレ殿」

「いや、気にする事は無いよ。しばらく会っていない間に産まれた子だろう。アタシの事を知らなくても仕方がないよ」

「仰る通りです。この子は近年に産まれた我らヴリコラカスの希望の星で御座います」


 不機嫌そうになる王女――アリムだったか。当人としては王族としての尊厳を考えて怒ったのだろうが、逆に自分が窘められてしまった。

 目に見えて「ぐぬぬ」と言ってそうな表情が微笑ましいな。でも、さらに言葉を返してしまわない辺り弁えてもいるようだ。

 イスナート様が「希望の星」と言った辺りであからさまに機嫌が良くなった。希少種族の子だけあって、大切に育てられているんだろうな。


「とにかく、ゆっくりしていくがいい。民達は臆病故に交流する事は難しいだろうが、店の類は応対するように申しつけておくのでな。せっかくだし、当方でもおもてなしをさせて頂こう」



 ・・・・・



 俺達は大広間で食事をごちそうになっていた。ヴリコラカスは実際の吸血鬼と異なり、普通の飲食もたしなんでいるそうだ。

 文化的には隣国のアヴォドロムやアジラグラーヴに近いらしく、料理の傾向は確かにアヴォドロムでも見たような香辛料やハーブが効いてそうな物が見られる。

 やはり血も食事の一種となっているだけあってか肉類が充実している。俺達は再びワインと合わせてガッツリ系の食事を頂く事となった。


「ふむ、なるほど。今、外はそのような状況になっておるのか……」


 隔離された空間に居るだけあって外の世界の事情には疎いようで、色々な相手から外の様子を尋ねている。

 引きこもってはいても興味津々な様子で、全く関わりなく生きているという訳でもないらしい。

 実際、表に住んでいる人間の王家とは交友があるらしく、当代の王アイナヴルとは飲み友達のような間柄なのだという。


 確かこの国の名前が当時の人間の王ネグルーヴとヴリコラカスの王ネンヴェイスから取って、ネグルーヴ・ネンヴェイスと言う名前だったな。

 それなら今の王から国名を付けるとしたら、アイナヴル・イスナートという国名になるという事か。表と裏の連立って感じでいいネーミングだと思うぞ。

 人間側もヴリコラカス側も初代の王となった者達に対しての敬意からか、代替わりを続けた後も国名は変えずにいる方向で一致しているらしい。


「久々に新鮮な一時を過ごせたぞ。感謝する、リチェルカーレ殿に流離人の皆々方」


 王に送られる形で、俺達は大広間を後にする。リチェルカーレだけ手招きされて何かを伝えられているようだが、内密の話かな。

 昔からヴリコラカスを保護して助けているようだし、その関係の相談でもあるのかもしれない。

 俺達は再びユータレフ伯爵の案内で城の外へと連れ出されるが、そこで待っていたのは思わぬ人物だった。


「あら、わざわざ先回りしたのにあの生意気な黒い女は居ないのかしら?」


 確かアリムと呼ばれていた王の娘――王女だ。どうやら王の間での事を根に持っているらしい。


「そう言えばご挨拶をしていなかったわね。私は偉大なるヴリコラカスの王族、アリム・ラーク様よ! 跪いて崇めなさい人間共!」

「ア、アリム様。そういう選民思想を丸出しにしたり不当に権力を振りかざすのはみっともないとイスナート様が……」

「うるさいわよユータレフ、貴方一体どっちの味方なの?」


 伯爵は止めに入ってくれた。どうやら良識派らしい。父であるイスナート王が良識ある感じだったのに、何故娘はこうなったんだ?


「なるほど。聞きしに勝るお転婆娘のようだ。アタシに用があるんだろう? 聞いてあげようじゃないか」


 いつの間にか現れていたリチェルカーレが話に割って入る。


「来たわね! 父様に、そしてこの私に対して無礼なのよアンタは! 私達は偉大なるヴリコラカスの、しかも王族なのよ! 敬いなさい!」

「敬われたいなら、敬われるような言動を心掛けるべきだと思うんだ。残念ながら、全く君を敬う気にはなれないね」

「あっそ。だったらアンタなんかひき肉にしてや――えっ?」


 アリムが右手の爪を鋭く伸ばした瞬間、彼女の四肢が千切れ飛んだ。

 そして、間髪入れずに飛んできた刀が彼女の胸部を貫き、そのまま吹き飛ばされて大木に突き刺さる。

 一瞬にしてダルマ状態にされてしまったアリムはリアクションが追い付いていなかった。


「……は? え、なに……?」


 四肢切断の上に胸部を貫かれた状態で、アリムは痛みにもがくでもなくキョトンとしていた。

 さすが生命力の強い種族。人間だったら既に絶命しているか、生きていても痛みに絶叫している所だぞ。

 

「とりあえず良い子のみんなには先に宿へ戻っていてもらおうか。頼むよ、フォル」

「……はいはい」


 いつの間にか姿を見せていたフォルさんが、リチェルカーレの指示を受けて魔術を発動。皆の姿がうっすらと掻き消えていく。

 おそらくは空間転移魔術で宿へと移動させられたのだろう。ちょっと待て、俺は……?


「キミは別に良い子じゃないだろう?」

「ひっでぇ」

「これからやる事はデリケートな淑女達にはとても見せられないからねぇ」

「何をやらかすつもりだ、おい」

「さっきさ、イスナートに言われたんだ。後でアリムが襲撃してくるだろうから、キツイお灸を据えてやってくれってね」


 リチェルカーレは刀の柄に右足をかけてグリグリと動かす。胸部を抉られた刃が前後左右に動いて内臓を抉る。

 四肢切断されて身体を貫かれても平然としていたアリムもさすがにこれは痛むのか、苦しむ声を上げる。


「な、なにをするの……。うあっ! ああぁぁ……」

「二度と歯向かう気が起きないよう徹底的に躾をしてやろうじゃないか」

「ふざけんな! 躾けられんのはそっちよ! ヴリコラカスがこの程度で参るとでも思って――!?」


 胸部を抉られながらも強気な姿勢を崩さないアリムだったが、突然言葉を失う。


「なんで? なんで再生しないのよ! ヴリコラカスにとっては手足が千切れ飛ぶくらいダメージのうちにも入らないはずなのに!」

「言っただろう、躾だって。キミ達の再生力を踏まえて再生できないように仕組むくらいはするさ」


 常日頃から再生に頼ってばかりいたのか、再生を封じる敵と当たった事で思考がフリーズしてしまったか。

 俺も死を前提とした戦略に頼り過ぎていたらそれを封じてくる敵に当たるかもしれないから、常に第二第三の方策を考えてるぞ。


「ま、とりあえず自分の浅慮を反省するんだね。頭くらいは破損しても再生できるようにはしておいてあげるからさ」


 そう言って、リチェルカーレは木に打ち付けられているアリムの頭を容赦なく踏み砕いた。

 鼻から上が言葉にするのも躊躇われる程に悲惨な事になってるな。しかし、逆再生でもするかのように頭部が修復されていく。


「お、王女の顔を踏み砕くなんて――ふべっ!」


 うわ、もう一発行った。これは再生と破壊を繰り返すつもりだな。アリムが折れるまで続く嫌がらせだ。

 俺も自身の不死性を確認する際、荒行と称して実に様々な形でリチェルカーレに殺された。

 これは早々に受け入れないとしんどいぞ……。当たり前の話だが、死ぬってのは心身に相当な負荷がかかるからな。

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