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414:次の目的地は

 ミネルヴァ聖教の教皇の娘エレファルーナ・フォン・アザマンディアスを名乗る女神官が映像を配信してからしばし。

 時と共に世界中にその映像が出回り賛否両論となった中、そこへダメ押しとばかりにさらなる情報が舞い込む。

 何処からどのように出回ったかは知らないが、人々が気付いた時にはもう、そのチラシは日常の中でよく見かけるようになった。


『本物のエレファルーナ様が建国を宣言! その名も神聖エレファルーナ教国!』

『移住者、新国民募集! 世の不遇に嘆く者達よ、我が国に集え!』


 一見すると胡散臭いチラシであったが、映像で女神官の絶大なパワーは多くの人間が目撃している。

 そして当人の美しき容姿。極限状況下に置かれた者で、運良く映像を見られた者はまさに女神の降臨を目撃した気分だっただろう。

 その者達は即座に行動に移った。現時点で置かれている状況を飛び出すのはリスクが高かったが、期待がそれを上回った。


 様々な国に存在している貧民街。国によって扱いは異なり、完全に放置されている国もあれば、国の恥部として表に出さないようにしている所もある。

 前者であれば人がどれだけ出入りしようが全く関知されないが、後者の場合は『貧民が外を出歩く事で国のイメージを損なう』と考えている場合も見受けられ、徹底的に中の者達を監視している。

 そんな状況下の者達からすれば脱出は命懸けだ。しかし、映像に触発された者達は一縷の望みに賭けて様々な手法で貧民街を出ようと企てる。



 そしてミネルヴァ聖教に籍を置く神官の中からも出奔する者達が現れ始める。上層部はともかく、下の者達は不自由している事が多かった。

 人助けをするために法力を磨いて神官になったのに、教会勤めとなってからは自由に力を使う事は許されず、大金を支払うような者に対してのみ力を行使する事を許される。

 神官の力を、そういう大金を支払わないと恩恵を受けられないような『奇跡』として印象付け、金儲けの道具とするような腐った上層部が多かったのだ。


 街で転んだ子供を無償で法力治療しただけで厳しく罰せられるような例もある。教会にとっては力の価値を下げる行為だからだ。

 早々に教会の思想に染まってしまった神官は適応していったが、純粋な人助けを望んで教会入りした神官達からすれば、今のミネルヴァ聖教は地獄だった。

 出奔はかなり罪の重い行為だが、映像に映っていた女神官の姿こそを理想と思った神官達にとってそんなものは既に恐怖ではなくなっていた。



 未だに夢を忘れない純粋な冒険者達にとってもこの知らせは大きなチャンスだった。

 昨今の冒険者はビジネスと割り切り、手堅い仕事を無難にこなして普通の職業のように安定した収入を望むような層が増えてきている。

 その一方で昔ながらに夢を追う冒険者も確かに存在する。そんな者達の心を最も躍らせるのは『新規開拓』という言葉だった。


 未知を探索してこそ冒険者。長年封印されていたウナ・ヴォルタという地は、まさに未知が多く眠る地である。

 大航海時代の始まりの如く高まった冒険への欲求を解き放った者達は、今まで籍を置いていた支部をほっぽり出してまで新たな地を目指した。

 その影響で残された冒険者達や支部の方へ大きなしわ寄せが行ったらしいが、旅立った者達からすれば知った事では無かった。



 ・・・・・



 一方、少し時はさかのぼり――

 

 建国をネーテに託した『流離人』の一行は、次の目的地をどうするかとの打ち合わせを行っていた。

 まさか後にネーテが国名を『神聖エレファルーナ教国』と定めて大々的に宣伝し始めるなど思っても居なかった彼らは、早くもウナ・ヴォルタの事から意識が逸れ始めていた。

 小さな町の食事処で腹を満たしつつテーブルに地図を広げた一行は、今まで辿ってきた道を振り返りながら、この先をどう進めていくかを考える。


「この辺りからだと、どう巡るのが良いんだろうな」

「まずは南下してクラティアへ行こうか。レミアにとっては大きな目的地の一つだしね。その後また北上してレリジオーネを目指す感じで」

「クラティアはかつて『さすらいの風』の団長に適合したギフト『ゴルドリオン』が眠っていたヴァルゴ神殿がある国です。今ではそれに肖って団長と仲間二人の眠る墓が建てられていて、生き残ったもう一人がそこに留まり墓守をしつつ暮らしています」

「かつてのメンバーとの再会と墓参りか。それは是非とも果たさないとな」


 地図で見ると、クラティアはまさにギリシャの辺りに位置している。レリジオーネはイタリアの位置だから、確かに一旦南下してクラティアに行った方がいいな。

 エレナがミネルヴァ聖教に宣戦布告したとは言え、別に決戦の日時を指定した訳でもない。レリジオーネまでは特に急ぐ必要もないだろう。

 もしかしたら刺客を放ってくる可能性もあるかもしれないが、慢心する事なく警戒する事としよう。未知の強者が居る可能性も否定できないしな。


「クラティアは沢山の古代遺跡があって、未だに探索しきれていないダンジョンや塔もあるんですよ」

「底に辿り着かれていないダンジョンと登頂しきれていない塔は挑戦者達が引っ切り無しに挑み続けています。特に塔の方は空から行こうとした者も居たようですが、不思議な力によって阻まれています」

「正攻法しか許さないという事か……。俺達も挑めるものがあったらダンジョンも塔も一つずつくらいは挑んでみたい所だ」


 場所によってはダンジョンにランクを定めて、冒険者の入場制限を設けていたりするからな。

 未熟な冒険者達がランクに見合わないダンジョンに入って死んでしまうのを防ぐためだ。油断すれば下位ランクのダンジョンですら死ぬのに、上位ランクに挑むのは無謀にも程があるからな。

 また、唐突にランクに見合わないような怪物や高難度のトラップが発見されたりすれば、当然ながら定められていたランクは変動する。


「最終手段としましては、私がSランクのカードを提示すれば何処へでも行く事は出来ますが……」


 レミアがかつて所属していた『さすらいの風』時代の冒険者カードか。最高位のSランクともなれば、言わばフリーパスのようなものだろう。

 パーティとしてはBランクだが、冒険者カードは個別に所有できる。仲間内に一人でもSランクが居れば、他の者達がSランクでなくとも恩恵を受けられる。

 俺達も旅の過程でSランク到達を目指しても良いが、Bランクまでとは違ってそれ以上の昇格は色々と条件があるようだからな。


 今までの試験と同じように与えられた課題をこなす他、こなした依頼の数やギルド幹部達による承認が必要なんだったか。

 受けられる恩恵は多くなるが、同時に縛りも多くなるだろう。レミアの場合は世間的には失踪扱いになっているが故の裏技とも言える。

 大々的に復帰が知られたら国家レベルの依頼が転がり込んできてもおかしくない。それほどSランクの信頼は高い。


 そういう依頼をパーティメンバーとして共にこなせば、冒険者として昇格はしやすくなるだろう。

 だが、間違いなく旅は途中で止まるだろうな。以前に聞いた話だと、依頼を達成するまでに長期間を要するものもあるらしいからな。

 あくまでも旅の途中でどうにか出来る程度の依頼に止めておきたい所だ。俺は冒険者登録をしてはいるが、旅人のつもりだ。


「クラティアへ行くまでにいくつか国を通るんだろうが、名物とか名所はあるのか?」

「この地方はワインが美味しいんですよ。国を挙げてワイン製造に力を入れている所もありますし。特にアヴォドロム、アジラグラーヴと言った国は顕著です」

「ネグルーヴ・ネンヴェイスと言う国には知る人ぞ知る希少種族が居るんだ。数が少ないからか滅多に表に出てこないけど、個々の身体能力はそれこそ魔族にも引けを取らない程に強靭で凄まじいパワーを秘めてる者達さ」

「どうせ、その希少種族にも知り合いが居るってんだろ? ワインを堪能するついでに会ってみたい所だ」

「お察しの通りさ。ぶっちゃけ、母様が庇護している種族だからね。彼らを悪い形で利用させないために守ってるんだよ」


 ……どうやら、クラティアへ行くまでの間も色々とありそうだ。

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