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413:新たな国を興そう

 俺達はそれぞれの場所での活動を終え、石碑が建てられている中心地へ戻ってきていた。

 実は戻ってきてから数日が経過しており、その間に何とウナ・ヴォルタに新たな国を興そうという話になっていた。

 せっかく土地を奪う事を決めたのだから有効活用しないとね――とは、リチェルカーレの談である。


 その一環として、石碑が置かれた場所には石畳の広場が作られた。

 さすがに石碑を壊すのは忍びないので、広場のモニュメントとして置いておく事にした。

 とは言え中心部に置いたりすると邪魔なので、正面の中心辺りに据える事に。


 言わずもがな人間技で短期間に建設するのは不可能なため、大半は精霊達の力を借りて建設している。

 地の精霊パチャマの力で土壌と石材を用意し、木材はククノが担当。風の精霊アウラの力で飛ばして一気に配置。

 レンガなど加工が必要な建材は火の精霊ウェスタが、水路などは水の精霊ヴァルナが担当していた。


「うおぉぉぉぉぉ! 水路造りなんて熱く燃える作業だぜっ! こんなに心の炎が滾る役目を与えてくれるなんて、さすがは御主人様だな!」


 火属性のような事を言いながら冷たい水を生み出して水路を満たしていくヴァルナ。


「レンガの製造はただ焼けば良いというものではありません。常に氷の如く冷静かつクールに、適切な温度で慎重に焼かなければ……」


 対照的に水属性のような事を言いながら高熱の炎で土の塊を焼くウェスタ。

 俺が契約している精霊達の中でも、特に水と火の精霊は性格と属性が真逆という変わり種だった。


「わたし達は属性でやる仕事が無いから、みんなのお手伝いだね~」

「ちょっと寂しいけど、仕方がないんじゃないかな。建築で光を使う機会ってあまり無いから」

「光は建材の乾燥とかに使えるじゃん。闇の方が出番無いよ……」


 雷の精霊ワイティ、光の精霊ミスラ、闇の精霊タルタに関しては、現在己の力を使う出番がないため普通に手伝いをしている。

 当然だが精霊達に任せきりにするのではなく、俺達もちゃんと建設に参加している。特にルーは闇の精霊達を使役しており、まるで現場監督のようだ。

 魔術や法力と言った力を駆使する事で、本来なら重機など大型の機械を必要とするような作業も問題なくこなせている。



 ドゴオォォォォォォォ……



 大地を振るわせるような爆発音。あー、これはリチェルカーレが言っていた『脅し』をやったって事だな。

 彼女は今、近隣諸国の王侯貴族が集う会議にメッセージを伝えに行くために出張っており、その過程で皆を脅すために大きな爆発を起こすと言っていた。

 あくまでも脅しなので、仕掛ける地域の一帯にはちゃんと結界を張っており、その上で爆発を起こすから実際のダメージは皆無との事。


 俺達の居る場所からは距離が離れているから、爆発が見えて音が聞こえても衝撃波まではやってこない。

 核爆弾を落としたりするとあんな感じなのだろうか。過去に戦地を取材してきてはいたが、さすがに戦時中の核爆弾は体験していない。

 人一人であれ程の破壊力を生み出せるこの世界は色々な意味で恐ろしいな。下手したら、俺自身もそうなれる可能性がある。


「とりあえずこの広場と、この地の象徴たる城を作る所から始めるんだったな」

「お城ともなると、いくら精霊の力を借りるとは言ってもそれなりの時間はかかりそうよね」


 ウナ・ヴォルタの地に新たな国を興す。その中心となるのは、映像で大々的に宣言したエレナである。

 教団の聖女を偽者と糾弾した本物の聖女が、それに立ち向かうための国を作り上げる。いわばミネルヴァ聖教に反抗するエレナを象徴とした一大拠点。

 向こうが世界規模の一大宗教であるなら、こちらもそれに対抗するに足る規模の勢力を造り上げておこうという事だった。


「とは言え、いざ教団へ攻め込む時は少数精鋭で行くつもりなんだよな」

「まともに正面からぶつかってしまえば、双方の陣営共におびただしい数の人々が犠牲になってしまいますからね」

「勢力を作り上げるのは第三者からの印象を考えての事ですね。数の多さは支持の多さにも繋がりますし」


 まだファーミンに居た頃は鞍替えした信者から持ち上げられる事をあまり良く思ってはいなかったようだが、さすがに現在は腹をくくっているようだ。

 ファーミンには既に気の逸った者達が神殿を立ててしまっているが、そこはアンゴロ地方を担当する『支部』の一つとして使う事にするらしい。

 これから建設する城、併設する大聖堂。そしてちゃっかり俺達が活動の拠点とする屋敷も用意しておく事になった。いわば建設者権限でやりたい放題という事だな。


『妾の好きな和国風の建物も作りたいのじゃ! いっその事、和国街と称して作ってしまうかの』


 そんな事をつぶやくククノの言葉が発端となり、将来的には様々な文化が混在した国が造り上げられる事になった。



 ・・・・・



 それから数日。通常の建設速度から考えれば尋常ではない程の速度で様々な建築物が仕上がっていく。

 最初に建てる目標だった城は勿論、大聖堂や俺達の拠点も早々に完成。中心街となる部分の建物もいくつか出来ている。

 その間にウナ・ヴォルタの浄化を知った人達が次々と訪れ、驚きと共に新しい国の立ち上げを知る事となった。


 やがてはこの国への移住を望む者達も現れ始めたが、条件として『ミネルヴァ聖教からの離脱』と『街の建設を手伝う事』を出させてもらった。

 宗教に関して深い信仰のあるこの世界においては前者の条件は厳しいかとも思われたが、貴族や金持ちを厚遇し庶民に対しては厳しい一面があったためか、意外にもすんなりと鞍替えする希望者が多かった。

 建設に関しては現場での肉体労働のみではなく、町の運営などの政治面や工具メンテナンス、炊事や宿泊施設など裏方の仕事も沢山ある。


「んー、ずっとかかりっきりだとアタシ達の旅が止まってしまうから、そろそろ引き継ぎを用意した方が良さそうだね」

「確かにな。町の建設というのも新鮮ではあるが、やっぱ旅を続けて色々な場所を見て回りたくはあるな。だが、引き継ぐ相手は居るのか?」

「心当たりはあるよ。と言うか、君も何となく察しが付くだろうけど」


 察しが付く……あぁ、なるほど。ご愁傷様です。俺は心当たりのある人物に、心の中で合唱するのだった。


「いきなり呼び出されたと思ったら『国を運営しろ』ってなんですか! ツェントラールの魔導師団長の職はどうするんですか!?」

「まぁまぁ、今は統一国エルガシアになってるんだし、エルガシアの魔導師団として再編して、全部ベルナルドにでも任せたらいいんじゃないか?」


 向こうの承諾も無しにいきなり呼び出されたのは、ツェントラール魔導師団長のネーテさんだ。

 本人自身が憤慨していた通り、魔導師団長という役を担っている最中に「国を運営しろ」などと言われるのは余りにも無茶振りが過ぎる。

 ついでにエルガシアの魔導師団を全部一纏めにして管理する役割を押し付けられる事になっているベルナルドさんもご愁傷様だ。


「はぁ……。で、まず何からどうすれば宜しいんですか?」


 ネーテさんは幾度もの体験からリチェルカーレの無茶振りは知っているので、今更どう覆りようも無いと悟って役割を受け入れる事にしたようだ。


「じゃあ、これからその辺の打ち合わせをしていこうか。あと、必要な人材は心当たりある中から自由に引っ張ってきて良いからね」


 リチェルカーレの提案は、つまりネーテさんの置かれた状況下に他の者も巻き込んでしまえという事だ。

 ネーテさんがどんな人材を引っ張ってくるのかは正直興味深い。さすがに魔導師団を押し付けたベルナルドさんまで引っ張ってくるような事はしないと思うが。

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